第8話 アルターリ奪還作戦その4
「第一小隊、撃てっ!!」
指揮官の号令に続けて魔法の一斉掃射。火炎と雷撃が敵部隊の最前列を飲み込んでいく。閃光と轟音。遅れて魔族たちの断末魔が響く。
燃え盛る業火を貫いた投槍が兵士に突き刺さる。応射として放たれた無数の槍と弓矢が今度は人間たちの絶叫を作り出す。
《エオリエルの盾》を巡って魔族の強襲部隊と人間の作戦部隊が苛烈な戦闘を繰り広げていた。
第一方面軍の作戦部隊は中央に《エオリエルの盾》と技術班を置いた円形の陣形を取っていた。中央から順に魔術師部隊と前衛部隊が囲んでいる。今はその一部と敵部隊が接触している状況だ。
一方で魔族側は前列に前衛、後列に魔術師という布陣は同様に、悪魔族や淫魔族といった有翼種族を空中から向かわせようとしていたが、人間側の魔術師による射撃攻撃の前に《エオリエルの盾》に接近することができずにいた。
しかし空中からの襲撃に対応すればその分、前衛への援護が減る。その間に魔族側が戦線を押し上げる。少しずつ作戦部隊は追い込まれていた。
「くそ、やはり数の差があるかっ!」
作戦部隊の指揮官であるファリムが忌々しげに吐き捨てる。敵部隊の総数が想定よりも多い。
接近を先に察知していたために陣形は整えられたが、護衛目標があるせいで全方位に対して警戒しなくてはならないことも数の不利を加速させていた。
「隊長、やはり後方から増援を回した方が!」
「ダメだ! 空いた部分から入り込まれて《エオリエルの盾》を破壊されたら我々の敗北だ!」
副官のルクミカの提案は即座に却下。陣形を変えればそれこそ相手の思う壺だった。
フェルミットを呼び寄せることも難しい。化け物には化け物の役割がある。
「相手の主力をあの化け物に押さえさせているのだ……軍人の誇りにかけてもここは勝たねばならん……!」
「なら、それなりに無茶はしなきゃならんでしょうね」
「アステラ、どうするつもりだ?」
ファリムの傍らに軽装甲の鎧を着た若い騎士が立ち並ぶ。
「拮抗の原因は互いの射撃能力がほぼ同等であることが原因です。ならば、敵魔法攻撃部隊を減らすことができれば、まだ何とかなるでしょう」
「しかしそのためには接近する必要があるぞ」
「そのとおり。なので、俺の部隊を撃ち出してください」
「お前、本気か!?」
アステラの案にファリムが信じられないといった表情となる。
魔族と違い人間は未だに飛行魔法を完成させられずにいる。そのため空中での戦闘や上空からの奇襲といった戦法は取れない。
しかし、砲弾や爆薬を撃ち出すための魔法ならば存在する。それを使って自分たちを敵部隊の真っ只中に飛ばせ、とアステラは言い出していたのだ。
「本気も本気ですよ。それが一番可能性が高い。仮に我々が敵陣地内で死んだとしても、我々が戦っている間に他の部隊が前進できるでしょう」
「相変わらず無茶をする……!」
「何、これでも以前までは最も戦果の多い男だったんでね」
指揮官が青ざめるような作戦に、アステラは全く恐れる様子がなかった。
「分かった。いいか、死ぬなよ!」
「もちろん。きっちり仕事してみせますよ」
ファリムに答え、アステラは戦場とは別の方角を見やる。上空で暢気に戦っている現在の英雄を。
「……見てろよ」
その呟きは誰にも聞こえなかった。
魔族の魔法攻撃部隊は多様な種族で構成されていた。
主には先天的に魔力の多い淫魔族が多いが、魔族であればどの種族であっても魔法の扱いには長けているために、他の種族も多く含まれていた。統一感のない人員構成は全員が長衣を着て揃える人間の部隊の光景とは大きな違いがあった。
部隊の最後方に立つ
「報告します。この都市に広がる
「都市を奪還することが目的、ということか。思ったよりも厄介な状況だな」
指揮官である
「何、敵襲だと!?」
「て、敵は空から落下してきたようです!!」
「空から!? まさか『勇者』か、ベルゼトスは何をしている!?」
突然の奇襲に慌てふためく魔法攻撃部隊の中に、アステラの姿があった。
「『勇者』なんかじゃねえよ間抜けどもっ!!」
後衛の中心に降り立ったアステラとその部下たちが次々に魔族たちを切り払い陣形を突き崩す。
「くっ、下がれ! 一旦下がって」
「前衛の陣形も崩壊しています! 降下部隊と本陣からの魔法攻撃で挟撃にあったようです!」
「なっ……」
絶句する魔族の指揮官の前に、魔法攻撃部隊をくぐり抜けたアステラが迫る。
「よう、お前が指揮官か?」
「……よくここまで来たな」
「人間風情が、中々やる。だが、そう簡単にいくと思うなよ」
「簡単じゃなくていいさ。そうでなくちゃ面白くない」
アステラが前進して剣を振り下ろすのと同時に
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