夢中なあの子
ぱんけーき
一夜
今夜も、また―――
時々、何処からともなく会いに来るあの子。
名前なんて知らない。どうでもいい。
どこから来るのか。知らない。考えない。
もしかしたら、あのときの子では……なんて、そんな思いも過るけれども。
―――そんなこと、こっちでは関係ない。
あの子とここで逢うようになって、どのくらいが経つだろうか。こっちの時間だとまだひと月もない気がするけど、あちらではゆうに1年近い付き合いになるはず。
あの子との関係は? と問われると、少し言葉が濁ってしまう。
それでもなお、言葉で表そうとするならば。
あの子とは褥を共にする関係だ、と言うしかあるまい。
あの子がこちらで面会を求めてきたその夜に、あの子と私の、この関係は始まった。
覚えている限りでは、というか何も覚えていないとも言えるけれど、どちらからという訳ではなかったような気がする。
あの子と面会した夜から逢うときはいつも、決まった手順で流れるように事は進む。
脱いだ覚えはなくとも、お互いに素肌を晒した生まれたままの姿。すべてを時の流れに任せた。そこに考える余地なんてない。
軽く口付けを交わし、確かめ合うようにして、互いの体をまさぐりあう。求めあう。
まるで恋人同士がするみたいに。
互いが互いを求めて、必要としていることを確認する重要な作業だ。2人だけの時間。
そして、物語のようにクライマックスに差し掛かる。いよいよというところまで辿り着く。流れに任せていた体が強張っているのを感じた。
先に進んで良いのか。取り返しがつかなくなる。頭をよぎる不安。
けれども、お互いに必要としていることを確認しあったから迷わない。最後までいきたいという想いに手を引かれた。
決心して、いよいよ…。
……………………………………………………
……………………………………………………………
――― まただ。いつもこうなる。やっとというところで、邪魔が入る。
邪魔が入ったと思ったら、顔も思い出せないあの子はもういない。
今夜こそは。
あの子と朝まで過ごすために、夜まで頑張るんだ。
夢中なあの子 ぱんけーき @kmyno_0916
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