第149話 ケビンの書~奪還・6~

 とっとにかく、まずはグレイに頼んで俺の上に乗っかているこいつらを何とかしてもらうのが先決だな。


《グレイ! 俺だ! 信じてもらえるかわからんが、ケビンだ! 事情は後でちゃんと話すから、まずは上に乗っかているこいつらをどかしてくれないか!?》


「さっき、街中で再会してな――」


 ……俺を無視して話を進めてやがるし、上にいるこいつ等もなんの反応もしない。

 やっぱり声が聞こえてないようだ、あっもしかしてこのアーメットのせいかな?

 でも、これってそんなに声が外に出ない物だったっけ? ……いや、今はそんな事どうでもいいか、早く脱いでしまおう。


《ぐぬぬぬ、ふぬぬぬ! ……駄目だ》


 手も頭も足さえも押さえつけられるから、アーネットを外すことが出来ん。

 バラバラになっていないのに身動きが取れないって悲しい。

 しかし動けない、声も届かないとなると俺の出来る事は……このカオスな状況を見守る事のみ。


「コレットの宿に連れて行こうしていたんだが――」


 ふむ……コレットの元へって事は、マリーという娘はコレットの知り合いみたいだな。

 そして再会ってグレイが言っているから、あのアホはナシャータをマリーと勘違いしていると……そんな所か。


「バザーの騒ぎが聞こえたから来たんだ。いやーコレットがいるとはラッキーだったぜ」


 グレイの奴が勘違いするほどナシャータとマリーは似ているとなると、ナシャータが、用事があるとかなんか言ってこの場を去れば、何とかナシャータがドラゴニュートとしてばれずに済みそうだな。

 この後、俺がどうなるかわからんが……今はナシャータの正体がばれる方が厄介だ。

 頼んだぞ、ナシャータ。


「……白い……髪……?」


 あれ? なんかコレットの様子がおかしいような。

 くっ俺の角度からじゃよく見えん。


「ん? どうかしたのか?」


「コレットさん? 顔色が悪いですけど、どうかしましたか?」


 やっぱりそうなのか、もしかしてどこか具合でも悪くなってきたのか!?

 だとしたら大変だ、すぐに病院に――。


「……ドラゴ……ニュート!」


《……》


 何だ、ナシャータにビビっただけか。

 確かにドラゴニュートが街中にいたら青ざめも……して……おおい! いきなりナシャータの正体がコレットにばれてるじゃねぇかよ!!


「ドラゴ……ニュートだと?」


「あの、コレットさん……?」


「……何で? ……何で! ……何で!?」


 まずい……これはまずすぎるぞ。

 コレットがあんなにも取り乱しているし、ナシャータの正体もばれてるしで色々とまずい事になって来ているじゃないか!


「ちょっコレットさん!? 落ち着いてください!」


「落ち着けって、こんな街中にドラゴニュートなんているわけがないだろう」


 それがいるんだよ!

 お前の横に!


「その娘です! その娘はマリーじゃなくて、ドラゴニュートなんです!」


「「はあ……?」」


 ぎゃあああああああああ!! この流れは駄目だあああああああ!

 こうなったらナシャータ! そのマリーって娘になりきれ!

 どうなきりればいいのかわからんが……とにかく、なりきってこの場を収めるんだ!

 伝われ俺の思いいいいいいいいい!!


「なっ何を言っておるのじゃ? わしはマリーじゃ」


 おおっ! 俺の思いが伝わったぞ!

 本当はナシャータじゃなくて、コレットに俺の「想い」の方も伝わってほしいんだが……今はこの場を誤魔化す方が重要!


「どうやら姉は疲れている様じゃから、わしは一度出直すとするのじゃ」


 よし、いいぞ。

 そのままこの場から逃げるんだ。


「なっ!? 待った! どうして私の可愛い妹と偽っているかは知らないけど――」


 なに!? コレットの妹だったのか。

 マリーちゃん……覚えたぞ。


「マリーは【わし】とか【のじゃ】とか言いません!」


 デスヨネ。

 口調はやっぱり無理があったか。


「髪だってカサカサの白髪じゃなくサラサラの金髪! 身長はもっと高いの、貴女みたいなちんちくりんじゃありません!」


 姿も無理があったんかい! いや、聞いている限り無理というレベルじゃない、完全に別人じゃねぇかよ!

 おいおい……グレイの奴、目が相当悪くなったのか、それとも……。


「なっ!? この、大人しくしておれば好き放題言いよってからに……よおおし、いいじゃろ!! その喧嘩、買ってやる――」


 ――ビリッ!!


「――の……じゃ」


『「「「あっ……」」」』


 あのバカああああああああああああああああ!! こんな街中で背中の翼と尻尾をマントを突き破って出しちゃったよ!


「しまったのじゃ……興奮してつい羽と尻尾を出してしまったのじゃ」


 ついって問題じゃねぇ……。

 あんな安い挑発に乗るなんて、所詮はモンスターか。


「マジかよ……おい、キャシー! 今すぐギルドに報告して援軍を!!」

「っはい! わかりました!!」

「ドラゴニュートだって……!?」

「……うわああああ! 助けてくれえええええ!!」

「逃げろ! 逃げろ!!」

「きゃあああああああああ!!」


 あーあ、やっぱりパニックが起きてしまった。

 どうしたもんかな、これ。


「おっおい、これってやばいんじゃないか……?」


 ん?


「だだだよな、ドっドラゴニュートなんて!!」


「……よーし! お前ら逃げんぞ!!」


 へ?


「「「それ、逃げろおおおおおおおお!!」」」


《……》


 俺の上に乗っかっていた奴らが逃げだした。

 おいおい、なに自分達だけでさっさと逃げているんだよ! 俺も連れて逃げようとしろよ! この街を守ろうとしろよ!

 まったく、最近の若者は助け合いの精神と根性が無いな……まぁおかげで自由に動けるようになったからいいけど。


《逃げ出した奴らはどうでもいいとして……》


 問題なのはギルドから招集された冒険者たちだ。

 さすがにそいつらが集まって来るのは面倒な話だからナシャータに逃げるように言わないと。


「っ!」


《ん?》


 グレイが剣を構え、戦闘態勢を取ってナシャータと対峙している。

 一切恐怖や怯えている感じがしない。


《……すっかり、ベテランの風格を出しやがって》


 あいつのあの姿が一番月日が経ったんだと思い知らされるな。

 置いて行かれた感じがして、寂しく思えて来た……。

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