第29話 異変
三人の男達の内の一人が降伏した。
それを他の二人が見つめる。
このまま残りも降伏してくれたらありがたいのだが、そうもいかないらしい。
二人は俺たちを睨みながら挟み込む様に移動しようとしている。
「そこの二人! この男を殺されたくなければ降伏しなさい!」
サーシャが今も男の首元にダガーをあてがいながら言うが
「殺したきゃ殺せ。こっちは命懸けで盗賊やってんだ」
「弱い奴はいらねぇのさ」
そう言って二人は俺たちを挟み込む。
「くっ……!」
サーシャは脅しが通じなかった事に悔しがっていた。
殺すというのはただの脅しで本当に殺す事は出来ないといった表情だ。
それは仕方がないだろう。人を殺すのはそんな簡単な事ではないからな。
それよりもこの状況をどうしようか。
敵はそれぞれ弓と剣を持っている。
弓を持った男が少し離れ構えた。
スキルで塞ごうと思った時、鞘華とリーンから声をかけられた。
「正樹は今回手を出しちゃダメだからね?」
「そうそう、私たちに任せてね」
二人はそう言ってお互いに敵の方に構える。
そうこうしている内に弓矢が放たれた。
と同時に剣を持った男が剣を振りかざしながら走ってくる。
やり慣れたコンビネーションなのだろうと思わせる動きで二人は鞘華に襲い掛かってくる。
「とりゃっ!」
と言葉を発しながら先ほど放たれた矢を鞘華は叩き落とした。
「そんな馬鹿な……!」
遠くで驚く声がきこえた。
しかし間隔を開けずに矢を放ってきている。
剣を持った男も間合いを詰めて剣を振るう。
だが鞘華は矢を尽くを叩き落しながらもう一人の剣戟を躱している。
「くそっ、どうなってんだこの女」
剣の男がそう呟くと今まで大人しくしていたリーンから言葉が発せられる。
「ありがとうサヤカちゃん、こっちは準備オーケーよ」
「了解! 後は任せたわ」
リーンを見てみると再び手に炎が纏っていた。
鞘華はリーンの呪文詠唱の時間を稼いでいたようだ。
それを見た剣の男は後ずさるが、鞘華は自分から間合いを詰める。
「おりゃー!」
≪
二人の声が重なる。
「ぐはっ!?」
鞘華は男の鳩尾に拳を打ち込んだ。
男は悲痛な声を挙げて膝から崩れ落ちた。
その数舜後
「ぎゃあああっ!」
と炎を纏った男が悲鳴を挙げている。
すぐに炎は消えたが男は意識を失たのか声も出さずに地に伏した。
「やったー!勝ったー!」
「緊張した~」
鞘華はぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。
リーンは緊張が切れたのか地面にペタンと座り込んでしまった。
そこにサーシャが走ってきた。
「マサキ様御無事ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
サーシャが取り押さえた男を見ると足首から血を流し倒れこんでいた。
おそらく逃げられないようにアキレスでも切ったのだろう。
「それにしてもサヤカ様は勿論、リーンもすごかったですね」
「えへへ~」
「すっごく緊張したわ」
鞘華は少し照れたように返事をし、リーンは未だ緊張をほぐすかの様に胸に手をやり深呼吸している。
「でも、全部サーシャのおかげだね。サーシャが敵に気づいていなかったら誰かが怪我してたかもしれないもん」
「そうね、サーシャはお堅いだけじゃなかったのね」
確かに二人の言う通り、みんな無事でいられるのはサーシャのおかげだろう。
「いえ、私は黒い霧が見えたので何とか行動出来ただけですよ」
「それって前に言ってた黒い霧のこと?」
「はい」
前に俺がスキルを使ってモンスターを倒した時に俺から黒い霧が出ていたと言っていたな。
まさかこの盗賊達もスキルの様な物が使えるのか?
「確認だけど、その霧は前に俺から出た霧と同じなのか?」
「はい。同じだと思います」
サーシャの勘違いでなければこいつ等もスキルを使えることになる。
俺が考え込んでいると鞘華がひょこっと顔を覗かせて聞いてくる。
「何そんなに怖い顔してるの?」
「俺がスキルを使った時と同じ黒い霧がこいつ等からも出ていたって事は、こいつ等も何かしらのスキルを使えるかもしれないと思って」
「えっ! でも此処はゲームの中で、この人たちはゲームのキャラなんだよ?」
「もしかしたら……将嗣が関係してるかもしれない」
「っ……!?」
俺と鞘華がそんな話をしていると、恐る恐るといった感じでサーシャが言う。
「黒い霧の事なのですが、おそらくマサキ様達が心配するような物では無いと思います」
「どういう事だ?」
「初めて話した時にも伝えましたが、黒い霧はマサキ様が領主になる前から度々見えていたのでマサキ様の使う不思議な力とは関係無いと思います」
そういえばそんな事を言っていた。
「それに黒い霧の正体はもう解っています」
「そうなの?」
「黒い霧の正体って結局なんだったんだ?」
サーシャは一呼吸し、表情を厳しくして言った。
「
「殺意か……」
もし本当に黒い霧の正体が殺意なら凄い事だ。
それは人の思念が見えるという事だからだ。
「見えるのは黒い霧だけなのか?」
「はい。黒い霧以外は見た事がありません」
サーシャの能力はどう捉えたらいいのだろう。
もともとのゲームの設定なのか、それとも霧矢将嗣が関係しているのか……。
あれこれ考えても仕方ない。俺達に害はなさそうだし。
今は盗賊達から情報を聞き出さないと。
そう思い盗賊たちを一瞥する。
「念のために聞くけど、殺してないよな?」
俺がそう問いかけると
「殺す訳ないじゃん、貴重な情報源だし」
「私も加減したから死んでないはずよ」
「私も逃走を防ぐ為アキレス腱を切っただけです」
どうやら誰も殺していないらしい。
だが盗賊達のダメージは思った以上に重そうだ。
リーンに体を焼かれた奴はかろうじて生きているといった感じだ。
サーシャが捕まえた男も未だに足首から血を流している。
『真っ赤な……血が……』
「とりあえず死なれても後味悪いし、サーシャに回復魔法で回復させよう」
「わかりました」
そう言ってサーシャは重体の者から回復魔法を掛け始めた。
『懐かしい……血の匂いだ……』
一番最後にアキレス腱を切られた男を治療しようとする。
『もったいない……』
くそ! さっきから頭の中で声がする。
『もっと……血を……』
治療が終わり盗賊達を一か所に集めて情報を聞き出そうとしたその時
ズキッ!
「っつ!」
針で頭を刺したかの様な痛みが走った。
痛さの余り片膝をついてうずくまる。
「正樹どうしたの? 大丈夫?」
「マサキ様!」
「マサキ様大丈夫?」
三人が心配して声を掛けてくる。
意識が朦朧とし、誰が何を言っているのかわからない。
『ようやく……だ……』
また頭の中で声が聞こえた。
その瞬間俺は意識を失った。
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