第5話 狼の話・3

 狼が花を届けた次の日のこと。赤ずきんはまた森にやって来ました。

「赤ずきんだ! 風邪は治ったの?」

「大丈夫?」

 動物達が赤ずきんに聞きました。

「優しい人が一輪の花を届けに来てくれたの。お母さんから聞いたけれど、その花はとても珍しい病気に効く花なんですって」

「それは誰が届けてくれたの?」

「分からないの。でも、私の家の前にあったから、きっと誰かが私の為にくれたのよ。そうだとしたらとても嬉しいわ!」

 赤ずきんは笑顔で言いました。

 その言葉を聞いた狼は一人木の影で笑っていました。

「治って良かったな。赤ずきんが元気になって良かった」

 狼は心の底から安心しました。そして思いました。

「赤ずきんに花をあげたら喜ぶかな」

 と。そう思った狼はその場から離れてゆきます。

 しばらく歩いて着いたのは美しい花畑でした。ここは人が全く来ない狼の秘密の場所なのです。

「せっかくプレゼントするんだから、花かんむりみたいに可愛いものにしよう」

 狼は手先が器用でした。一人の時はよくここへ来て、花かんむりや指輪を作っていたのです。狼は花畑を歩いて赤ずきんに似合う花を探します。

「この花、赤ずきんに似合うかな。」

 狼は一生懸命作ります。白い花を多く使った綺麗な可愛い花かんむりを。

 時間が経って日が傾き始めた頃。赤ずきんはいつもこの時間に村へ帰ってゆきます。花かんむりもちょうど完成した様子。

「できた!きっと赤ずきんにぴったりだ!」

 そして、ここで大事なことに気付いてしまいました。

「どうやって、渡そう......」

 狼は考えました。そして良いことを思いつきました。

 狼は早速、赤ずきんの元へ向かっていきます。可愛い花かんむりを持って。

 狼が赤ずきんに追い付いたのは森の終わり近くでした。村が見えるほど近い場所です。

 そして、狼は赤ずきんを追い越して赤ずきんに見えるように、花かんむりを脇の木下にそっと置きました。自分はその木の影に隠れます。

「赤ずきん、ちょっと待ってはくれないかい?」

「いいわよ、どうしたの?」

「近くにある木下を見てくれないかい?」

 赤ずきんはキョロキョロとして、周りの木下を見ています。そして花かんむりのある木へと駆け寄ってゆきます。

「まぁ、可愛い花かんむり!もしかして、これを私にくれるの?」

「そうだよ。気に入ってくれるかな?」

 狼は心配そうに聞きました。

「えぇ!こんな綺麗な可愛い花かんむり、私にはもったいないぐらいよ!ありがとう!お礼がしたいわ。お顔を見せて?」

 赤ずきんはとても気に入ったようで、早速その花かんむりを自分の頭にそっとのせました。

「赤ずきん、とても似合っているよ。でも、ごめん。君に顔を見せることはできないんだ」

 きっと怖がらせてしまうから...。

 狼の言葉を聞いて赤ずきんはとても残念そうです。そして心配そうに問いかけます。

「でも、本当にこんな綺麗な花かんむりをもらっていいの?」

「もちろん。君のために作ったんだ。もらってくれると嬉しいな」

「本当に!? とっても嬉しい!」

 赤ずきんは大はしゃぎ。でも、すぐに悩んだ様な顔つきになりました。

「やっぱりお礼がしたいわ。明日、この木下にお礼の果物と木の実を持ってくるわ!この時間にもう一度ここへ来てくれるかしら?」

 赤ずきんは小さく首を傾げて言いました。

「もちろんさ!明日のこの時間、もう一度ここへ来ればいいんだね?」

 狼は大はしゃぎで答えます。さっきの赤ずきんよりも喜んでいる様子。

「ええ、そうよ。ちゃんと来てね?それじゃあまた明日」

 赤ずきんはそう言うと村への帰り道を急ぎます。その赤ずきんの背中を見送る狼の顔は、輝くような眩しいほどの笑顔でした。

 これが今まで一人ぼっちで、笑うことなどなかった狼が心の底からの笑顔になった瞬間でした。

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ハッピーエンドじゃ終われない 朱鳥 水 @hina1227

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