第5話
「ふぅん。じゃあつまり、君は大学に馴染めなかったんだ。しかも慣れない東京暮らしに疲れてる、と」
彼はブランコを漕ぎながら、その隣で棒立ちしている私に話しかけた。彼は乗りなよ、と言って片手を離し、隣で静止しているもう一台を指差した。
私は吸い寄せられるように座った。
「行きたくないならさ、行かなきゃいいじゃん、大学。別に義務じゃないんだし」
彼は空を見上げながら言った。指先でツンッと空気を弾いたような、とても繊細な声だった。
「や…やめるって言ったって、学費払ってるし、大学行くためにこっち来たんだしっ!」
なんて無責任なことを言うんだ。私は慌てて言い返す。
「あははっ。やっと君の素が見れた。やっぱ面白いね、君」
彼はさっきより大きくブランコを漕ぐ。一回転しそうな勢いだったから見ていて気が気でなかった。
「でもさ、大学行くよりも面白いこととか、やってみたいことがあったら、挑戦してみてもいいんじゃない?鳥籠の中にいるよりも空を飛んだほうが気持ちいいって」
彼はそぉれっ、と言って履いていた右足の靴を飛ばす。
少し泥のついた白い靴は見事に地面に着地した。明日は晴れだーっ、と言って彼は私に笑顔を見せる。
私も少し嬉しくなった。
「自分がやりたいこと…、か」
私もブランコを漕ぎ始める。すれ違う風が頬を掠める。
雨上がりの公園。湿気を含んだ風は静かに私の背中を押した。
「明日も来ていい?」
私は彼に尋ねた。
おいでよ、待ってる、と彼は言った。
私が、私も楽器持ってくる、と言うと、彼は何も言わずに先ほどと同様の笑顔を私に見せた。
けれど私は少しの違和感を感じていた。
新米店長前島は在庫を抱えています! 桜居 あいいろ @himawarisaita
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