4
頭が痛くて目を覚ました。
私の部屋ではない匂いがして、一瞬戸惑う。
最初に目に入った白い壁で、ここがどこだか昨日なにがあったのかを思い出す。
立ち上がり、ドアを開けて洗面所へと向かう。一刻も早く顔を洗いたい気分だった。
見るのも辛いぐらい酷い顔と頭を水ですっきりさせ、リビングに入る。
当然のように春はどこにも居なかった。
昨日した宴会の後もすっかり消え失せていたし、リビングのソファも使った形跡がない。
冷蔵庫には何も入っていなかった。ゴミ箱にお菓子の包み紙が入っているということもない。
不思議と悲しくはなかった。昨日全てを出し切ったおかげだろうか。
「おじゃましました」
どこを探しても家の鍵は見つからなかったのでそのまま外へ出た。
うーんと大きく伸びをするとどこかの骨が鳴った。大きな音だったので恥ずかしくなり、駆け足でその場を後にする。
ちらりと覗いた駐車場からは車が消えていた。何も跡が残ってないアスファルトは冷たそうだと思った。
ここから駅までは少し距離がある。良い散歩になるだろうと、静かな住宅街を歩き出した。
「……そういえば今日、学校だったっけ」
思い出し、携帯で時間を確認する。もう午後だった。
今から行くことも出来るけれどそんな気分でも無いし。でも行かないと親になんて言われるかわからないし。
少し悩んで、行くことを諦めた。
今日ぐらいは良いよねとこのまま街へ出かけることにする。
駅に到着し、学校と真反対の切符を買う。行くのはこの市で1番栄えている街だ。
目的なんてなにもないけれど、とりあえず学校が終わる時間まではお店でも冷やかそう。
そう考えながら駅前のショッピングモールに入り適当に見て回る。
当たり前だけれど春はどこにも居なかった。似ている人を見かける度に心臓がきゅっと縮こまる。
もう一生会うことはないだろうとわかっているけれど悲しくなってしまった。
彼女は今どこで何をしているのだろう。
案外あの公園で砂を蹴って遊んでいたりして、と1人で笑う。
その後も洋服を見たり、電気屋さんでマッサージチェアに座ったりテレビを眺めたり。
食料品売場で昨日飲んだお酒を眺めたりしていると夕方になっていた。
今から帰ればちょうどいいぐらいだろうと帰りの切符を買いに駅まで戻る。
電車に揺られている間、懲りずに春のことを考えた。
もうすぐ彼女の好きな季節が来るなとか、私も髪を伸ばしてみようとか。
春との思い出が頭の中をぐちゃぐちゃにかき回していく。
何度目かわからないけれど涙が浮かぶ。春には泣かされてばかりだと怒りを覚えた。
鞄に顔を埋めて我慢した。
この電車に乗っている私にとってはどうでもいい奴らに。
春の名残を見せてやるもんかと。目に力を込めた。
我慢したまま最寄り駅のトイレで制服に着替え、家へと向かう。
途中、これが最後だからとあのコンビニへと寄った。
春が好きだと言っていたコーヒーを買おうと思ったのだ。
けれど、あの真っ黒なラベルはどこにも見つからなかった。
立ち止まっていたのを怪しんでいたのか、店員に声をかけられてしまう。
そのままコーヒーのことを聞くとその人はきょとんとした声で答えた。
「そんなコーヒー、うちでは取り扱ってませんよ」
「そう、ですか」
すみませんという声を背中に受けながらコンビニを後にする。
そして、たまらず吹き出してしまった。
お腹が痛くなるぐらい笑い続け、通りすがりの人に気味悪がられてしまう。
どこまでいっても何もわからない人だったと。
もうここまでくれば一周して全てが大好きだと。
彼女を、春のことを、想った。
『それは、多分、』 ほしくん @hoshikun0421
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