12章 二人の発生と消滅

第120話 コレットの書~発生・1~

 ◇◆アース歴200年 6月22日・朝◇◆


「ハッ! ハッ! ハッ! ――っもう! 私の馬鹿馬鹿!」


 昨日は帰ってからまだ時間があったのに、何でギルドに行く事を考えずにケビンさんのプレートを見つけたのが嬉しくてベッドにダイブしちゃうかな。

 しかも寝転がってプレートを眺めながら、何で最初に気が付かなかったのか、何で誰も見つけなかったのか、どこからか落ちて来たのか、あのゾンビがケビンさんだったのか、あのスケルトンがケビンさんだったのか、もしかしたらケビンさんは生きているんじゃないか。

 と、ありえない事も含めて色々考えている内に、そのまま朝まで寝落ちしちゃうし……。

 まあ寝ちゃったものは仕方ない、今は早くギルドに行ってグレイさんこのプレートを見せないと!



「ぜぇ~ぜぇ~」


 走ってギルドまで来たもの、グレイさんはいるのかな。

 いなかったら、体力を無駄に消耗しちゃっただけ。

 相変わらず浅はかな自分……。


≪――!≫


「ん?」


≪――! ――!≫


 何やらギルド内が騒がしい。

 なにかあったのかな。


「他の村や町に被害はあったのか?」

「――で、この卵を檻の中に入れておいてだな……」

「馬鹿! そんな小さい卵に釣られるわけがないし、そもそもそんな小さな檻に入るわけないだろう!」


 これは何事?

 冒険者さん達が各テーブルであれやこれや話しているけど、普段と違ってかなり殺気だっている様な……。


「――コレットさん、おはようございます!」


「おはようございます、キャシーさん」


 キャシーさんが紙の束を持って、カウンターの奥から出て来た。

 すごい忙しそうだけど、持ってきた漢方薬は渡さないと。


「あの、漢方薬を……」


「あ、ありがとうございます! えっと、それは――」


「おーい! こっちにも、その資料をくれないか!」


「あっは~い、ただ今! ――すいません、漢方薬はそこのカウンターにでも置いといてください! 後、グレイさんはいつもの席に居ます!」


「はあ……」


 行っちゃった……戦争になりえるものを、カウンターの上なんかに置いといて大丈夫なのかな。

 まあいいや、言われた通りに置いておこう。

 さてグレイさんはいるみたいだし、このプレートの事と今何が起こっているのか聞かないとね。


「えっと、いたいた。グレイさ~ん、おはようございます」


「おう。こっちに座れ」


「おはようっス、コレットさん」


 マークさんも一緒にいる。

 そういえば、この2日くらいマークさんを見てなかったわね。


「おはようございます、マークさん。――よいしょっ」


「良かったっス、元気になったんスね!」


「あ~……はい、ありがとうございます」


 さっきの漢方薬でとっくに元気になっていたんだけどね。

 でも、これは話せない事……そもそも、マークさんに話しちゃったら1日でリリクス中に広まってしまいそうだしどっちにしろ言えないか。


「さすがに男1人で女性の部屋に行くのは気が引けるので、先輩と一緒に見舞いに行こうと思ってたっスけど、丸1日ギルドに来ないわ、来たと思えば部屋に入って出てこないわでまったく行けず申し訳ないっス!」


「いえ、気にしないで下さ――」


 ん? 男1人で女性の部屋に見舞い……。

 グレイさんはキャシーさんと宿前で会ったから二人で来た。

 という事は、元々男1人で見舞いに来たって事よね……しかも合い鍵を持って……うん、改めて馬鹿な事をしたことを実感。


「どうかしたっスか?」


「あ、いえ何も。で、これは……」


 テーブルの上には線で丸が書いてあるこの辺りの地図が広げてあって、その横にはヘビの絵が描かれた紙がある。

 うん、それだけで今何が起こったのか大体の想像がついた。


「昨日の夕方頃、リリクスの近くにある牧場がジャイアントスネークに襲われたんだ。それでギルドが緊急で討伐の依頼を出した」


 はあ、やっぱりね。

 ジャイアントスネーク、名前通りの巨大なヘビ。普段は山の奥や沼にいるけど、たまに人里に出没して牧場や人を襲うために発見され次第討伐されている。


「……ちなみに、その目撃されたジャイアントスネークの大きさはどのくらいなんですか?」


「牧場主の話によると10mくらいだそうだ」


「じゅっ!?」


 いやいや! でかすぎでしょ!

 村にいた時でもそんなに大きいのは出ませんでしたよ!?


「そう心配するな。お前たちは這いずりの跡や、姿を見たら俺に報告するだけでいい。討伐は俺がする」


 それでも、そんな巨大なヘビは見たくないんですが。


「で、俺たち三人の捜索範囲はこの丸で囲っている所だ」


 3人って、しっかり私も数に入っている。

 う~できれば関わりたくなかったな……せっかくケビンさんのプレートを見つけたんだから、遺跡に……あっ、ケビンさんのプレートの事を話さないと。


「あの――」


「冒険者の皆さん! 資料等は行き渡りましたか!? では、私めの話を聞いてください!」


 ――ちょっと! 人が話している時に大声で割り込まないでよ!

 もう一体誰、あの長髪でちょび髭のいかつい男の人……は?

 あれ、あの人って……。


「カルロスさん!?」


 どうして、ここに?

 というかあの髪は、カツラ? 何でそんな物を被っているんだろう。


「そうか、コレットは知らなかったな。あいつはカルロフ、カルロスの双子の弟だ」


「あ~なるほど。そうだったんですか」


 通りで見間違えるはずだ。


 カルロフさんのプレートにある星は4つ……グレイさん以外に初めて四つ星級冒険者を見られた。

 にしても、双子とはいえ雰囲気が兄と弟でかなり違うものね。


「リリクスに里帰りしたら、ギルドにジャイアントスネークの依頼を頼まれたらしい。せっかくの里帰りなのにタイミングが悪いもんだな」


 何だろう、何か違和感……そうよ! この依頼がグレイさんに来ないわけがない!

 それにカルロフさんが里帰りしているのを知っていたし、これは確実にカルロフさんに投げたんだわ。


「ちなみにカルロスも元四つ星冒険者で、カルロフとコンビで双星と呼ばれる凄腕冒険者だったんだ」


「ええっ!?」


 カルロスさんも冒険者だったの?

 しかも、四つ星って……一体カルロスさんに何があったんだろう。


「その時の経験を生かしたのが、今の鑑定士ってわけだ。名の通った元四つ星級冒険者の目利きは信頼できるだろ?」


 確かに……でも、それは行く前に言ってほしかった。

 初めてカルロスさんに会った時は、信頼のしの字もなかったです。

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