第3話 波紋
僕はあかりと出会った後、名前をつけてくれて、一緒に暮らした。さらに、専門の家庭教師をつけられてこの世の中の一般教養と魔法教養を受けた。
この世の中では、大きくわけて2つの人種がある。人間と魔法使いだ。
この国の歴史は、昔、大きな戦争が人間と魔法使いの間であったことから始まる。戦争の理由が、ぺぺハミ湖をどちらの領地とするかという戦争であった。
ぺぺハミ湖には古くから言い伝えがあり、人間がその地に入れば不老不死となり、魔法使いがその地に入ればこの世の理を知り、操ることが出来ると。しかし、その地に誰も踏み入れたことは無い。なぜなら、大昔に人間と魔法使いの両方を治めていた王家が、同じ王家の者でないと踏み込めないという結界を張ったからだ。
しかし、世の中は進歩し、その結界が地下や、空にまでは及ばないことを解明された。そのため、飛行機の開発や、潜地艦などの開発が進められていた。
そこで戦争は起こった。20年続いた戦争は、王家の王子が現れ、ぺぺハミ湖を治めたことで終わりを告げた。そのため、その戦争は、湖と王子の名前にちなんでぺぺハミ・ロベルナルト戦争と言われている。ロベルナルト家は現在も王家として、この大陸を治めている。
そして、人間と魔法使いの違いが、よくわかるのは苗字だ。人間はという、とても長い苗字が多い。
逆に魔法使いは「パール語」という、とても短い苗字が多い。星とか。
今となっては、「王家との約束」により、差別や、戦争をしないことになっているため知らない人も多い知識ではあるが。
つまり、今の世の中は平和そのものであるということだ。
僕の世界的には、あかりが死んでしまうからひどく平和とは程遠い世界になっているけれど。
さらに、「星」の家は、わりとすごい魔法使いの家らしい。病院は、星灯(ほしあかり)病院といい、娘の名前そのままを使っている。親バカ。まぁ、あかりの母親は見たことあるが、父親はこれまでの20年間、見たことがないからな。よくわからないけれど。
あかりは、そんな星家の長女だ。僕は、あかりに拾われた星みちる。
「母」や「お手伝いさん」、「親戚」にはみちると呼ばれる。みんな、僕のことを知っているかのように。
だから、本当は僕はこの家の子だったのだろうと思っていた。しかし、僕は魔法はからっきしだった。そのことをあかりは知っていたかのようにクスクスといつも笑ってみていた。
そう、いつも一緒だった。ごはんもお風呂も(12歳くらいから別々だけど)、誕生日パーティーも、クリスマスも、旅行も。あかりが魔法を上手く使えない時だって、僕が1番近くにいた。
だから信じられないんだ。君がいなくなるなんて。
「みちるには言っておくね。」
「何?」
それは、チョコのチュー事件をしてから、一週間後のことだった。あかりは元々細かったけれど、かなり痩せていた。魔法の力はそのままで、今日も僕を「引っ張る」ことをしていたけれど。
まるで、魔法使い以前に、人としてのあかりを魔法が殺しているかのように。
「私ね、みちるに一目惚れだったの。川で会った時からよ。」
「うぐっ」
急な告白で、僕は変な声を出してしまった。
視線をあかりに向けるのは恥ずかしく、どこに向けようか悩み目を泳がす。とりあえず、返事をしなくては。
「そ、そうなんだ。」
「うん。みちるが現れることはわかってたわ。どんな人かもだけど。」
それも、あかりは知っていたのか。でも、その「どんな人かも」に僕は引っかかった。それは、僕が何者かという話なのだろうか。
「ちょっと、今はそこどうでもいいよ。今告白してるんだから。」
バレてた。さすが星家の魔法使いだ。
「それでね、わかってたのに、私、みちるに惚れちゃって。タイプだったのかな。わからないけれど。」
「だから、私の初めて、貰ってくれない?」
ぶふっ
吹いた。
「返事は?」
僕は迷った。しかし、なぜか口が勝手に動いた。
「無理。」
え。
何でこんな即答するんだ僕は。
違和感しかなかった。
けれど、どうやら本当にそう答えたらしい。
「あらやだ……そろそろ、いいよって言うと思ってたわ。」
「無理だよ。あかりは僕の家族じゃないか。家族だから無理だよ。」
待て。お前誰だ。僕は家族なんて知らないんだぞ。だからこの前のチューだって止められなかったし。てゆうか、僕はあかりが好きなんだぞ。恋愛的に。この告白を振るのはおかしいだろ。
「……家族を知らないくせに?私が教えなかったんだよ、家族を。みちるは、みちるだもの。家族ならこんなこと言わないわ。」
彼女は、少し悲しそうに話している。やっぱりダメだったか…とでも言うように。
違うんだ。
僕は今、口が動かないんだ。まるで、まるで何かに抑えられるように。僕はあかりが好きなのに。愛してるのに。あかりの全てが欲しいのに。
「いい加減にしてくれ。私は、お前を殺すために来た訳では無いのだ。」
私?
私だと?
確か星みちるの一人称は、「僕」だ。これ、やっぱり僕じゃない。僕はいま、何かに捕まっている???僕はわけがわからなかった。しかし、あかりと話している「みちる」が、僕ではないことはわかった。
その話し方で、あかりも何かを確信したかのように表情が険しくなった。
「…………あなた、みちるじゃないわね。」
僕は、得体の知れない「みちる」がただただ怖かった。あの、夏蝉祭りの赤い宝石が黒くなっていくような怖い気持ちが蘇ってきた。今なら言葉にできる感情だ。
僕は、どうなってしまうんだろう、と。
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