第69話「とうとう太鼓を打ち鳴らして追い出してしまった」
ミョンの
――斬ると焼くを同時に喰らわせる事で、痛みを絶対のものとする!
もっと格の高い精剣であれば、この刀身に
スキル自慢をすると、そのレアという格が常にミョンの中で
7つある格の内、下から3番目というレアは、決して高い書くとはいえない。
――力……力だ!
故にミョンは
――この世は弱肉強食! それを否定する事は、摂理を否定する事になる!
縋るのだから、インフゥが口にした否定など、ただのへりくつだと断じるしかない。
――威力の高いスキルを持った精剣は、俺がのし上がるには必須!
力は絶対でなければならないのだ。
――名をもらい、騎士となって城勤め! シュティレンヒューゲルを踏み台に、天下一の男となるのだ!
その望みを叶えるために、ミョンが根底に持つ考えは弱肉強食以外にないではないか!
インフゥとミョン、互いに互いを否定する二人が精剣を構えると、奇妙な静寂が訪れた。
ミョンに構えはなく、だらりと片手で剣を下げて持つ。
――変幻自在の自然体だ!
上下左右、どの方向へも剣を振るう事ができると自負するミョンに対し、インフゥは胸の前に揃え、バウンティドッグを両手持ちにする。
――重心は低く、爪先立ちにならない。
インフゥが口の中で繰り返しそうになるが、歯を食い縛って言葉を押し殺した。力を出すなら歯を食い縛らなければならない。
ファンの教えは胸中で繰り返す。
その教えと、バウンティドッグを通してフィードバックされるホッホの感覚がインフゥの命綱だ。
静止は沈黙を呼び、大公や貴族の沈黙は緊張感を高めていく。
その緊張感が期待させるのは、ひとつ。
――勝負は一瞬でつく、か……!
大公も意識せず拳を握っていた。この雰囲気には、事の善し悪しに関わらず、憧れるものなのかも知れない。
ミョンの切っ先が動いた。
一度でも動かせば切っ掛けとなる。
そして動き出せば、もう一度の静止はない。
――お前の突きと、俺の斬撃、どちらが速いか、勝負だ!
体勢を低くしたインフゥの技を、ミョンは突きだと考えていた。突きというならば、孤を描く斬撃で対抗するには不利を抱える事になるのだが、バフによって強化された精剣の攻撃力が補ってくれると
――分の悪い賭けは、嫌いじゃない!
そんな言葉とは裏腹に、ミョンは分の悪い賭けなどとは思っていない。
――犬のお前に、狼の牙をくれてやる!
弱者――野良犬に、強者――狼の牙が敗れるはずがないからだ。
――賭けか!
その雰囲気をホッホの感覚が捉え、インフゥに伝えた。
勝敗を分けたのは、ここだった。
ミョンは賭けた。
だがインフゥは賭けなかったのだ。
ミョンは突きだと思ったが、インフゥが狙ったのは突きではなく入身――踏み込みだ。
「!」
突いてこなかった事を、ミョンは幸運と感じた以上に、インフゥが馬鹿だと思ったはずだ。
――五分の条件だろうが! それが状況に適した答えか!
嘲笑と共に精剣が振り下ろされる。刀身に宿る炎は一層、勢いを増していく。
だが手応えは、そんな精剣の勢いとは裏腹だった。
――何……?
思わず
その理由は、インフゥの体勢だ。
飛び込んだインフゥの体勢は、犬のように低かった。
――剣の切っ先は、振り下ろされて行くに従って威力を失っていく。殺傷力を持つのは、精々、脳天から股下までだ。
これもファンに教えてもらった。
犬と同じくらい低い体勢を取れるならば、ミョンの剣はバフによる支援があっも、インフゥに致命傷を負わせられない。
そして犬の狩りとは、相手の急所を捉える絶対の一手を取る。
インフゥに宿るホッホの感性が、それを可能とした。
「ッ」
歯を食い縛っているため、
「勝者、赤方! インフゥ!」
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