「また会いに来たよ」

大福がちゃ丸。

「また会いに来たよ」

 ボクは彼女の家の前まで来ると、周りを見渡す。

 住宅地なのに、人の気配はない、静かなものだ。

 二階建ての一軒家、古びてもいず新しくもない、これが彼女の住んでいる家だ。


 駅前で彼女を一目見た時から恋に落ち、今日は後を付けて彼女の家についてしまった。

 自分でも、こんなストーカーの様な事をするなんて、思ってもいなかった。


 始めて、彼女を見た時は天使かと思ったくらいだ。

 人ごみの中でも輝いて見えた。

 学校に行くのが(駅前までだけど)、楽しみになったほどだ。


 彼女は、何をするでもなく、駅前を歩き消えていった。

 ボクは、とうとう学校をさぼって、後をつけて行く事にしたんだ。


 そして、今、ボクは彼女の家の前に立っている。

 心臓がドキドキしている。

 ここまできたら、覚悟を決めないと。

 彼女の名前も何も知らない。

 とりあえず、友達になってもらおう。


 玄関まで進んでいき、ドキドキしながら呼び鈴を押す。

 ドアが、きしみながら少し開かれて、彼女が覗いている。


「あ、あの! 突然ゴメン! ボク! ボクのなま……え?」


 彼女は、ドアを開け、ニコニコと笑いながら、家の中に入って行く。

 ドアは空きっぱなしだ、えっと、これは入れって事かな?


「お邪魔……します」

 玄関には、雑多に靴が並んでいる、スニーカーから革靴まで、全部男物っぽいけど……、お客さんが来ているのだろうか。

 家の中は、静まり返っている、物音が無い、それに……なんだろう、違和感がある、飾り気がないからだろうか、カーペットすらない。


 彼女は、奥の部屋のドアを開けてボクに微笑んでいる、客間だろうか。

 薄暗い廊下を歩いて、そちらに向かっていく。

 ボクの足音だけが、聞こえる。


 部屋に入ると、まるで冷蔵庫の中にでもいるような寒さが襲って来た。

 吐く息が白い、家の中なのに。

 それに、なんだろう、何かが腐ったような、鉄錆のような臭いもする。


 そんな中に、彼女が立っていた、天使のような微笑みをうかべて。

 だけど、部屋の中は暗く、何で、彼女が見えているのか。


 彼女の後ろから、何かが現れる。

 暗い部屋の闇の中でも黒く、大きく、何か形すら怪しい、グネグネと、湿った音を立てて、何かが、ボクに向って、大きく口を広げて……。


 **********


 今日も、私の頭についている疑似餌にかれて、獲物がやってきた。


 疑似餌をフラフラと動かしていれば、むこうから寄ってくるので食い物には困らないのはいいのだが……食いつきが良すぎるのも困ったものだ。

 日に何匹も獲物が来るのは喜ばしいのだが、少々、食いすぎななような気がしないでもない。


 まぁ、それほど私の疑似餌が魅力的なのだろう。

 ほら、「また会いに来たよ」……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「また会いに来たよ」 大福がちゃ丸。 @gatyamaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ