第5話 炎の魔法使い
水沼英二が焼死体として発見された前日、嵯峨野正隆の姿が水沼英二の自宅付近で確認された。
駅などに設置されていた防犯カメラなどから判明した事実だ。
それ以外にも一ヶ月前、二ヶ月前にも嵯峨野正隆の姿が防犯カメラにはしっかりと写り込んでいた。
だが、水沼英二を自宅から連れ出したり、水沼英二の自宅に何かを運び込んだりした形跡はなかった。
状況からは水沼英二を屍蝋化させたという説は微妙なような気がするものの、俺には流香の推理が正しいと思えてならない。
裏付けできる物が皆無なのが寂しいところではあったが。
ついで言えば、嵯峨野正隆の部屋からは赤い宝石も、アルコールも発見はされなかった。
流香が言う通り、人体自然発火のために賢者の石を使用したため、消滅したのかもしれない。
水沼英二については友人が皆無であったため、ここ数ヶ月の行動が全く掴めなかった。
気になる事実として、数ヶ月前に銀行口座に一千万円が唐突に振り込まれていた。
それがどこから入手した一千万円かまでは特定できなかった。
もしかしたら、嵯峨野正隆を脅迫して得た金なのかもしれない。
嵯峨野正隆は脅迫されていたから水沼英二を殺して、自殺したとも想像できる。
しかし、何をネタに脅迫していたのか不明なため、俺の想像の域を出ない話ではある。
点と線が結べない上、事件に関する証拠がほとんどないため真相は闇の中だ。
おそらくはこのまま迷宮入りするのだろう。
俺はぼんやりと事件の事を考えながら、スマホを手に取って起動させる。
なんとなくではあったが、例の動画以外の嵯峨野正隆を探した。
タイトルからして気になる動画があったので、俺はそれを流すことにした。
『私が魔法使いである証明として、あちらの建物を即座に燃やしてみせましょう』
動画が始まって一分くらいした頃に、手品師のようにタキシードを着込んだ嵯峨野正隆がにこやかにそう言った。
するとどうだろうか、しばらくすると、嵯峨野が指し示した家から炎の柱が上がった。
本当の魔法なのだろうか?
それとも、流香が言っていた賢者の石を使って燃やしたのだろうか?
いや、どうしようもない手品のようなトリックの線も捨てがたい
俺には見破る素質がないから全くもって分からない。
今回の事件と同じように。
俺はこの動画のタイトルをもう一度見た。
『炎の魔法使い・嵯峨野正隆』
もしかしたら、嵯峨野は炎しか操れない魔法使いだったのかもしれない。
炎の魔法使い ~ 怪異譚は眼帯の巫女とたゆたう ~ 佐久間零式改 @sakunyazero
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