第147話 ケビンの書~奪還・4~

 ええい! 臭い如きで逃げるドラゴニュートとそれ追いかける犬なんて今は放置だ!

 それよりもコレットの方は――。


《……ん?》


 2人が建物の前で立ち止まって話しているぞ。

 にしても何だ? あの変な形のお面や変なポーズの銅像は。


「えーと……ここっスか……?」


「そうですよ」


「まじっスか……」


 ふむ、どうやらコレットはあの建物の場所に、あいつを案内してきた感じだな。

 あーそういえばコレットが路地裏に入って来た時に、お店がどうこうと言っていた気がするな。

 しっかし、あの店? はものすごい怪しんだが……大丈夫なんだろうか。


「それじゃあ中に入りましょう。――こんにちは~」


「コレットさん、躊躇なしで入ったっス。――お邪魔しますっス……」


 2人が店? の中に入って行った。

 うーん、この場所からだと中の様子が全くわからんな……よし、店前にあるあの窓から中を覗いてみよう。そーっと近づいて……。


「ふんぬっ!!」


「――うぎゃっ!」


《うおっ! なんだ!?》


 いきなり一つ星が、店の中から外に飛び出て来たぞ!?


「あだだ……どうして外に投げ飛ばすっスか!?」


 投げ飛ばすって……こいつ、もしかして店の人に追い出されたのか?


「当たり前だ! そんなに強い香水をつけているんだからな。うちの商品に香水の臭いがうつったらどうする! お前は俺のお店に入って来るな! 出禁だ! 出禁!」


「はあ!? どういう理由っスか、それ!」


 やっぱり追い出されたのか。

 香水をつけていただけで店から追い出されて、しかも出禁も食らう奴なんて初めて見たぞ。


「待ってほしいっス、コレットさん! 俺はどうすればいいっスか?」


 コレットに泣きついてやがる。

 どうもこうも、その香水をつけるのを辞めればいいだけだと思うがな。


「……マークさん、外で待っていてもらえますか?」


「えっ! それはないっスよ、コレッ――」


 ――パタン


 あ、扉を閉められた。

 まぁこれは仕方ないと思うぞ、俺でも同じ事をしただろうし。


「そんなーコレットさんー……とほほ……」


 とぼとぼと一つ星が歩いて表通りに行った。

 辺りに人影は無し……今なら店の中を覗けるな。


《どれどれ……っ》


 うへー……中も変な物を置いているがここは一体何屋なんだ?

 お、奥のカウンターにはコレットが座っているな。

 ん? コレットと向かい合っている男が手に持っているのは、まさか。


《――やっぱり! あれは寄生の鎧じゃないか!!》


 良かったー誰も鎧を着なかったみたいだ。

 にしても、あの男は何だ? ごつくておかっぱ頭でちょび髭って個性の塊過ぎ……え?


《嘘だろ!? 昨日遺跡でボコボコにしてやった男じゃねぇか! もう怪我が治ったのか!?》


 でも、おかっぱじゃなく長髪だった気がするんだが……いや、今はそんな事どうでもいい。

 まだ懲りずにコレットに近づくとはいい度胸だ! このまま殴り込みじゃ!


《オラァ!》


 ――バアアアアアアン!


「きゃっ! なに!?」

「あらん?」


《コレットから離れやがれ! って……コレット?》


 俺の方を見てから両手で顔を隠したぞ。

 しかも、思いっきり頭をブンブン振っているし……何をしているんだろうか。


「ちょっとぉ誰かは知らないけど、乱暴に扉を開かないでちょうだい! 扉に傷がついちゃったらどうしてくれるのよぉ!」


 あん? 扉に傷つくだと? おいおい、扉の事より自分自身の心配をしろよ。

 つか、こいつってこんな口調だったのか。


「まったくぅ……それでぇ用件はなんのかしら?」


 指をポキポキ鳴らしながら、俺に近づいて来た。

 ふん! 一度俺にボコボコにされているくせによくそんな威勢が出るもんだな。


《用件なら俺の声を聴けばわかるだろ、お前をまたぶっ飛ばしに来たんだよ!》


 ここでビシッとこいつを指で指す!

 フッ……決まった。


「?」


 ……あれ? なんでこいつ首をかしげているんだろう。

 この姿だから俺だってわかっていないのか? だからと言って、昨日今日で俺の声がわからないのはおかしいだろ……あ、そうか!


《お前! 昨日の事をなかった事するな!》


 いくらコレットの前で恥をかいたからといって、この態度は許せん!

 よーし、やってやろうじゃないか!


《俺の本気を見せてやる!》


 コレットが見ているからな、素手で戦うならかっこよく拳法の構えを取らなければ……まぁ拳法なんてやった事がないが。

 前にパーティーで組んだ事のある武闘家は確かこうやって身を低くして、右手を前に突き出し、左手を……上にあげるんだったかな? そして、掛け声を……。


《ハッ!》


 どうだ、これはビビっただろう?


「あらぁ私と遣り合うつもりぃ? いいわぁ受けてたちましょう」


 むしろやる気が出たらしい。

 何だろう、昨日と今日で雰囲気が全く違う……まるで別人の様な気が。


「ただぁ、ここだと商品が壊れちゃうから外に――」


《っ!》


 外を向いたから隙だらけになったぞ!

 別人だと思ったのは気のせいだったみたいだな、昨日同様に先手必勝で終わらせてやるよ!


《食らえ! ケビイイイイイイン――》

 

 この必殺の飛び蹴りでな!


《――キイイイイイッ――あら!?》


 鎧が重くてバランスが崩れ……。


《――おっと! ととと!》


 駄目だ! 立て直しが出来ん!


「えっ?」


 こけるうううううううう!


《――グベッ》

「――アウッ!!!!」


「カルロスさああああああん!!」


 俺としたことが盛大にすっ転んでしまった。

 うわーコレットに恥ずかしい所を見られ……ん?


「ブクブクブク……」


 男があそこを押さえながら、泡をふいて倒れている。

 これはもしかして、転んだ勢いで俺の頭がこいつのアレに当たってしまったのか?

 ……これは、さすがに悪い事をしてしまったな……。


「カルロスさん、大丈夫ですか!?」


 コレットが男に近づいてきて、男の腰を叩き始めた……やさしい娘だな。

 本当は男から引きはがしてやりたいが、こればかりは見逃してやるか。


《コレットのあったかい介抱を受けるといい》


 あの痛みは味わいたくないが……コレットの介抱は味わいたいな。

 こいつが少しうらやましい。

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