愚者の正義

水面リュウデン

一時正義の赴くままに進めば──

 始まりは母の中。身体を丸め夢路を辿る。


 時は残酷。「今日も学校だと」 急かす親が冒険の妨げとなる。


 不満と悪態は日に日に募り、今日も義務という首輪をはめて余儀なく出で立つ。


 歩む通学路が日頃通う学び舎への道しるべ。到着する合間は退屈。着いたところで過ごす間も人心共に過酷。


 どこに居ようが心の拒否反応は過剰なほどまで表れ、身体が生きようともがくため懸命に足掻く。


 穴があれば潜って過ごし、顔見知りと出会えば素通り、食事の際はどこか物寂しさを紛らわせ、人のいない場所を好きに駆け抜け高揚した。


 しかし、誰とも遊ばなかったわけでもない。楽しいことも、辛いことまで分かち合い。それなりと絆を感じてはいた。

 そんな日々に織り込まれた心は、彼らは自身の友であると思っていた。



 周囲から執拗にごちゃ混ぜに、ぐちゃり、ぐちゃりと音立てが形作られるまでは……



 子供は無邪気で残忍だ。楽しむ上でより攻め込み、視界に写れば追い回す。そのさまさながら圧政者。


 いじめ、言葉の暴力、陰口、正義の前ではどこ吹く風。揶揄からかい、嗤い、嘲笑う容貌が歪みを生む。


 誰にも祝福されず生まれ落ちる負の人格。獣の本能、弱きをしいたぐ。


 他者を比較し見下す心境、否定は自虐へ昇華、独善の赴くまま暴虐へ身を委す。


 いつしか燃え尽き何者にも目もくれず、趣味に打ち込み現実逃避。ひと時の安らぎと幸福に浸る異常者、吐き散らかした不幸せのお代。


 期限は刻々と……


 夢から覚める恐怖へ無意識に怯え、絶望はひたひたと迫り来る。


 愚者は思いやる生き方を知らない。人生がれた事に憎悪を向けつつ喪失からは何も学ばず。自尊心など保つことなく崩壊へ至る。


 負の連鎖は業の積み重ね、消えぬことなき傷は永劫残存、累積する厭悪えんおは振りまく贄を求め、誰もが己が救済をせがむ。


 皆々盲目、悪を倒せと正義がはばかる。犠牲者の恨み節、我らの絶対悪を討つ。拳を上げろ! 蹴り出せ! 抵抗を許すな!


 混沌の唸りが狂気を迸らせあたり一面飲み込んで、なにもかもを略奪し尽くす。


 自業自得ここに極まる。しかし、忘れるなかれ。犠牲の代償を払う事────勘定をお忘れなきように。


 お支払いは貴方方の生涯から。死後は奈落の底まで下り道。片道故にお気をつけを。


 極楽浄土など以ての外。霊魂燃ゆる地獄にて、未来永劫安らぎえず。


 罪を裁かれ罰を受け、苦痛は我々を逃さない。


 限りある生涯で罪の意識が芽生えぬ者はつゆほども知らず。


 享受した幸福は限りあり。他者の恵みを奪略した仕儀。知らず識らずに目を向け、自己防衛による暴力の正当化。


 自身のことで精一杯。誰も彼もが心に余地なく。優しさ、穏やかさ、寛容、願い、大切なことほどなにかと零れ落ちてしまった。


 本当に最後まで、救いようがない。

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