第113話 コレットの書~撮る物・7~

 うわ~スケルトンが立ったままで真っ黒こげになっちゃってるよ。

 それにしてもあぶなかったわね……エフゴロが蹴られてあの場所から離れていなかったら、あのスケルトンみたいに真っ黒こげになっていたかも。


「あ、そういえばグレイさん。天井が爆発する前に悲鳴が聞こえませんでしたか?」


「そうか、コレットも聞いていたって事はあれは空耳じゃなかったのか」


 あんなにはっきりと聞こえたんだから空耳なわけないよ。

 それに何やら悶絶していた感じもあるし。


「はい。でも、あの時に私たち以外に誰かいました?」


 爆発が起きる前もそうだけど、今も辺りを見る限り私たち以外は誰もいないのよね。

 今いるとすれば、あの焦げたスケルトンぐらいだし。


「いや、いなかった。罠の事もあるからより注意深く辺りを見ていたし、スケルトンが出て来た時は後方にも意識していたからな」


 あの状態で後ろも気にしていたんだ。

 私は完全にゴールデン・スケルトンに目がいってて後ろなんて全く考えていなかったよ。


「じゃあ、あの悲鳴は一体なんだったんでしょう……」


「……わからん」


 ええ……。


「……」


「……」


「あっ! きっと風ですよ! ほら、風が吹くと音が鳴るじゃないですか! それが悲鳴に聞こえたんですよ!」


 色々考えると怖くなってきたから、そういう事にしておこう。


「そ、そうだな! ここは遺跡内だから、強風が吹いて音が鳴ったんだろうな! うん、そうに違いない!」


 この遺跡で、また一つ謎が増えちゃったよ。


「うう……私の複写機……」


 あ、エフゴロさんの事をすっかり忘れてたわ。

 それにしても雷が近くで落ちてすごい爆音だったのに、エフゴロさんはショックが大きすぎて壊れた複写機以外の事は何も頭に入ってこないみたいね。

 長年の苦労が一瞬で壊れたから悲しいのは分かるけど、今の落雷くらいは反応しようよ……それはそれで怖いんですけど。


「グレイさん、これからどうしますか?」


「そうだな。あの不気味なスケルトンはあんな状態だし、もう動く事はないだろうが……肝心のエフゴロがこんなありさまじゃ調査を続けるのは無理だな。やはり今日はここまでにして、転送石で街に戻るとしよう」


「うう……私の複写機……」


 もはやエフゴロさんはこの台詞しか言わないし、仕方ないか。

 あ~あ、今回は収穫なしね。


「わかりまし……あっ」


 スケルトンが着けていた金の胸当てが外れて床に落ちてる。

 という事は、あれを持ち帰ってカルロスさんの所へ持って行けば!


「ちょっと待ってください、あの金の胸当てを拾ってきますから」


 明らかに金の剣より買取値が低いのは目に見えているけど、無いよりはあった方がいいものね。

 やった~収穫があったわ。


「コレット、ストップ! それ以上行くのは危険だ!」


 危険って何がだろう。

 スケルトンはあんな状態だし。


「どうしてですか、特におかしな所は無いですよ?」


「正面じゃなくて下、床を見ろ」


 床? 床に何があるのかしら。


「――っ! 床にヒビが入ってるし!」


 危ない危ない、また床が崩れて落ちていたかもしれなかったわ。

 

「爆発のせいか落雷のせいかは分からんが、そこに近づかない方が賢明だな」


 そんな、黄金が目の前にあるのに取れないだなんて!


「……」


 どうにか取れる方法はないかしら。


「そんな物欲しそうな目で見るな。俺もあの金を持って帰りたいさ……でも、こればかりはあきらめろ。欲を出すと碌な事にならんぞ」


 うっ心を読まれた。


「……はい」


 諦めも大事か……。

 でも、ケビンさんに関わる物なら諦めたりはしないけどね!




 ◇◆アース歴200年 6月21日・夕◇◆


 雷雨がウソのように街は晴れ渡ってるわね。

 とはいえもう日が沈み始めてるけど。


「……私の複写機……」


 街に戻ってもまだ言っているよ、この人。


「それじゃ、俺はこいつを家に連れて行くから今日はここで解散しよう。また明日な」


「はい、わかりました」


 私も今日は寄り道せずに宿に帰ろうっと、色々ありすぎて疲れちゃったし。



 と、早々に宿に戻ったのはいいものの、まだベッドに入るほど眠たくはないや。

 ん~どうしたものか……そうだ、神父様たちに手紙を書いて私の絵を入れて送ろう。


「確か急かされたから服のポケットに入れて……あれ? こっちのポケット入れたかな? ……無い。ポケットじゃなくて袋に入れたのかしら。――よっと」


 これは見取り図だし、これはメモだし、これも違う。


「あれ~? おかしいな、どこにも無い」


 これは、どこかに落としちゃったかもしれない。

 写し直しをしようにも複写機が壊れているからできないし。


「はぁ仕方ないか、手紙だけ送るしかないわね。――ん? 袋の底に小さい板みたいなのがあるけど何だろう……あっ」


 遺跡で拾った冒険者のプレートじゃない! しまったな~すっかり忘れてたわ。

 かと言って、今からギルドに持って行くのも手間だし……まぁいいか、どうせ明日もギルドに行くしね。その時に、このプレートをキャシーさんに渡せばいいや。


「え~と、プレートを落とした人の名前は……ケビン・パーカー……さんか」


 はて、どこかで聞いた事がある様な……。


「……」


 えええっ!! ケビン・パーカーですって!?

 じゃあ何、これはケビンさんが付けていたプレートって事!?

 どうしてあんなところに落ちていたの!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る