第3話 押入れの中は黒い宇宙
家に帰る途中、いつものコンビニで納豆巻き、サーモンサラダ巻き、半熟玉子チャーハンおにぎり、オニオン味のポテトチップスとホットケーキパン、いちごジャムパン、アップルジュースを買ったら、自転車の前カゴに入れて家路を急ぐ。
僕の家は4畳半のボロアパート。2階建ての6部屋で僕以外はおじいちゃんとおばあちゃんの独り身族が住んでいる。玄関の外に洗濯機があり、アパートの前に無造作に洗濯物を干す昭和スタイルのアパートだ。特に不満はない。
実はこだわり抜いて洗練した物件で、3年前から住んでいる。僕の譲れない家探しの条件とは
1・押し入れがあること
これだけだ。
なぜ押し入れがないとダメなのかというと、僕は押し入れの中が大好きで、家にいるときはずっと押入れの中で過ごしている。押し入れは世界でたった一人になれる唯一の空間だと思っている。実家には自分の部屋がなくて、誰にも邪魔されない空間を求めていた。
トイレだと小窓が付いていたり、外の音が聞こえてくるし、またそれらが時間の経過を感じさせる。しかし押し入れはふすまを閉めてしまえば全て遮断され、世界から孤立できるような気になる。
その孤立した空間からパソコンを使いインターネットにアクセスする。そこではおそらく人間であろうアカウントの日々のブログや、リアルタイムのつぶやきなどが閲覧できるし、その気になれば話しかけることができるし、返信も来る。
一見ネクラ満開の趣味であるが、僕にはとても贅沢なシチュエーションだ。これは押し入れじゃないとだめで、クローゼットだと高さはあるが横幅がない。さらに高さのお蔭で広く感じる。押入れのようなスライド式の開閉方式ではないのも難点の一つ。
僕にとって押し入れは、世界中のどこへも行けるどこでもドアなのだ。
さて、片町専務のパソコン修理をしようではないか。押入れの中にコンビニで買ってきた物と、今回の修理で想定されるドライバー類を持ち込んだ。適当ではあるがDIYで取り付けた裸電球の電気を点け所定の位置にあぐらをかく。
片町専務のパソコンは整備性がよく、底面カバーを開けるとハードディスクにアクセスできる。さっとハードディスクを取り出すと、愛用のノートパソコンにつなぎ、データを複製する。作業が完了するまでの間にコンビニで買ってきたサーモンサラダ巻きをむさぼりながら、進行状況を確認する。
思っていたよりデータの読み込みに時間がかかったが、作業は無事に完了した。とりあえず片町専務に『データは救出できました。とっても大変でしたよ。もうどうなるかと思いました。もうこのパソコンは使えないほど壊れているので、新しいやつを買いましょう。おすすめはこちらです→https://www.・・・』
とりあえず新型で低価格のノートパソコンをサジェストしたから本日の業務は終了。ここから自分の時間が始まる。
僕は押入れの中 印象 秀人 @hideto-i
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