第4話 狼の話・2

 その日から毎日狼は赤ずきんを見るために村へ行きました。赤ずきんも同じように毎日森へ行って、動物達と遊んでいます。

 狼がはじめて赤ずきんを見てから数週間後のこと。ぱったり赤ずきんが森に来なくなりました。そんなとき森の動物達が話ているのを狼は聞きました。

「赤ずきん来ないね」

「風邪をひいたって聞いたよ」

「だから、最近来ないんだね......」

「大丈夫かなぁ?」

 狼は驚きました。あの元気な赤ずきんが風邪をひいたことに。

 そして悔やみました。何もしてあげられない自分を。

 何かしてあげたい、そう思った狼は考えます。そして何かを思い付いたのか、途端に走り出し森の中をあちこち駆け回ります。そして日が暮れようとするなか森を越え、隣にある山まで走っていきました。そして狼は崖の下でようやく止まりました。

「見つけた......」

 崖の上には一輪の花が。夕焼け色に染まる空と同じ色をした大輪の花が咲き誇っていました。その花は万病に効く薬となる希少な花でした。狼は赤ずきんのためにこの花を探して一日中走り回っていたのでした。

「はぁ......はぁ...」

 狼は肩で息をしながら必死に崖を登ります。何度落ちようともう一度登ります。何度も何度も赤ずきんのためを思って登り続けます。

 何度繰り返したでしょうか。夕日は沈み、月が昇ってしばらくしてからのこと。狼はようやく花を手にしました。

 そして来た時と同じように走って森を抜けて赤ずきんの住む村まで戻ります。早く赤ずきんを助けたい、その一心で狼は休むことも忘れて走ります。

 森も村も、もう暗闇に包まれ、人々も動物達もみんな眠っていました。そんななか狼はひっそりと現れます。人を襲う訳でもなく、動物を食べてしまう訳でもなく、ただ赤ずきんを救うために。

 狼はそっと赤ずきんの家の前で立ち止まりました。赤ずきんが早く良くなりますように、と願いを込めた一輪の花を戸の前に静かに置いて、狼は立ち去ります。

 森に帰った狼は赤ずきんが元気になることを祈りながら静かに、眠りにつくのでした。

 思えば、もうすでにこの時から、狼は赤ずきんに恋をしていたのかもしれません。

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