第134話 ケビンの書~消滅・8~

 今とんでもない言葉が、ナシャータの口から飛び出た気がしたんだが!?


『ナシャータ! 今、なんて言ったんだ!?』


「? 寄生の鎧は小娘の奴が持って帰っていったと言ったのじゃが……」


 やっぱりとんでもない事を言っていた!


『何でコレットが、あいつを持って帰る必要があるんだよ!?』


 そんな必要まったくないじゃないか。

 見た目は小汚ーい皮の鎧だんだぞ。


「そんな事わしが知らんのじゃ。というか、勢いよく立ち上がるな……普通にバラバラになっただけじゃから治るのも早いが、そんな事をするとまたバラバラになってしまうかもしれんのじゃ」


 そんな事、今どうでもいいっての!


『知った事か! それよりもそれは本当の事なのか!? そもそも、何で持って帰った事をお前が知っているんだよ?』


「そんな事って……まぁお前自身の問題じゃからいいか。本当じゃ、帰るまでずっとこの目で見ておったのじゃからな」


 なんて事だ、よりによってあの鎧がコレットの元に行くだなんて……。


『――っ! なんで見ていただけなんだ!? あの鎧の事はよく知っているだろ!』


「知っておるが、あの時は……って……おい、なんでこっちのにじり寄って来るのじゃ?」


『――っどうしてコレットを止めなかった!?』


「見ていただけなのも、止めなかったのも今のお前と同じじゃ! 飲まれた奴の傍に寄れんかったのじゃ! ……じゃからこっちに来るな! ヘビの臭いがプンプンするからまずは体を洗ってじゃな――」


『――っあの鎧はジャイアントスネークの尻尾に付いていたじゃないか! どうしてコレットが拾うんだよ!?』


「それは尻尾から鎧が外れてじゃな……ああ、もう! いい加減にしろ! それ以上こっちに来たら本気で怒るのじゃ!」


『――っどうしてどうして外れるんだよ!?』


「どうしてと連呼しながら近寄るな! いいか、これが最後の警告じゃぞ! そこで止まるのじゃ、さもないと魔法をぶっ放す――」


『――っどうしてなんだああああああああああ!?』


「ぎゃああああああああああああああああああ!! ストームトルネードオオオオオオオオオオオ!!」


『ぎゃああああああああああああああああああ!!』


「ふたりしてなにやってんだが……エサのやつ、まいかい【はは】マザーのまりょくでおかしくなるな……はあ、たつまきでばらばらにちらばったエサをまたあつめないといけないのか。めんどうさいな~もう~」



 ――ゴシゴシ


 またバラバラにされてしまった……。

 最近こうなってしまうのがやたら多いような気がするんだが、気のせいだろうか。


 ――ゴシゴシ


「その生臭いヘビの臭いが消えるまでしっかり洗うのじゃぞ!」


 ――ゴシゴシ


「……は~い……なんでポチがエサをあらわないといけないんだか……」


 ――ゴシゴシ


『……』


 幸いにも【母】マザーの近場に水路があったおかげで、バラバラでも意識があるんだが……そのせいでこの物のように洗われる感じを味わうはめになるのはすごく嫌だな。


「さて、ケビンが飲まれた後の事を簡単に説明するから、大人しく話を聞くのじゃぞ」


 大人しくも何もこんなバラバラの状態だと、どうしようもないのは見ればわかるだろう。


『……ああ』


 まぁそんな事はいいか、一体何が起きていたのかが大事だ。


「まずケビンが飲まれた後、いきなりヘビが体を曲げたりねじったりと苦しみだしたのじゃ」


 そりゃそうだ。


『その時は、俺が腹の中で噛みついていたからな』


「……お前そんな事を……確かに腹の中で噛みつかれておったら、ああなるのは当たり前じゃな。でじゃ、よほど苦痛だったのか、尻尾をブンブン振り回していて鎧が尻尾からスポーンと抜けたのじゃ」


 なるほど、あいつが外れるくらいの苦痛だったのか。

 やはりスケルトンの噛みつきは気を付けるようにしよう。


「そしてバラバラになったケビンを吐き出し、次に小娘を吐き出したのじゃ」


 そこは覚えている。

 ネバリ草の水分が苦手な所が無ければなー。


「そしてヘビはそそくさと逃げて行き、小娘は皮の鎧とボロイ鎧をもって歩き出したからわしは小娘の後を、ポチにポチにその辺にある宝箱にケビンを詰めるように言ったのじゃ」


 自分が触りたくないからってポチに拾わせたのか。


「ねちょねちょのエサをさわるのはいやだったが、ごしゅじんさまのいいつけだったからな。――よし、これでぜんぶあらいおわり!」


『ああ、ありがとよ……』


 綺麗並べられての陰干し……いよいよ、物になった気分だ。

 まぁ宝箱に詰められる行為自体が物扱いか……ん? ……宝箱? はて、宝箱で何か忘れている様な気がするんだが……ああっそうだ!


『その時、ジャイアントスネークは宝箱を吐き出していなかったか!?』


 あの中にはコレットの絵が、俺の宝が入っているんだ。


「宝箱じゃと? いや、あのヘビはケビンと小娘を吐き出したのみじゃが……」


『何だって!』


 じゃあ、今もジャイアントスネークの腹の中なのか?

 だとすると、もうどこかに逃げてしまったから取り返す事は出来ないじゃないか。


『俺の宝が消えてしまったじゃないかああああああああああ!!』


 そんな事って……。

 ああ……俺も消え去りたい……。


「? 何をそんなに嘆いているのかよくわからんのじゃが話を戻すのじゃ。で、小娘はしばらくうろうろしたのち二つの鎧を持って帰ってしまったわけじゃ」


『……』


「お~い、どうしたのじゃ? 話を聞いておるか?」


『……』


 今は何も考えたくない……何も……。


「なんじゃ? えらく落胆している様に見えるのじゃが……まぁそうち元に戻るじゃろ。ところでポチ、気になった事があるのじゃがいいか」


「なんですか?」


「ケビンのパーツは全て回収したのじゃな?」


「はい。エサのにおいをおいましたから、すべてです」


「わしにはケビンの上の前歯が1本足りんように見えるのじゃが……」


「あ、ほんとうですね。おっかしいな~エサのにおいがするほねはなかったのに」


「そうか……まぁケビンは食べ物を食べないし、前歯1本無くても問題はないじゃろ。ポチ、ケビンが色んな意味で治るまで時間がかかりそうじゃから、一緒に木の実を取りに行くのじゃ。わしはもう腹ペコじゃ……」


「は~い、ポチとしてはエサをたべたいところなんだけどな~。あっまってください、ごしゅじんさま~」


『…………』

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