フクロウ喫茶ごろすけ ☆主人亡き後も営業中☆

軽見 歩

幻のフクロウ喫茶に潜入!

 

 フクロウ喫茶ごろすけ、あるご老人が定年退職後にはじめたと言われる山奥に建てられた小さな喫茶店


「本当にこの先にあるんだろうな・・・」


 私はその喫茶店を目指し、一人薄暗い山道を進んでいた。その喫茶店は初めはフクロウなどはおらず普通の喫茶店だったのだが経営が芳しくなく、店の起死回生の切り札としてフクロウを飼い始めたと言う


「まったく、経営に困るくらいなら…、こんな山奥に店なんて建てるなよな!」


 その切り札であるフクロウは賢く人気を集め、店は経営は良好になり息を吹き返したのだが・・・、ここである誤算が起きた。主人の方が老衰でお亡くなりになったのである


「ここか?」


 その喫茶店も当然主人と一緒に潰れると思うだろう。だがその店が主人亡き後も営業していると言う都市伝説的な噂が流れていた。その確認に為に俺はこんな山奥にやってきたのだ


「うわぁ・・・、雑草だらけじゃん」


 その喫茶店と思われる建物はツタがまとわりつき雑草で覆われ、まさに廃墟と言った感じだった。だが問題ない俺は廃墟も好きだ


「よいしょっと」


 俺は雑草をかき分けて入口の扉まで進み、その扉に手をかけた


「いらっしゃい・・・」


「あ、はい」


 店の中に入るとマスターが客にコーヒーを注いでいた。店は噂通り営業されていた様だ。コーヒーを淹れ終わりマスターはこちらに首を向けて言う


「1名様ですか」


「えっ、ええ、まあ・・・」


「ではカウンターの席にご自由にお座りください」


「はい、どうも」


 マスターに案内されるがまま俺はカウンター席に座った


「ご注文は?」


「え、えーと・・・、本日のオススメセットを」


「かしこまりました」


 俺の注文を聞いたクールな…、と言うより表情を読めないマスターは、しっかりと着こなした専用にあつらえたと思われる白いシャツと、黒のベストに赤い蝶ネクタイ姿で準備を始めた


「あの、マスター?」


「はい、なんでしょう」


「お一人なんですか?」


「ええ、前の主人が亡くなってしまわれまして、私1人でこの店を切り盛りしています」


「そうなんですか、大変ですね」


 聞きたいのはそう言う事では無いのだが・・・。うん、やっぱりそうだろう、このマスターは・・・・、どう見てもフクロウだ


「どうやって仕事を覚えたんです?」


「私がこの店に来た時には主人はもう身体を崩されてまして。動けない主人を色々と手伝っている中に少しづつ仕事を学ばせてもらいました」


 おい主人、フクロウ飼った時点で既に虫の息じゃねえか。なんでそんな状態で鳥飼ってまで喫茶店続けようと思ったんだよ


「それでも、大変でしょう。その、色々と」


 フクロウが喫茶店やってるんだから楽な訳がない


「そうですね・・・、私は見ての通り手が不自由ですから」


「手が不自由!?」


 そうか!冷静に考えてフクロウが喫茶店なんてやっているわけがない! これは事前に聞いた噂のせいで幻覚を見ているんだ! 実際に亡くなったのはフクロウの方! 今!俺の目の前にいるのは主人だ! そうに違いない!!


「細かい作業は足を使って行っているの次第でして。店の周りの雑草も手入れ出来ない有様」


「そうなんですか・・・・」


「はい。ですが辛くはありません。私には腕の代わりに天から与えられた、この翼が有るのですから」


 こいつやっぱりフクロウだ・・・。前の主人、死の間際にとんでもない切り札を店に残していきやがった


「ちょっと失礼」


「あ、はい」


 マスターは静かに飛び立ち、コーヒーとトーストをテーブル席に運んで行った


「え!?」


 ちょっと待て! よく見てなかったが、今どうやって運んだ!?


「お待たせいたしました」


 席の方を見ると中が段になっている鳥籠とりかごの中にコーヒーとトーストが入っていた。アレで運んだんだろう。マスタ-その鳥籠を開けて中の物を取り出そうとしていた


「マスター、自分で取ります」


「恐れ入ります」


 テーブル席の客が自ら食事を取り出している、流石にフクロウにそこまでやらせるのはいかないのだろう。そういえばマスター種類は何なのだろう? もしかして雑種?


「あのマスター」


「はい」


 マスターは首をぐるりと回しこちらを見た。少しギョッとしたが構わず質問しよう


「マスターの、その・・・、お生まれは?」


「日本ですが?」


「いえ、あの・・・。ご両親は?」


「ああ。私はオランダとアメリカとの間に生まれたと聞いています。密猟されたわけではありませんのでご安心を」


 やっぱり雑種かと思っていると、マスターは鳥籠を持って戻って来た。そして俺に注文した物を出して来る


「どうぞ、本日のオススメセット、ブレンドコーヒーと木の実のパイになります」


 この木の実、まさか山の中を自分で取って来た訳じゃあるまいな!? と疑ったが勇気を出し、ひと口食べてみる事にした


「いただきます・・・。モグモグ・・・」


「いかがですか?」


「とても美味しいです」


 本当に美味しいかった


「よかった。人間の口に合うか少し不安だったのですが」


「やっぱり自分で取って来やがったのか!?」


「ははは! 冗談ですよ。ちゃんと契約農家から取り寄せた物です。日本には自生していないものも入っているでしょう」


「そうなパッと見分かりませんよ!」


 マスターは首を傾げてこう言った


「パット見、パイだけに?」


「違います! それに上手くもありませんからね!」


「ははは! そっちの味付けは失敗しましたか」


 何なんだこのフクロウ・・・、と思っていると新たな客が入って来て大声でマスターを呼んだ


「ごろすけちゃん!久しぶり!」


「お久しぶりです、マダム」


 ごろすけってマスターの名前だったのか。どうやらなじみの客らしいから俺は大人しく見学していよう


「今日はごろすけちゃんにお見合いの話を持って来たの」


「お見合いですか」


「そう! 一人身じゃ色々と大変でしょう」


「はい、それはまあ・・・」


「それで写真持って来たのよ! フクロウ喫茶に務めてる娘でとってもいい子よ! 私気に入っちゃったから最近通ってるの! どう?」


 そういってマダムはマスターに写真を見せた、当然写真に写っているのはフクロウなのだが・・・・、様子からしてマスターの好みでは無かった様だ


「すみませんマダム。私の好みでは…」


「そう、残念。いい子見つけたらまた紹介するわね!」


「いえ、私はフクロウより人間の女性が好みなので」


 なんですと!?!? 俺は混乱したがマダムは動じる様子もなくこう言った


「あら、刷り込みをさせられると人間を性の対象として見るって話は本当だったののね」


 そうなの!?


「まあ、そう言う事でしょうね」


「そう。なら私なんてどーう? ふくよかさならフクロウにも負けてないと思うけど?」


 何を言い出すんだこのマダム!?


「ははは! フクロウに近すぎて私の好みではありませんね」


 このフクロウもノリノリかよ!


「あら、やだぁ。も~、ごろすけちゃんたら!」


「注文はいつもので?」


「そう!お願い」


「かしこまりました。ナポリタンですね」


「ごろすけちゃんの作るナポリタン美味しいから、つい食べ過ぎちゃうわ」


 ナポリタン? え、マスターが作るの?


「しばらくお持ちを」


 そう言ってマスターは全自動製麺機に小分けにされた材料を入れパスタを作り、すでに切り分けてい有る具材と共にパスタを中華鍋に投入、火をつけて片足で器用に中華鍋を回し、もう片足でケチャップを絞り出しながら調理を始めた


「ホー!ホー!」


 マスターは人語を忘れる程熱中し、その姿はまさに炎の中で戦う毒蛇と鷹の様だった。流石にこれはマズいだろう


「マスタァアー!無理しないで!」


 叫ぶ俺をマダムは涼しげな顔で止めて言った


「大丈夫よ、まだ喋れない頃から作ってるんだから」


 優秀過ぎだろうこのフクロウ!! しかし出来上がったナポリタンは確かに美味そうだった


         ・

         ・

         ・


 俺は店を後にし下山して、適当な焼き鳥屋に入ってビールを飲んでいた。今回あの喫茶店の真相を確かめブログに乗せるつもりだったが店内は撮影禁止、店の情報も口外しない事があそこに訪れる客のルールらしく断念した


「まあ…、そうだよな」


 あんな店が世間に露見したものならマスターが保健所に連れていかれない。・・・その他にも問題は色々とあるだろうが、もしカルト的な連中に捕まったら解剖されてしもうかもしれない。それは流石に俺も目覚めが悪い、あの喫茶店の事は忘れよう


「まあ、良っか。ネギマをタレでお願いします」


「はいよ!」


 俺が注文した後、新たな客が入って来て隣に座って話し掛けてきた来た


「おや? お客さんこんな所で会うとは奇遇ですね」


「マスター!?」


 マスター普通に店に来てる!? しかも焼き鳥屋! 確かにフクロウは肉食だけど!色々まずいだろ! しかし焼鳥屋の店主は気にしていないようだ


「今日もお疲れごろすけ! いつものかい?」


「ええ、お願いします大将」


 しかもマスターの馴染みの店なのかよここ!




END

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フクロウ喫茶ごろすけ ☆主人亡き後も営業中☆ 軽見 歩 @karumi

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