明けない

 今日も疲れた。特に何をしたってわけでもないが、疲労は鈍痛のように抜けない。帰り着いて玄関のドアを開けると、部屋の電気を点けた。這うようにワンルームに滑り込んで、パソコンの電源を入れる。その間に上着を脱いでハンガーにかけた。そうやって自分を管理していないと、部屋は荒れ果てていく一方だ。パソコンが立ち上がり、僕はとりあえず鞄を放り出してchromeを立ち上げた。ブックマークバーにある赤いyoutubeのアイコンをクリックすると、どこぞのAIが判定してくれた”あなたへのおすすめ”が表示される。基本的に僕が動画を探すのはここからだ。一覧を眺めるとラッキーなことに、今日はここ数日休んでいた投稿者の新着動画が上がっている。とりあえずそれを再生し、椅子に深く腰掛けてぼんやりと眺めた。定番の語り口に、少しだけ声を出して笑った。そういえば、と思い出したように動画を止めて、冷蔵庫から昨日半額になっていたのを買ってきた焼き鳥と、弱いチューハイを取り出した。電子レンジにパックごと焼き鳥を入れて、タイマーを1分にする。チューハイを置くのにモニターの前に戻ると、動画の流れが分からなくなっていた。少し戻して流れを追おうとした時、電子レンジのタイマーが鳴った。この行動、確か一昨日もした気がするなと自分に溜め息をつきながら電子レンジまで焼き鳥を取りに行った。そうしてモニター前に戻ってくると、また動画の流れは分からなくなっている。ごく些細なことだと分かってはいるものの完全に注意力が削がれた僕は、モニターの脇に投げ出してあったスマホを手に取り、部屋のドアを開けてから今までの僅か数分の間のツイートを追い始めた。動画はこの時点でもうBGMにもなっていない。ツイートはこれもやはりAIが判定した重要度に沿って表示されており、「この数分のツイートを遡る」と設定したはずの目的とは、実際の行動が早くも乖離している。そのAIが判定した重要なツイートは、改元一色だった。そうか、平成が終わって令和が始まるのか。この一か月で新鮮味も薄れたその内容を改めて考えるよりも先に、それをネタにしたツイートが目についた。一つ一つに意味があったりなかったりするのだろうが、何よりもその数の多さにうんざりとしてTwitterを閉じた。人生には節目が必要だ。それまでの何かが全くの空白であった時のあの虚無感から逃げるために、人は時間を区切って自らの行いを省みることにしたのだ。そのうえで、僕はこの発信の氾濫からの自衛として、今回の区切りは節目として多くの人に採用されたと考えることにしていた。まだ半分はチューハイが残っているのに、意識が朦朧としてきた。まだ風呂に入ってないから、体臭が不快だ。早く起き上がって風呂に入らねばならない。だが、数日に一度ある疲労の波は限界に来ていた。明日の朝、きっと後悔するのだろうな。あ、明日は月初めだ。通信制限も解除される。ありがたい。

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