第30話 朱色の空間

 暗く何もない場所に俺だけが居た。

 辺りを見回しても深く暗い闇が延々と続いている。

 早く鞘華の元へ戻らなければ。

 その思いだけが強く俺に訴え掛けてくる。

 見渡す限りの闇の中を走り出す。

 

 鞘華に会いたい。 いや、会わなければならない。


 そんな思いがどんどん強くなっていく。

 未だ辺りは闇に満ちている。

 それでも俺は走り続ける。


 ボトッ


 前の方で何かが落ちた様な音が聞こえた。

 音のした方へ駆け寄っていく。

 すると、漆黒のこの空間にポカンと朱色の場所があった。

 恐らくさっきの音はそこからだろう。

 闇から逃げるようにその場所へ向かった。


 朱色の場所まで来て思わず後ずさる。

 そこには人間の腕らしき物が落ちていて、腕から流れ出る血が広がっていた。

 

 なんだ……これは……?


 ボトッ


 また何かが落ちた様な音がした。

 音のした方向を見ると、またしても朱色の場所ができていた。

 まさかと思い、恐る恐る近づく。


 今度は人間の足首があった。

 この場所から離れようとした時


 ボトッ


 今度はすぐ後ろで音がした。

 恐る恐る振り向くと、今度は切断された指が散乱していた。


 なんなんだ……この場所は……。


 怖くなり、脇目も振らず走り出す。

 

 ボトッ


 また何かが落ちた。

 

 ボトッ ボトッ


 次々に何かが落ちてくる。

 まるで俺の足跡の様に朱色が広がる。

 一心不乱に走り続けるが音は止まない。


 ボトッ ボトッ ボトッ ボトッ ボトッ ボトッ ボトッ ボトッ


 鳴りやまない音……広がっていく朱色に染まっていく空間……増える死体……。

 

 気が付けば俺は走るのを止めて立ち尽くしていた。

 音は鳴り続ける。

 ぐるりと一面を見渡す。

 闇に包まれ何も無かった空間は全て朱色に染まり、死体の山が沢山できていた。


 「はは、あはははは」


 訳も分からず笑いがこみ上げてくる。

 しかし、瞳からは涙が止め処なく流れ出る。

 

 もういいや……。


 もう何も考えたくない……。


 俺はその場で寝転び目を閉じる。

 そして


 『苦しまずに今すぐ死亡する確率100%』


 …………………

 

 …………


 ……


 しかし何も起こらなかった。

 

 「どうして……」


 どうやら死ぬことさえ許されないらしい。

 俺はずっとこんな空間に居なければならないのか。


「ふざけるなぁ!!」


 行き場のない怒りで叫ぶ。


「俺が何をしたっていうんだ! もうやめてくれ!」


 どんなに叫んでも返事が返ってくる事はない。

 返事の代わりとばかりに ボトッ と音が鳴る。


 もうイヤだ……


「鞘華……」


 もう精神が耐えられない……


「鞘華の笑顔が見たいな……」


ピシッ! パキッ!


 先ほどまでと違う音が鳴った。

 音が鳴った先を見ると、目の前の空間に亀裂が入っていた。


パキッ! ピシパキッ!


 亀裂が徐々に大きくなっていく。

 亀裂の隙間からは柔らかくて暖かな白い光があふれている。


「鞘華……?」


 何故だか分からないが鞘華の名前を口にしていた。

 そして次の瞬間


 バキャアァァァン!!


 と、激しい音と共に空間が砕けた。

 亀裂から溢れていた白い光が当たり一面に広がり、俺も光に包まれた。

 光からはどこか懐かしい温もりが感じられた。

 そして光は徐々に人の形に姿を変えていく。

 そして俺の目の前には白い人影が出来上がった。

 

「鞘華……なのか?」


 問いかけるが返事はない。

 だが俺にはその人影が笑った様に見えた。


「会いたかった……」


 俺がそう口にすると、人影は俺を抱きしめた。

 

 ああ……やっぱり鞘華だ……


 白い人影を思いきり抱きしめてキスをした。


「っ!」


 キスをした瞬間、体中に温かい何かが流れた。

 そして段々と意識が薄れていき、俺は意識を失った。

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異世界ヒロインとの修羅場な彼女 白石マサル @mikan830

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