第2話 ドクターカチマイ!
『ドクターカチマイ! キリのいいトコでちょっと来てくれる!? いつものアレ!』
いつもニコニコして部下の機嫌取りが得意な
周囲からは社長の弟というだけで良い役職に就いていて、あまり仕事ができない有様から『なにもせんむ』と陰口を叩かれている。どうやら本人も無能さに気がついている様子で、周囲に気を使い、聞き分けが良いことから個人的には無害である。
僕はサササっとヒヨコを分けて、本日の3,000匹目をカウントしたところで一旦持ち場を離れ、片町専務のデスクへ向かった。
いつものアレとは片町専務の使っている年季の入ったノートパソコンの不調のことだ。
そのノートパソコンは、とっても古くて、分厚くて、大きなバッテリーが付いている癖にすぐに充電は切れるポンコツだ。画面は発色が薄いし、ベゼルが太くてパソコンの大きさの割に画面が小さい。
キーボードにおいては、よく使うボタンはテッカテカに黒光りしていて、逆に使わないボタンにはべっとり手垢が付いた漆黒のつや消しブラック…黒のツートンカラーが何とも不潔である。
片町専務のデスクへ着くと、突然シャットダウンしたとのこと。どうせロースペックを無視していくつもソフトを動かそうとしてフリーズして、固まったからボタン連打してシャットダウンしたと言う、パソコン音痴あるあるだろうと思った。
片町専務は僕が到着するなり緑茶をススリながらフィッシングボートのカタログを手に取った。『どう?もう買い替えた方が良いかな? もうだめか・・・?』
まぁそうしてもらった方が確実なんだが、新しいパソコンを買うとなると、OSが違うから使いこなせないだろう。そしたらいちいち呼び出されて無料のパソコンスクールを開校する羽目になる。WindowsXPからWindows7に変えただけでもパニック状態なのに、Windows10なんてこの専務には無理だろう・・・。
僕は片町専務のパソコン画面をじっと見つめながらそんなことを考えていた。残念ながらバイオスは立ち上がることなく、二度と電源も入らない状況だ。どうやら殉職したらしい。アーメンだ。
そのことを片町専務に伝えると、意外にも落ち込んだ様子で『気に入ってたんだけどなぁ・・・。もうだめかぁ・・・。仕方ないかー、買い換えるかー・・・』
そんな片町専務を見ているとどうかしてやりたくなって『持ち帰っても良いなら家で修理してみますけど?』と言わなくてもいいことをつい言ってしまった。
すると片町専務は目をキラキラしながら『あはははー、そうか! ならお願いしようかなドクターカチマイに! ドクターカチマイ博士先生に診てもらえるなら安心だな!』と、後に引けなくなってしまった。
修理費としてお小遣いをもらえるという条件を約束し、僕は分厚く重い型遅れのノートパソコンをリュックに詰めて持ち帰った。
電源が入らない症状から修理は諦めるとして、ハードディスクだけ抜き取ってデータを救出し、感謝の言葉とお小遣いをもらうプランを企てた。もちろん、相当苦労したということにしておく。本当は30分もあればできることだが。
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