第4話 純血

「僕は一体どうなってしまうんだろう。と思っているね。」

 みちるが、はじめて僕に話しかけた。

 なんだか気持ちが悪い。

 お前は誰なんだ。何故僕を抑えるのか。魔法なのか。

「君は、私が作った。私の自我を投影したはずだったのだが……うまくいかなかったようだな。しかし、成熟して力が戻ってきたのだろう。今こうして、私が出てくることが出来た。」

 よくわからない。

 お前は誰なんだ。

「何言ってるの。私は、あなたをずっと抑えてきた。そして、みちるはみちるだと教えてきたのよ。」

「ふっ……まずは、娘より君の質問に答えよう。みちるは私の名前だ。かのロベルナルト王子から加護を受け不老不死になったのだ。娘のあかりが世話になった。」

 そんな。

 質問に答えられたところで、納得できるか。

 ……僕があかりの父親だと??しかも、不老不死ってなんだよ。

 僕は拳を握る。殴りたかった。でも、その拳は存在しない。


 どうゆうことだよ。仮に、お前の言うことが本当だとしよう。それなら、何故俺を作った。不老不死なら俺なんていらないだろう。


「不老不死と言ってもな、よくあることだ。肉体が耐えられないのだ。だから妻に時間魔法を使わせ、年老いた私を幼少期に変えてもらった。そして、来るべき日にこの世界に落ちるよう魔法をかけてもらった。あとは不老不死の力で自我は、かの年老いた私のまま残っているというわけだ。」

ばりっ

僕の嫌いな病室の密閉ドアが開く音がした。


「来てたのね。」


「な、ママ!??どうして!!」

「どうしてだなんて、いつもどうり、お見舞いよ。」

 果物や食べ物が入ったビニール袋を持った、母レイラさんが、コツコツとヒールの音を鳴らして病室に入ってきた。


 母は、僕とはあまり話さなかった。いや、話せなかったのだろう。愛していたから、分かったのだろう。僕が、「みちる」じゃないことを。

 母は僕に近寄ってきた。正確に言うと、あかりの父にだけど。

「まったく。死んだかと思ってたわ。」

「すまない、長らく待たせた。」

「……人間が魔法使いと認められるために不老不死の力を手に入れるなんて、やるもんじゃなかったわね。」

「…………すまない。」

「みちる」が小さくなっている。どうやら、母の尻に敷かれているようだ。

「みちるくん」

 母が言った。おそらく、僕に対しての呼び掛けだろう。

「ごめんね。私、どうしても彼が欲しかったの。星家は、純血の魔法使いの家。だから、魔法使いとしか子供を産めないの。でも、私は彼と駆け落ちして、あかりが生まれたわ。」

 そんなの許されないじゃないか。お前らの勝手だ。

「ええ、その通りよ。そして、彼が先代に殺されそうになった時、咄嗟に私が時間魔法をかけたわ。彼が不老不死を手に入れていると信じて。不老不死の力はね、すぐに王家から分けて貰えるものではなかった。だから、賭けをした。そして、彼は消えたわ。」

 それなら、あかりは、純血の魔法使いのじゃないんだな。

「そう、人間と魔法使いのハーフになるわ。」

 そんなの。ひどいじゃないか。あかりは、何も悪くないのに。

「そして、星野家の血は純血しか許さない。だから、私は短命なの。」

 !

 あかり……。

 あかりは、全てわかっているかのように話す。

「不老不死は魔法使いと同等になれるという、唯一の掟なの。」


 もう話さなくていい。

 僕は、信じたくなかった。

 ただ、人間だった人と、魔法使いの人が愛し合った結果なのに。

 子供はいつでも作れる。きっとレイラさんは純血の魔法使いだから長生きなのだろう。そして、父親も今では不老不死だ。肉体さえまた変えれば生きられる。

 だから、子供だってまた作れる。今度は、不老不死という魔法使いすら手に入らない魔法を手に入れた父だから。そして、結果的に星家は受け継がれることが可能となる。


 それなら、あかりはなんのために生まれてきたというのだろう。

 僕はどうしようもなく悲しかった。僕を作ったのは、たしかにあかりの父親と、レイラさんかもしれない。

 でも、違うんだ。

 空っぽの僕に、僕という存在を作ってくれたのは、君しかいないのに。そんな君が、こんな、いらないなんて言われてるなんてひどすぎる。

「私はね、みちると同じなんだよ。」

 あかりが、僕を見て言う。

「ぱぱ、ままのことは、恨んでなんかないよ。私は、少しの間でもこうやって生きられて、本当に幸せなんだよ。」


 もうやめてくれ。

「みちる」が泣きそうになっている。お前が悪いんだよバカヤロう。

「あかり……」

「まぁ、ぱぱには、不老不死もっとはやく手に入れてて欲しかったところだけど。」

「……あかり、すまない。本当に。」

「まぁ、タイミングが悪かったってだけよ!そんな気にしなさんな!」

 ばんっとあかりが父親の背中を叩く。

「私、最初からなんとなくわかってたから。大丈夫だよ。それより、もも切ってパパ」

「あ……はい。レイラ、ナイフあるかな。」

「そんなもの使わないわ。」

 しゅるしゅるとももの皮が向かれていく。

 父親と母親、子との時間が流れた。

 僕は、邪魔をしたくなくて、言いたいことはたくさんあったけれど、何も考えなかった。そして、僕にできることってなんなのか、考えていた。

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