第二部 過去との邂逅

過去との邂逅

 施設の復旧が続けられるなか、セイルとライカは広場の一角で大量のガラクタに囲まれていた。大小様々な大きさの道具や装置のようなものが積み上がっている。


「凄い量だな、これは」


 セイルがガラクタの山を見上げて呟く。


「これは以前入居してたポッツっていう爺さんの形見だ。魔道具の収集家だったんだが偏屈なおっさんでな。部屋の中にあるもんを誰にも触らせなかったんだ。で、彼が亡くなった後に部屋に残ったのがこいつらなんだが、魔道具の中には取り扱いが難しく危険なものも多くあるもんだから、簡単に整理も出来なくてな」


 ライカが肩をすくめながらガラクタを指さす。


「ま、今回は施設も倒壊したし、いい機会だからコイツらも片を付けようと思ってな」

「……で。なぜ私が呼ばれたのだ?」


 セイルとライカの少し後ろに立っていたドゥランが不満げに息を吐いた。


「アンタなら闇の魔道具なんかにも精通してるだろ? 危険なものがあれば教えてもらいたい」


 振り返って微笑むライカに対し、ドゥランは無愛想に目線を反らした。


「それじゃあ、始めましょ!」


 セイルの隣にいた元魔道具研究者で女装家の老人――ミラが楽しそうに声を上げた。研究者としては、目の前にある魔道具たちが宝の山に見えているのかもしれない。


 重量のありそうなものはケイに移動をお願いする。ケイは表情一つ変えることなく淡々とそれをこなした。


 セイルは初めて見る魔道具の数々を恐る恐る手にとっては、興味深そうに観察していた。そして用途の分からない物に関しては、ミラとドゥランに伺いを立てていく。


「キャー! ちょっと待って! もしかしてこれ魔道望遠鏡じゃない? しかもザクスロキア製! 初めて見たわ、こんな上等な物!」


 ミラが時たま嬌声をあげながら興奮気味に魔道具の解説をし出す。


 かと思えば、「……それは森の部族の呪術道具だ。……絶対に血を吸わせるな。……気が狂うぞ」とドゥランがセイルの持っている物を指さし恐ろしいことを口にする。


「お、おいおい。あまり脅かさないでくれよ」

 セイルは引きつった笑顔を浮かべながら、ドゥランに指摘されたそれをすぐさま地面に置いた。


「……ん? これはなんだ? ……鏡?」


 ライカが足元にあった物を拾い上げる。それは汚れて、くすんではいたが手鏡のようだった。


「綺麗な装飾ですね」


 ライカのそばにいたケイもその鏡を見て言った。確かに、その手鏡の縁には美しい彫金が施され、細かい宝石の類いが散りばめられていた。


「ちょっと磨けば使えそうだな」


 ライカが鏡の端を少し擦ると、埃の下から輝く鏡面が顔を見せた。――とその時だ。


「よせ! その鏡を覗くな!」


 周りの者が驚くほどの大声でドゥランが叫んだ。初めて聞くドゥランのその声に、全員の目線がドゥランに注がれた。ドゥランは鬼気迫った様子でライカに近づいていく。


「い、いったいどうしたんだよ」とライカが動揺した声を出したその瞬間、鏡から強烈な光が溢れ出し、正面にいたライカとケイを照らす。


「まずい!」


 ついには駆け出したドゥランであったが、ドゥランの手がその鏡に触れる寸前で辺りは真っ白な光に包まれ、そばにいた全員がそのあまりの眩さに思わず目を閉じた。


 次に目を開けた時には、ライカ、ケイ、ドゥランの姿はそこにはなく、ライカが持っていたはずの鏡が地面にぽつんと転がっているだけであった。


「――お、おい! ライカ! ケイ! どこいったんだ!」


 動揺したセイルが大きな声で辺りに呼びかけるが、返事は返って来なかった。

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