第114話 ケビンの書~輝く者・1~

 ◇◆アース歴200年 6月20日・夜◇◆


「お前を魔晶石の間まで運んでやったというのに、どうして頭を叩かれなければならぬのじゃ!?」


『うっさいわ! 自分の胸に手を当てて考えろ!』


 体が再生して、今日の恨みを込めてナシャータの頭にゲンコツを食らわしたが……。

 まさか、食らわした俺の右腕がバラバラに弾けるとは思いもしなかったぞ。


「ん~……?」


 ナシャータの奴、本当に自分の胸に手を当てていやがる。

 言葉の意味をわかっていないとは……。


『まったく、体が再生したばかりなのにお前が石頭のせいで、また再生待ちをする羽目になったぞ』


「いや、待つのじゃ! そうなったのはケビンの腕がもろいせいじゃろうが! 後、胸に手を当てたが何もわからんのじゃ!」


 本人は今日の事で、全く思い当たる節が無かったらしい。

 ナシャータに意思が伝わっていないし、俺の右腕がバラバラになるし、骨折り損とはまさにこの事だ。


『……』


「何じゃその目は!?」


 その目って、俺には目が無いんだがな。


『……気にするな』


 もういいや、こいつと言い争っていても不毛なだけだし。


「気にするなと言う方が無理じゃろ!!」


 さて、こいつの事はほっといて、これからどうしたものか。

 黄金の剣はあの親父が持って行ってしまったし……あ、さっきのせいでコレットの鎧がへこんでいたから、今度は鎧をプレゼントすれば喜ばれるんじゃないか?


「おおい! わしを無視するな!」


 となると、ここにあるのは黄金の鎧と……あのモンスター鎧か。

 あのモンスター鎧は論外すぎる、あんな「者」をコレットに渡せるわけがない。


「むぅ~……」


 かといって、黄金の鎧の方も重すぎるのが問題なんだよな。

 これをどうにか軽くする方法はないものか。


『……そうだ!』


 鎧を前と後ろに切って2つに分けて、前の部分を胸当てに加工すればいいんだ。

 そうすれば、だいぶ軽くなるはずだからこれをコレットにプレゼントだ!

 よし、そうと決まればさっそく行動だ。


『なぁナシャータ、頼みがあるんだが』


「……散々わしを無視しといて、頼み事とはどんな神経しておるのじゃ」


『うっ』


 しまった、このタイミングで頼むのはまずかった。

 ナシャータの奴、すげぇ頬っぺたを膨らまらませてやがる。


「……じゃが、今は置いといてやるのじゃ。もっと重要な事があるのじゃからな」


『な、なんだよ』


 ナシャータの目が怖い。

 何だ? 重要な事って。


「夕菓子を作るのじゃ! わしは腹が減ったのじゃ! こればかりは無視させぬのじゃ!」


「あ! ポチもおなかがすいた!」


『……』


 そんな事かよ……。

 いや、確かにそれは生き物にとって重要な事だよな。



「ふう~食った食った。で? わしにどうしてほしいじゃ」


 腹が膨れたからなのか、ナシャータの機嫌が直ったようだ。

 相変わらずだな、こいつは。


『食っている間に、黄金の鎧に線を掘っといた。それに沿って前後に切って分けてほしいんだ』


 こうしておけば鎧が変に割れる事もないからな。

 さすがは俺、下準備も完璧だ。


「それを割ればいいのじゃな。……しっかしクネクネに曲がっているのじゃ。ケビン、少しは真っ直ぐにしようとは思わなかったのか? これじゃと変な形で分かれるのじゃ」


『その辺に落ちていた、尖った石で線を引いたから曲がってしまったんだよ! いいから、さっさとやってくれ!』


 曲がっていても後で加工すればいいんだよ!


「適当な奴じゃな……ふん! ――ほれ、これでいいか?」


 おお、さすがナシャータだな線通りに割れた、まぁ切口は案の定クネクネしているが……。


『ああ、助かった』


「前を使うのか? じゃあこの後ろの部分はどうするのじゃ?」


『あー後ろか……』


 後ろの部分は使い道はないな。

 黄金ってだけで価値はあるんだが……ナシャータの火の魔法で溶かして何かを作るとか?

 いやいや、俺は職人じゃないからそんな事出来るわけがないじゃないか。


『うーん……』


「これはまた、答えが返ってくるまで時間がかかりそうじゃな。それにしてもキラキラと綺麗じゃの……そうじゃ割った部分を少し削って……それを髪に馴染ませれば――どうじゃポチ?」


「おお! ごしゅじんさま、キラキラしてきれいです!」


 ああ、もう! うるさい奴らめ!

 考えに集中できな――。


『おい、ナシャータ。その髪のキラキラは何だ?』


「このキラキラを少し削って、髪に馴染ませたのじゃ。どうじゃ?」


 なるほど、金粉にして髪の毛に付けたのか。

 ……金粉……付ける……これだ!


『ナシャータ、悪いがネバリ草を採って来てくれないか?』


 名前通り粘々の粘液を持つ植物で接着剤代わりにも使われる。

 研究室の資料に名前があったから、ナシャータもどんなのか把握しているはずだ。


「どうじゃと聞いているのに何故ネバリ草が出てくるのじゃ……。面倒くさいから嫌じゃ」


 当然そう言うとは思った。


『あー、ナシャータ』


 だがな……。


「なんじゃ、どう言おうがわしは――」


 お前は絶対に動かざるを得ないんだよ。


『菓子の材料が少なくなって来てな、明日分くらいしかないんだ』


「……何じゃと!?」


 ちなみに嘘ではない。

 ナシャータがばかすか食ってたせいで、本当に材料が少なくなっているからな。


『材料集めはナシャータしか出来ない、まぁもう菓子がいらないというなら話は別だがな』


「うぐっ」


 こいつの場合、菓子で釣れなかったことはないからな。

 ほぼ確実に……。


『集めるついでに、ネバリ草を採って来てくれると助かるんだがなー』


「く~! こいつと来たら……っ! わかったのじゃ菓子の為じゃ。ついでにネバリ草も採って来てやるのじゃ」


 よし! ヒット!


「じゃが採りに行くのは明日じゃ。わしはもう寝たいからな」


 あーそうだった、今は夜だ。

 また機嫌を損ねると面倒くさいし、そこは妥協しよう。


『わかった、それでいい』


 この体になってから昼夜関係ないからな。

 感覚がおかしくなってきている気がする。


「それじゃ、わしはもう寝るのじゃ。お休みなのじゃ」


『ああ、おやすみ』


 そうしたら、今は俺の出来る事をするか。

 眠気が来ないし、疲れないから、一晩中作業出来るのはこの体の良いとこだよな。

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