まずは魂を売り飛ばせ
行方不明になった仲間を探してほしい
胸いっぱいに荷物を抱える子どもたち、大所帯を引き連れ館に帰ると夕されば仕事のあとの一杯――といっても牛乳だが――を子どもたちに振る舞った。
「育ち盛りは腹を空かせちゃいけない」
さあ食え、ちびっこども、というアルルの号令のもと、書庫の卓に総菜を広げて手軽の晩餐としゃれこんでいると、隣の応接間から知らない大柄の男と一緒にリドルとユアンが出てきた。留守にしているあいだに来客があったようだ。
客の見送りを終えてこちらに戻ってきたふたりに、アルルは指についた麦飯をぺろりと舐めながら尋ねた。
「依頼人?」
「うん。一四五番迷宮で行方不明になった仲間を探してほしいそうだ」
「一四五番というと洞窟型か。さほど広いところじゃないけど」
「先方の話を聞く限りだと、女性がひとり、迷宮の袋小路から消えたことになる」
「へえ、密室からの消失か」
「まだそうと決まったわけじゃない。実地に調べてみないと」
「仕事を引き受けるのかい」
「そのつもりだけど、どうも依頼人にきな臭いところがある。組合の〈保険〉にも入っていないし、迷宮もぐりの動機をあんまり語りたがらなかったからね。なにか事情がありそうだ。ただの失踪とは思えない」
「じいさんとこに裏を取らなきゃ」
ラビは甘辛の大学芋を頬張りながら居住まいを正した。うずうずと気色ばむのも無理はない。これがラビの初仕事になるかもしれないのだ。やる気は十分といったふうの新人にアルルは尋ねた。
「一四五番はところどころ魔封石があるうえに、素早い魔物も少なくない。本音をいえば接近戦に応じられる最低限の身のこなしを叩きこんであげたいところだけど、あいにくとその付け焼き刃の時間さえ取れなさそうだ。それでも行くかい?」
「はい」
「よろしい。そういうわけでラビも一緒だからね」
リドルはうなずき、薄い経木(きょうぎ)をはいで五目のおにぎりにかぶりつく。
「まずは下調べかな」
懐から平たい玻璃(はり)を取り出した。背丈の異なる男女ふたりの写真が写るそれを錬金術によって鉛のかけらと練り合わせ、リドルはみんなが見やすいように大きい水晶に組み替えた。
「食事中に失礼……この写真の人たちに見覚えのある子はいる?」
水晶を下町の子どもたちの前に差し出すと、子どもたちはそれぞれ総菜を手にしたまま顔を見合わせたり小首をかしげたりしていたが、長椅子の端に座るエルフふうの少女がそれに写る女の笑顔に見入りながら答えた。
「こっちの背の低い女のヒトは知ってる。キヌの栴檀亭(せんだんてい)にちょくちょく出入りしてたから。給仕のマーシアから、ナンナと呼ばれてた気がする……」
「キヌの栴檀亭か」
写真の男女について、他になにか心当たりがあるか子どもたちに尋ねてみたけれど、どうやらそれ以上の進展は望めそうになかった。
アルルが海老のてんぷらを殻ごと食べながら少女に尋ねた。
「その給仕のマーシアというのは大人の女だよね」
「うん。エルフの血が混じった感じの」
「よし」
アルルはぐっと拳を握った。その様子に渋面を浮かべるリドル、それまで子どもたちの世話を買って出ていたユアンを交互に見やり、
「色男たちの出番だね」
アルルは指をぱちりと鳴らしてみせた。
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