呪いを解く鍵

 アルルによれば、自力で呪術そのものを解くことはすでに試したらしい。係る魔術の紋を紐解いて逆読みしようとしたが、鍵が幾重にもかかっているうえ、その先には罠の気配があった。無理に壊すか読もうとすれば、どうなるかわからないそうだ。


「ぼくはまだこの世界に未練がある」


 探偵は湯呑の茶をすすり、


「だから〈一番ノ魔女〉を見つけ、呪いを解く鍵を渡してもらう。ことによったら解かせる。きみにもそれを見つける手助けをしてほしいんだ」


 ラビはこくりと生真面目にうけがった。


「その〈一番ノ魔女〉につながる手がかりを見つければいいのですね」

「うん」

「探すのはやぶさかではないですけど、特徴などの詳しい当てがないと。どういう方なのでしょうか。話を聞く限りだと、リドルさんの知り合いのようですが……」


 リドルは思いきり顔をしかめ、そっぽを向くと居間を出ていってしまった。失言だったろうかとラビがどぎまぎしていると、アルルが苦笑して手を振った。


「気にしないで。字が読めない時期は不機嫌になりがちなんだ。魔女の話は語りたくもないし聞きたくもない。いじけているだけだから」

「そうなのですか」

「大人ぶっているけど根は子どもっぽいんだ。男ってみんなそんなもんだろ」

「確かに」


 ひとしきり女ふたりは笑い合う。


「そんで〈一番ノ魔女〉のことだけど、あのヒトの風体をざっくりいえば……性別は女、神出鬼没で変装の達人。声帯模写なんかもうまい。傍目には話をおもしろがり、その実は人心の裏を食らいたがる。媚びを売りたがりの佞人(ねいじん)だ。基本的にはミナミの街をうろついている、そのことは間違いない」

「この街に?」

「いるときもある」

「あの話しぶりだと、てっきり迷宮に隠れているものとばかり」

「ミナミの迷宮を含めてどこにでも現れる。まあ、兄さまはあのヒトに目の敵にされているからサ、しょっちゅう手玉に取られて……さぞかし業腹なんだろうなあ。ちょっぴり羨ましい限りだよ、あれは」


 そういって頬杖をつき、横を向くアルルの表情はどこか陶然としていた。不機嫌そうに居間に戻ってくるリドルを見つめているのだった。


「アルル、書架から辞書を取ってくれないか。古ければなんでもいいから。ぼくはもう字が読めなくて、表題が……」

「ほいきた」


 アルルは微笑み、ラビを手招いて書庫に移動した。

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