普通の話

 日射が辛い。差すなんてもんじゃなく、刺す勢いの日射はとても五月とは思えない状況を演出していた。景色は鮮やかで色気があり、空気はどことなく埃っぽい。そのくせこの猛暑、昼間暴れるだけ暴れて夜にはさよならだ。令和は、例年通り全国的に暑い五月を迎えている。珍しく外出を続けている僕は、心中の暴言の渦を漏らさないように口を噤んで、時折陽炎の揺らめく街を歩いていた。乗り継ぎの関係で30分ほど前に目的地に着くと(それを逃すと次は5分前もかくやといった有様である)、怨嗟の念も凄まじいものがある。心頭滅却すれば火もまた涼しいそうだが、三跪九叩頭して出直してきてほしい。(この一文すごくラノベっぽいな。)そんな時こそ自らが何かを犠牲にしつつも都会を歩き回っていてよかったと思うのだ。街中に広場があって、僅かながら木陰もある。スーツも厳しい時期に差し掛かってきたが、木陰ならひとまず耐え忍ぶこともできよう。とりあえず適当な石に腰掛け、黒い鞄からスーパーで78円だった500mlのカフェオレを取り出して飲んだ。まだ飲める。少し汗が引くと、猛烈な眠気に襲われた。ふらふらと意識が独り歩きがするのを何とか引き留めて、どうにもここ最近それが多いことに気が付いた。時折吹く風に木漏れ日が揺れているのを見ると、何もかも放り出して眠り込むのを肯定されているような気がするのだ。それだけじゃない。たまたま昼間に自宅にいるとき、晴れてあまりにも眩しい窓の外を眺めながら、ベランダの洗濯機の音を聞いていると、全てが満たされているような感情になることもある。しかし一方で自分が「大勢の中の誰か」であるときの人の話は全く実感が無く、意味だけが心の輪郭をなぞっていく。そうやって零れ落ちてゆく日々を直近で3回ほど数えた。ような気がする。しかしなんで1ヶ月前は聞けていた話が聞けなくなったのだろうか。この1ヶ月のことを少しずつ思い出してみると、意外な真実にたどり着いた。そう、1ヶ月経っているのだ。改元ですっかり気にしていなかったが、僕は立派な五月病だった。いつもそんな感じだったから気づかなかったが、人は年度が明けて諸々のパニックが過ぎ去ったこのタイミングで疲労を感じるのだ。珍しく人と同じ時期に人と同じように忙しくしていたから、僕もそうなったのだろう。天晴れ。ところで謎が解けてすっきりしたので伸びをしたりソシャゲのスタミナを消費したりしていたので、危うく遅れそうになった。30分も前に来たに、何でだ。

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