第121話 コレットの書~発生・2~

 カルロスさんも現役だったら、カルロフさんみたいに重厚な鎧を着てここにいたのかしら。

 ……先にカルロスさんを見ていたせいか、カルロフさんのきちっとしている鎧姿がすごい違和感。

 

「ゴホン。では、この不肖カルロフ・レガイタスが今回の依頼の内容を説明します! よろしくお願い致します!」


 それにしても大きな声、屋外ならともかく屋内でそんな大声を出さなくてもいいじゃない。

 口調からしても性格が何か堅そうな感じがするし、私の苦手なタイプかも。


「各班は手渡された地図に描かれた円の範囲を捜索、ジャイアントスネークを見つけ次第討伐! 以上であります!」


 短っ! しかも、内容はグレイさんから聞いていた事だし。

 それってわざわざ注目させて言う事なのかしら。

 

「何かご質問等はございますか!? ……無いようですので、これにて終わるであります! 各自たのみましたぞ!」


 他の冒険者さんたちが一斉に立ち上がって動き始めた。

 けど、同時に入り口に行ったせいで詰まってる。


「ありゃあしばらく出られないな、少し待つとしよう」


「そうですね」


「うっス」


 そうだ、今のうちにケビンさんのプレートの事を話しておこう。


「グレイさん、これを見てほしいんです。昨日、遺跡で見つけました」


「ん? 冒険者のプレートがどうかし……っ! これはケビンの!? ――っコレット!」


「あいた!」


 グレイさんが私の肩を力いっぱい掴んできた。

 あれ? この状況は……まさか……。


「遺跡のどの辺りで拾ったんだ!?」


 ぎゃあああああああああああああ!

 やっぱり、体を前後に揺らしてきたあああ!


「いいいいますからあああ! ははは放してくくくくださいいいいいい!」


 グレイの力でそれをやられると、首の骨が折れそうなんだってば!


「先輩! ストップ! コレットさんが死んじゃうっスよ!」


「――あ。すまん、取り乱した……」


 ……助かった~。

 マークさんが止めてくれて良かった。


「いっ、いえ。ふぅ……え~と、拾ったのは私がゾンビに襲われた場所なんです」


「あんな所に? そんな馬鹿な、あの辺りは何回も探索したぞ」


 そこなのよね。

 グレイさんは長い間、遺跡を捜索しているのに見逃していたなんてありえない。


「となると、考えられるとすれば。ここ数日遺跡内が荒れに荒れた影響で出て来たか、モンスターか動物かが何処からか拾って来たか。うーん……今すぐにでも、その落ちていた場所を調べに行きたいが……」


 グレイさんが、机の上にあるジャイアントスネークの絵を悔しそうに見てる。

 その気持ちわかります……私もそうだもの。


「さすがにジャイアントスネークをほってはおけない。遺跡に行くのは、この件が片付いてからだな」


「そうですね……」


 人が襲われる可能性がある以上、こっちが最優先。

 もう~タイミングが悪いな~。


「あのーそのプレートがどうかしたっスか?」


 私達にとっては重要なプレートだけど、マークさんにとってはただのプレートだから不思議そうにしている。当然と言えば当然よね。


「このプレートはですね――」


「――グレイ殿!」


 ……また、でかい声に遮られた。


「何だよ、カルロフちゃん」


 ブッ! まさかの兄弟そろってちゃん付け!?


「その呼び方は止めろと何度も言っているでないか!」


 何だ、グレイさんが面白がって言っていただけか。


「ゴホン! それより今回の件、私に押し付けただろ?」


 あ~やっぱりそうだったんだ。


「……何の事か俺にはわからんな」


 だったらグレイさん、何で目線を横にずらしているんですか。


「とぼけるな! 今のリリクスに四つ星冒険者はお前しかいない! この話が行かないわけがないだろう! せっかく休養を兼ねて父上と母上に会う為里帰りしたのに、これでは意味がないではないか!」


「お兄ちゃんの事を忘れてるぞ」


「あんな奴は兄ではない、顔も見たくないわ!」


 そう言っても、鏡を見たら嫌でも見る事になるよね。

 だって、同じ顔だし。


「それとだ、先ほどから何やら話しているようだが……まさか、サボる算段をしていたのではあるまいな?」


 なっ!


「はあ? そんな話してねぇよ!」


「ふん。貴様の事だ、信用ならん。貴様等を監視する様にギルドと話してくる」


 ちょっと何よ、この人!


「待ってください! 私達はそんな話をしていません!」


「俺にもよくわからないっスけど、サボる様な話をしてない事はわかるっス!」


「ほう、では何の話……をっ!!」


「?」


 どうしたんだろう、急にカルロフさんの顔が赤く染まっちゃった。

 熱でも出たのかしら?


「……おっお嬢さん、お名前は……?」


「え?」


 周りに女の人はいないし、という事は聞かれたのは私?

 何で、いきなり名前を聞いて来たんだろう。


「あの、コレットと言いますけど……」


「……コレット殿……良い名前だ」


「はあ……」


 これは、どういう状況かしら。


「おっと、失礼。自己紹介がまだでしたな。私の名前はカルロフ・レガイタスと申します」


 知っています。

 さっき大声で言っていましたし、グレイさんからも聞きましたし。


「それで、何のお話をしていたのですかな? 是非、あなたのお口から聞きたいです」


 ――ゾワッ!

 何!? 何か寒気がした!


「えと、あの、その、話していたのは――」



「――という訳、なんです……」


 一通りケビンさんの事を話したけど……。


「ぽー……」


 話している時、ずっと私の方を見続けてぽけ~としていた。

 何なのよ、一体。


「あの、私の話を聞いてました?」


「ハッ! 無論です、一字一句聞き漏らさずに聞いていましたとも!」


「……ならいいんですけど」


 本当かしら。


「んん、事情は分かりました! 実に素晴らしい! よろしい、不肖ながらこのカルロフ・レガイタス。コレット殿の為にケビン殿を探すお手伝いをします! さあ、共に遺跡に行きましょう! 今すぐに!」


「はいっ!?」


 今すぐって、また何を言い出すのよ! この人は!?

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