十年前の
声が出なかった。
目の前の光景があまりにも現実離れしていることは当時六歳、いや、七歳の私にも容易に理解できた。
いつも食事をしているテーブルの上には乱雑に置かれている生首。ソファには針山に針が刺さっているように刃物が不規則に貫かれている胴体。部屋中は鉄の匂いがして、床は血だらけであった。
薄暗いその部屋でもわかった。誰の首か、誰の身体か。
「パパ…?ママ…?」
呼んでも帰ってこない。そんなことはわかっていた。
理解したくなかったのだろうか、またはその逆か、私はテーブルへ近づいてその生首を確認した。
それは紛れもなく父だった。身体はない。
そこで私の意識は途切れた。
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知らない天井に機械の無機質な音、スーツ姿の男性二人に祖父母。ここは病院で、私は今まで気を失っていたのだと気づく。
「君は…、西垣うたちゃんだね?」
スーツを着た中年男性が話しかけてくる。
「は、はい」
「まずは…、そうだね。体調は大丈夫?」
「大丈夫です。あなたは誰…?」
「僕の名前は蓬田博一と言って、警察として働いているんだ」
「警察…? うた、何か悪いことしちゃったの?」
「何もしてないよ。僕が話したいのは…、君の家族のことなんだ」
家族という単語を聞いた時、少しずつ何かの記憶がピースが埋まっていく。誕生日、雨、遊園地…。
「家族?パパとママは?りっちゃんもいないよ?」
私は祖父母に問いかけた。
「…うたちゃん、あのね」
祖父は震えた声で発す。祖父母は何故か泣いており、祖母は過呼吸気味だった。
「なんで、泣いているの?」
「それは…」
「いえ、私から話しましょう」
先ほど話しかけられた中年男性とは別の若い男性がそう言う。こちらも警察官なのだろうか。
「お嬢ちゃん、当時の記憶はないのかい?」
「記憶?当時って?」
「五月五日。君の誕生日のことだ」
そう言われ、思い出す。あの日は雨で私は朝から不機嫌だった。どうしてだっけ。
久しぶりに家族四人で出かける日だった。行き先は…
「…遊園地」
そうだ。遊園地に行くんだった。
「無理に思い出さなくてもいいよ。ひとまず落ち着いて聞いてくれるかい」
「はい…」
何故だろうか、その日の光景が頭に流れてくる。思い出す程に頭が痛くなる。
その日は雨で、私の誕生日。遊園地に行く約束が、雨のせいで無しになってしまった。
それで不機嫌になった私は家を飛び出し、祖父母の家へ駆け込んだんだ。両親が気付かないうちに。
「君の両親と妹さんは…」
まだケーキは食べてないし、ロウソクすら消していない。プレゼントも貰ってないし、また今度って言われた遊園地にも行ってない。
なのに、それなのに、
「強盗に殺されてしまいました」
倫理と懺悔と慟哭と もこみち @mokomichi
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