第122話 コレットの書~発生・3~

「おいおい、カルロフ……お前はいきなり何を言い出すんだよ。ジャイアントスネークを放っておくわけにはいかんだろうが」


 そうそう、すごく大事な事ですよ。

 そりゃ私だって今すぐ遺跡には行きたい。


「むっそうだな……。よし、少し待っていて下さいね! コレット殿」


 カルロフさんが立ち上がって、外に出て行った。

 何処に行ったのかしら。


「え~と、どうしましょ?」


「んーさっさと捜索に行きたいが、あいつを放って行ったら後がうるせぇのも目に見えているしな……しょうがねぇ、しばらく待つとしよう」


 待つんだ。


「……わかりました」


「マジっスか……」


 カルロフさん、早く戻ってくるといいけど。



 ……うん、遅い。

 ギルドから出て行って結構たつのに、まだ戻ってこない。


「まだですかね」


「そうっスよねー。先輩、ここまで待つ必要あるっスか?」


 ここまで待たされるのなら、ジャイアントスネークの捜索に十分時間を使えたのにな~。


「……そうだな、さすがにこれ以上待つのは時間の無駄だ。ことづけをキャシーに頼んで――」


「――コレット殿! お待たせして申し訳ありません、今戻りました!」


「……」


 私の名前を大声で言いながら、中に入って来るのは止めてほしかった。

 なんだかすごく恥ずかしいんだけど。


「タイミングが良いのか悪いのか、カルロフの奴が戻って来たな」


「……ですね」


 まあいいや、これでやっと捜索に行け……。


「ですが、まだやらなければならない事があるため、今しばらくお待ちを! コレット殿!」


 ……ないのね。

 それと、後で名前を大声で言わないでほしいって言っておかないといけないわね、これ。


「何やら、受付嬢さんと話してるっスね」


 カルロフさんがキャシーさんに手紙らしきものを渡してる。

 キャシーさんがそれを見て……アワアワして……2人で2階に上がって行っちゃった。


「どうして2階に行ったんですかね?」


「リリクスのギルド長様に会われる為でございます」


「ひゃっ!」


 背後から声!?


「おっと、驚かせてしまいましたようで申し訳ございません」


 え、え、この燕尾服を着たおじいちゃんは誰なの!?


「お久しぶりです。ホートンさん」


「お久しぶりでございます、グレイ様。ご壮健で何よりです」


 会話的にグレイさんと知り合いみたいね。

 あ~びっくりした。


「え~と、グレイさん。この方は?」


「これは失礼いたしました。私はレガイタス家の執事をしておりますホートン・コニックと申します。どうぞお見知りおきください」


「はあ……」


 レガイタス家ってどこかで聞いた様な。

 あっそうか、カルロスさんとカルロフさんの……って執事!?


「グレイさん、レガイタス家ってもしかして……」


「あー有名な家系だ」


 やっぱり。

 そうじゃないと執事なんて……。


「何せレガイタス家は代々ギルドの幹部をやっているからな。今はあいつ等の父親がやっている」


「ギルドの幹部なんですか!?」


 とんでもない家系の双子だったんだ。


「で、跡をカルロスが継ぐはずだったんだが……そのカルロスは冒険者を勝手に辞めてな、かなり揉めたらしいぞ」


「あの時は、本当に大変でございましたよ」


 でしょうね。

 ただ、カルロスさんの身に一体何があったのかすごく気になる。

 気にはなるけど、これ以上深入りするのは怖い。


「――何度もお待たせして申し訳ありません! やっと話をつけました!」


 カルロフさんが1階に下りて来た。

 で、この人は何の話をしているんだろうか。


「えと、話をつけたってどういう事ですか?」


「ジャイアントスネークの件です。では、ホートン頼んだぞ」


「畏まりました。では、参りましょうグレイ様、マーク様」


 え? ジャイアントスネークの件なのに、何でホートンさんが出てくるのかしら。


「いや、参りましょうって」


「俺もっスか? 何が何やらわからないっス」


「私と現在契約している冒険者数名が、ジャイアントスネークの捜索及び討伐のお手伝いをさせていただきます」


「「「えっ?」」」


「その許可を頂けるよう、ギルド長と話していたのですよ」


 なるほど、キャシーさんがアワアワしていたのはそのせいだったんだ。

 でも、それって完全に権力を使ってますよね?

 ……まあ、早く終わればその分、遺跡探索できる。

 けど、ただ一つ気になった事が。


「あの契約している冒険者はともかく、ホートンさんはギルドと関係ないですよね。そんな事をしてもいいんですか?」


「ギルドの依頼を受けたり、報酬等はもらえないが参加は自由だ。まぁホートンさんは無関係じゃないがな」


「へ? それはカルロフさん達の関係者だからですか?」


 さすがにそれはひいきし過ぎと思うんだけど。


「いえ。お恥ずかしながら、私も冒険者なのですよ。今は第一線から退いていますが」


 ホートンさんが照れながら冒険者のプレートをポケットっから出して来た。

 なるほど、確かに無関係じゃないわね。

 えーと、星の数は……5つか……。

 ん? 星が5つ?


「……ええっ!? 五つ星級冒険者!?」


「若い頃はダンナ様と共に無茶をしていました。ホッホホ」


 初めて見た五つ星級が執事。

 何だろう、この複雑な気分は。


「という訳で、後はホートンに任せて二人でケビン殿を探しに参りましょう!」


 二人?


「あの、四人じゃ?」


「いいえ、二人です。グレイ殿と一つ星殿はホートンと主にジャイアントスネーク退治に、私とコレット殿はケビン殿探しに遺跡へ向かいます」


 なんですと!?


「なっ!? お前何を勝手な事を言っているんだ!」


 どうして、カルロフさんはそこまでするの?

 ケビンさんと接点はないみたいだったのに、この人の考えている事が全く分からない。


「これ以上は話す時間がもったいない。ホートン、二人を連れて探索に迎え」


「かしこまりました」


「ちょっと待て! こんな事――」


「失礼」


「――ガッ!」


「グレイさん!?」


 ホートンさんが、グレイさんの首後ろを手刀で突いて気絶させちゃった……。


「先輩!? おっ俺は着いて行くっスから手刀は勘弁っス!」


「わかりました。――よいしょ」


 あの重いグレイさんを、簡単に担いじゃった。


「ではカルロフ様、行ってまいります。カルロフ様もお気を付け下さいませ」


「ああ」


 え? 本当にカルロフさんと二人で遺跡に行くの?

 何かもう色々起こりすぎて、頭がついて行かないんですけど……。

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