第133話 ケビンの書~消滅・7~

 くそ……俺とした事がやってしまった。

 自分から食われるに行くなんて、馬鹿にもほどがあるぞ。

 こんな格好の悪い所をコレットが見てなかったのがせめてもの救いか……。


『いやいや、今はそんな事を考えてる場合じゃないだろ俺!』


 早くこいつの腹から脱出して、そのコレットを助け……待てよ。

 どの道コレットを引っ張り上げるつもりだったんだから、このまま奥に入っていけばいいのでは?


『よし、そうとなれば即行動だ。――よっ! ぐぬぬぬぬぬ! ぬおおおおおおおお! ……くっ! だっ駄目だ』


 身動きが取れなくて、まったく奥に進めん。

 ……仕方ない、脱出を優先しよう。

 前が駄目なら後ろに下がって口から出てやる。


『――ほっ! ぐぬぬぬぬぬ! ぬおおおおおおおお! ……こっちも駄目か』


 前にも後ろにもまったく動けない。

 ……あれ? これはもしかして詰みって奴なんじゃ。


『……』


 いやだああああああ! こんな形で終わるなんて!

 自分から死地に行き、そしてコレットも助けていない、こんな馬鹿げた話があってたまるか!

 何としてでもここから出る方法を考えないと。


『……だが、今動かせるのは頭位だし……頭……あっそうだ!』



《さて、スケルトンも食った事だし街へと……ん? なんか腹の調子がおかしいような……っいででででで! なっなんだ!? 急に腹がいてぇぞ!?》


 頭が動かせると言っても、頭突きではさほどダメージを与えられないだろう。

 だが……。


『――ハググググッ!』


 噛みつきなら、どうだ? 持続的なダメージを与えられ続けてきついだろ。

 しかも頬の部分の肉が無いおかげで、こいつの肉を奥歯までしっかりと噛めるから威力も大きいはずだ。

 

《あだだだだだ! これはおかしいぞ、尋常じゃない痛みだ! まさか!? おい、スケルトン! 俺の腹の中で何をしているんだ!?》


 よしよし、思った通り相当痛がっているな。

 このまま噛み千切ってやる!


『お前の腹の中で噛みついているんだよ! ――ハグッ!』


《はっ!? なんて事をしているんだこの野郎! やめ――いだだだだだだ!!》


 どうやら腹の中での噛みつきの効果は絶大みたいだな。

 うん……他のスケルトンがやってくるかわからんが、スケルトンの噛みつきには十分気を付けよう。


『グググッ! プハッ……やめてほしくば、俺とコレットを吐き出せ! ――ガブッ!』


《ぎゃあああああああああああ!!》


 よほど痛いのか体をくねらせて暴れ出した。

 この調子だ、もっと顎に力を込めて!


『ググググッ!』


《ぎゃあああああああああああ!!》


〈あだだだ! 背骨が折れる!〉


 なんかコレットも悲痛な叫び声も上げているようだが……すまん! 時間が無いからここは我慢してくれ。

 恐らくこいつの体液のせいで、体のネバリ草が取れてしまったんだろう……そのせいで、俺の体がバラバラになってしまっているんだ。

 となるともうじき俺の意識が飛ぶのが目に見えていから、その前に必ず吐き出させてやる!

 

『さぁ! 早く吐き出せ! ――カブッ!!』


《うぎゃあああああああああああ!! うぐぐ……もうこれ以上は耐えられん。仕方ない、尻尾を振ってその勢いで緊急脱出! ――とおっ!》


「!? シャーーーーーーーーー!」


 おっ何やらお腹の動きが中の物を押し出そうとしているな、たぶん俺を吐き出そうとしているんだ。

 いいぞ、その調子だ。


「むぎゅうううううう!」


『ん? 奥から何かが出て……あっ! あれはコレット……』


 ……のブーツかな?

 顔が見えないから全くわからん。

 まぁ他に食われた者もいないはずだし間違いないだろう……多分。


 ――ペッ!


『うおっ!』


 やった! ジャイアントスネークが吐き出したぞ!


「きゃっ!?」


 後から吐き出されたブーツは……やっぱりコレットだ!


『助かっ……た……?』


 あれ……目の前が……真っ暗に……なって……い……く……。

 意……識が……コレ……ト……。




 ◇◆アース歴200年 6月22日・夜◇◆


 ……ん……眩しい……。

 ……何だ……この光は……。


『……うう……』


「ん? エサが、いまうごいたような……」


 目の前にいるのは、ポチか?


『……ここは……どこだ……?』


 虹色に輝く大きな木が見える……あれは【母】マザー


「お、しゃべったしうごいた。――ごしゅじんさまーエサのいしきがもどりました」


「ふむ、そうか」


 となると、ここは【母】マザーが生えている地下か。

 はて、どうして俺は宝箱の中に入っているんだろう。


『…………ん?』


 これとほとんど同じやり取りを昨日した気がするんだが……気のせいかな。


「どうじゃ、気分は?」


『……ん、まだ頭がぼーっとするな……って、ナシャータは何でそんなに離れているんだよ?』


 めちゃくちゃ俺から距離を取っている。


「離れるに決まっているのじゃ! 蛇の腹の中に入っていた奴の近くになんか寄りたくないのじゃ!!」


 ああ、それでか。

 そうは言うが仕方がないだろう、コレットを助ける為だったんだ……し……。


『ああっ! コレットは? ジャイアントスネークはどうなった!?』


 ジャイアントスネークから一緒に吐き出されるのは見ていたが、その後は意識が飛んでしまっていたからまったくわからん!


「小娘なら脱出したし、ヘビもそそくさと家から出て行ったのじゃ」


『そうか……それは良かった……』


 コレットには怖い思いをさせてしまったが、無事で何よりだ。

 それに寄生の鎧も馬鹿だな、ジャイアントスネークのまま外に逃げれば討伐されるだけなのに。

 ともあれ、とりあえずはこれで一安し――。


「ただ、寄生の鎧は小娘の奴が持って帰っていったじゃがな」


 ――ん!?

 こいつ今なんつった!?

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