あなたへ

ふなぶし あやめ

あなたへ。


 拝啓


 はじめまして。そう、この言葉が今まさにぴったりですね。この手紙を書いている者です。あなたがどこでこれを、いつ拾うかなんて私にはわかりませんが、どうしても手紙を書きたかったので私は今、たった六畳のアパートでこの手紙を書いています。

 先ほども記したとおり、あなたがいつ読んでいるかわからなので、季節のご挨拶を述べることができないのをお許しください。そして、私の今いる世界のことを少しだけ書かせてください。


 私のいる場所は、かつて「日本」と呼ばれていた国です。今は東・東南アジア複合計画により、国ではなくなりましたが、私には新たな名が文字に起こせないので記しません。私は私のいる場所を日本、とそう呼びます。

 今の日本は年寄が多く、少子化も止まらず進み続け、結局滅びの道をたどっていると言われています。だからでしょうか。私はこの国の外の人に、手紙を書きたくなったのです。電子化が急速に発達し、今や手紙なんて書く人は相当少なくなってしまいました。でも、私は手紙が好きです。一枚の紙に、書き手の言葉、書き手の文字で思いのたけを綴る。世界にたった一つしかない手紙。メールみたいにすぐ訂正できないし、コピーもペーストもできない。だからいいのです。失敗も、書き直しも、人間味をすごく感じさせてくれるから。

 あぁ、少し話が逸れてしまいましたね。でも、これこそ手紙の良さ。……なんて言ってみます。実際に、私の本当の気持ちで、手紙を書く理由です。嘘偽りは一切ありません。


 あなたの方はいかがですか?

 手紙に関すること、住まいに関すること、世界に関すること。なんでもいいです。なんでも、好きなことや書きたいことを手紙にぶつけてみてください。そして、それを誰かに送ってください。明確な宛名なんて、必要ありません。投函先は郵便省ではなく、瓶にでも詰めて海へ投函してごらんなさい。私は受け取ることができないでしょうけど、きっと誰かが、あなたがこの手紙を海で見つけたように、きっと誰かが見つけてくれます。手紙には、不思議な力があると思うのです。素直なあなたに、手紙の中ではなれることを信じています。


 私もこの手紙を書いていて改めて思いました。私は手紙が好きだと。素直になれると。今あなたが読んでいるその環境が、私の頃より良いのか悪いのか、それはいくら機械が発達した今でも、わかる術はありません。それも、きっとの運命の面白いところですね。


 最後に、私の思いを綴ったこの手紙を読んでくれて、本当にありがとうございます。私には、もう手紙に書ける宛名がありません。だから、このような乱雑な方法で、どこにいるか誰だかわからないあなたに、受け取ってもらえるように試しました。あなたがこれを読んでくれている。私の試みは成功したわけです。だからあなたも、もし何か誰かに書きたくなったら同じように海へ投げてみてはいかがでしょう。瓶に、手紙とたくさんの希望と、それからあなたの思いを込めて。

 あなたの幸せを、心から願っています。


 敬具


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