第148話 ケビンの書~奪還・5~

 とりあえず決着はついた、かっこ良くはないが。

 昨日今日とこれだけやったんだ、もうコレットに手を出そうとは思うまい。


《さて……》


「……え?」


 本来の目的である寄生の鎧を回収するとしよう。

 まったく、活動していなくても迷惑な奴だよ……。


《――よし、回収完了っと》


 後はこいつを遺跡に持ち帰って、ナシャータの魔力で開く隠し部屋に突っ込んどけばいいだろう。

 で、そのナシャータはどこに逃げたんだろう。まだ街にいるのか、本当に遺跡に帰ったのか。

 んー探すのが面倒くさいから、遺跡に帰ろう。居たら居たでいいし、居なかったら帰って来るのを待てばいいだけの話だからな。

 ポチもナシャータと合流していなくても、腹を空かせば帰って……。


 ――来るわけねぇじゃん!


 アホか、俺は! 今すぐ後を追わないと!

 えーと、あいつ等が逃げたのはあっちの方角だったよな!


《全力ダッシュ!》


「ちょっ!?」


 ナシャータはともかく、何でポチの方を放置って思っちゃったかな。

 ここは街だから食べ物が豊富だし、何よりさっき腹を空かせて定食屋に入ろうとしていたじゃないか。

 そうなると、変な騒動を起こしている可能性が非常に高いじゃないか!


《頼むから、そんな事にはなってくれるなよおおおおおおおおお!!》


「ん? なんじゃあれ……ほえーよくまぁあんな格好で走れるっスね……俺じゃ絶対にばてるっスよ」



《おーい! ナシャータ! ポチ! どこにいるんだ!》


 走り回ったがあいつ等の姿は全く見えないな。

 幸いと言っていいのかわからんが、騒ぎも起きていないみたいだし……俺の取りこし苦労だったか。


【ワイワイ】


《ん?》


【ガヤガヤ】


 あの辺りに人が集まっているな……。

 まさか、あそこにポチがいるんじゃ!?


《1歩遅かっ……》


「いらっしゃーい! いらっしゃーい!」

「この鎧は超頑丈の一品だ! 今なら安くしとくぜ!」


《……た、か……?》


 って、なんだ、バザーの賑わいだったのか。

 あー焦った。


「串焼きが1本10ゴールド! 10ゴールドだよ!」

「さー寄ってらっしゃい! 南地方にしかない珍しい果実だよ!」


 いや、安心はまだ早いぞ、食べ物の出店があるじゃないか。

 ポチがこの辺りをウロウロしていても、なんの不思議でもないな。

 仕方ない、バザーを見て回るか……っ? なんだ、あれ!


《うおー! すげー!》


 人形が歩いているし! 踊っているし!

 一体どんな仕組みなんだ? 魔法の類なんだろうか。

 へー人形ですら進歩していくと……はっ!? 何だ、あの小型ナイフは!?

 ナイフの刃以外にグリップの部分からハサミ、やすり、のこぎり、栓抜きまで付いているぞ。


《これは持っていたら便利だぞ》


 金があったら即買ったのになー!


《くそー! ……ん? えっ》


 あそこで実演をしている奴が持っている包丁、あれ穴が空いているじゃないか!

 おいおい、いくら材料削減とはいえそれはないぞ。




 ◇◆アース歴200年 6月23日・昼◇◆


《あー楽しい! 金が無くても見て回るだけで楽しい!》


 特に包丁にはびっくりした。穴があると、切った物が包丁にくっつきにくいというちゃんとした理由があったとは……なるほどな。


《食べ物1つでもすごく進歩して……あ、やべ!》


 つい楽しくてポチの存在をすっかり忘れていた!

 危ない危ない、早く探しに――。


「皆さんすみませ~~ん! そこの皮の鎧を持った、アーメットで顔を隠している鎧の人を捕まえてください!! その人は泥棒なんです!!」


《へっ!?》


 あの女の言っている泥棒の姿って、明らかに俺だよな?

 なんで俺が泥棒扱いされてんだ!?


「何だって!?」

「あいつ、泥棒だとよ!」


 俺は盗みなんてしていないぞ!

 何か勘違いしていないか?


「みんな! 捕まえろ!!」

「こいつめ! おとなくしやがれ!」


《違っ! 泥棒じゃない! うぎゃ!》


 周りにいた奴らに一斉に取り囲まれて、地面に押さえつけられてしまった。

 さすがにこの人数相手だと抵抗できん。


《おい、離せ! これは何かの間違いだ!》


「おら! それを寄こせ!」


《なっやめろ、その鎧はっ……くっ!》


 おっさんに寄生の鎧を取られてしまった。

 どうしてだ? どうして、こいつらは俺の言う事を無視するんだ。

 まるで俺の声が聞こえていないみたいじゃないか。


「――ほらよ、キャシーさん。もう取られるんじゃねぇぞ」


「ありがとうございます」


 なんで鎧をその女に渡しているんだ。

 まさか、鎧の事知っていて……。


「はい、コレットさん」


「あ、ありがとうございます」


 はっ? コレット?

 え? ええ? どうしてここにいるんだ? どうして鎧を?

 何がどうなって……。


「おいおい、何だこの騒ぎは?」


 ええい、このややこしいタイミング四つ星親父が来やがった。


「あ、グレイさん」


《…………んんっ!?》


 今、コレットは四つ星親父の事をグレイって呼んだような……いやいや、まさか、そんな……。


《ジー……っ!?》


 よく見たら、マジでグレイじゃないか!

 男の顔なんて気にしていなかったし、あのグレイが四つ星になってるなんて思いもしなかった!

 ……にしても、えらい老けたな……今あいつ何歳だよ。


「あの、その娘は?」


 ん? グレイの隣に見覚えのあるフードマントを羽織った子供がいる。

 つか、あれはナシャータだよな……どうしてグレイの横にいるんだ?


「はあ? お前は何を言っているんだ、マリーちゃんじゃないか」


《「……へっ? マリー?」》


 マリーって誰だよ?

 え? 俺の見間違いか? ……いや、どう見てもあれはナシャータだし……。


 だああああああ!! 俺は泥棒扱いされているわ、コレットは鎧を持っていいるわ、グレイは老けて四つ星級になっているわで頭がぐちゃぐちゃなのに、そこにナシャーがマリーと呼ばれグレイの横にいる!

 ただでさえわけがわからない状況なのに、さらにわけがわからない状況をぶっこんでくるんじゃねぇよ! 頭がパンクするわ!

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