第28話 グラムス

 とうとう俺たちはグラムス領に入った。

 ソオヘの門をくぐると森の中に一本の道があり、その先には高くそびえる山が見えた。

 現実世界では近くで見たことは無いが、その山の姿は富士山に似ていた。


「無事にグラムスに入ったけど、グラムスってどういう処なんだろう?」


 俺がそうつぶやくと答えたのはサーシャだ。


 「グラムス領は高い山と深い渓谷に囲まれた所だと聞いています。そしてその周りには森が広がり、一度森に入ると二度と戻れないと言われています」


 説明を受けて改めて富士山や富士の樹海に似ていると思った時、鞘華が耳打ちしてきた。


「何だか富士山に似てるね」

「俺もそう思ってた。まぁ、ここはゲームの中だから富士山を元に作ったんだろうな」

「なるほどね~」


 まぁ、富士山には渓谷は無いけどそこはゲームだからそのままの富士山を使うわけにはいかなかったのだろう。

 問題はグラムス領の領主とヒロインが何処にいるかが問題だ。

 この世界の住民のサーシャとリーンに聞いてみよう。


「グラムス領の領主は何処にいるか知ってる?」


 すると二人はほぼ同時に答えた。


「知ってるよ」

「はい、知ってます」


 二人とも知ってるという事はこの世界では何処に領主がいるか知ってるのは常識っぽいな。


「マサキ様知ってる? グラムスの領主は女の人なんだよ」

「そうなの?」

「はい。 グラムス領主は各領主の中で唯一の女性です」


 二人の言葉を聞き、ある可能性に気付く。

 もしかしたら領主がヒロインかもしれないと。


「あー! もしかしてマサキ様変なこと考えてるんじゃない?」


 リーンの言葉と共に他の二人も反応する。


「さすがはマサキ様です。領主であろうと女性ならば手籠めにしようとするとは」

「まーさーきー? 私がいることを忘れちゃダメだからね?」


 三人ともすごい誤解をしているようだ。

 まぁ、もし領主がヒロインだった場合は攻略しなければならないが、それでも三人が考えている事にはならないだろう。


「何を考えてるか知らないけど、人を女たらしみたいに言わないでくれ」

「「「…………」」」


 俺の言葉を受け、三人が少し怒った様な表情で俺を見つめる。

 やめてくれ! これじゃあ俺が女たらしみたいじゃないか!?

 このままじゃマズイと思い話題をずらした。


「そういえばモンスターも出るんだよな? アルカナ領とは違ったモンスターが出るのかな?」


 無理やりな話題転換に三人はため息を吐いた。

 それでもサーシャはきちんと答えてくれるようだ。


「領地によって出現するモンスターは違います。なぜならそれぞれの領地毎に地形や気温などの違いがあるからです」


 へぇ~と感心する鞘華同様俺もなるほどと頷いた。


「それからアルカナ領との大きな違いは山賊が出ることです」

「山賊なんか出るのか!」

「はい。アルカナ領は穏やかな気候とマサキ様の統治のおかげで奴隷等の身分の低い者も暮らしていけていますが、他の領地は気候が安定しにくく、尚且つ領主がほぼ独裁状態なのでその支配から逃れる為に自ら山賊や盗賊になる者もいるのです」


 グラムスは独裁政権だったのか。領主はさしずめ女帝といったところか。


「しかし、その一方で領主に絶対的な忠誠を誓っている者もいます。アルカナに攻め込んできた者たちはその一部でしょう。グラムス領主は絶世の美女と言われていますのでその魅力に摂り付かれているのでしょう」


 絶世の美女か。ますますヒロインの疑いが濃くなるな。

 

「それでその領主はグラムスの何処にいるんだ?」


 そう質問すると今度はリーンが答えた。


「この山の向こう側に更に大きな山が二つあるんだけど、山と山の間にグラムスの首都のビクーチがあって、そこの神殿に居るみたい」


 という事はまずこの山を越えなければならないのか。

 実際の富士山よりは低いと思うがそれでも結構な高さの山だ。

 山を越えるのは骨が折れそうだ。

 そう考えていると、サーシャがリーンの説明に付け足す様に言う。


「この山を越えるとすぐに渓谷があります。その深さは山よりも深いと言われています。過去にグラムスに侵攻した者たちは渓谷を超える事が出来なく、その部隊は二度と戻って来なかったと聞いています」

「そうそう! 確かネケツ渓谷っていうみたい」


 まるで天然の要塞だな。

 しかし、ある疑問が浮かぶ。


「グラムスに住んでる人達はよく無事に渓谷や山を越えられるな」


 俺の疑問に答えたのは意外にも鞘華だった。


「きっとグラムスの人達しか知らない抜け道があるんだよ!」


 人差し指をピッと立てて言う。

 仕草があざとい程可愛い。……っじゃなくて、俺も同じ事を考えていた。


「鞘華の言ってる事は一理あると思う」


 そう考えていたのは俺と鞘華だけではなかったようで


「私もそう思います」

「私もそう思うな」


 サーシャとリーンも同意見だった。

 

「そうなると、その抜け道を探さないとだな」


 俺がそう言い終わると同時にサーシャが俺の前に素早く移動してダガーを構える。


「マサキ様、私の後ろへ!」


 そう言いながらサーシャは前方の森の中に意識を集中する。

 俺と鞘華とリーンがいきなりの展開に戸惑っていると

 ガキィンッ! と音がした。

 音の発生源であるサーシャを見ると、足元には矢が落ちていた。


「弓矢で狙われています! 気を付けてください!」


 サーシャの言葉で俺たちも臨戦態勢に入る。

 するとリーンがサーシャに問いかける。


「敵は何処に居るの?」

「あそこの木の陰です。今もこちらを狙っています」


 そう聞いたリーンは一歩下がり何やら呟いている。

 呟きが終わった瞬間リーンの手には炎が出ていた。


 ≪炎魔法フレイム


 リーンがそう口にして手を木の陰に向けると炎が一直線に飛んでいき、辺りを炎で埋め尽くした。


「すげぇ」

「リーンすごーい!」


 俺と鞘華が驚いていると森から三人の男達が慌てて出てきた。

 そこにすかさずサーシャが詰め寄り、一人の男の喉元にダガーをあてがって言う。


「降伏しますか? それとも死にますか?」


 今まで聞いたことのない冷たい声色で男に問う。

 男は武器を捨て、両手を挙げて降伏した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る