第115話 ケビンの書~輝く者・2~

 さて、兎にも角にも金の鎧を加工するのなら道具が必要だが、そんな物はこんな遺跡に在るわけがない。

 そこで思いついたのが前のスケルトン狩り騒動の時、ミスリルゴーレムに追われて投げ捨てて行った冒険者達の武器だ。

 何も無いよりはましと、遺跡内を歩き回ったが……。


『今の所、見つけたのはロングソード、ウォーハンマー、ムチ、木の杖……って俺は武器屋か!』


 ナイフがあれば理想的だったんだが、こんな時に限ってまったく見当たらないんだよな……まぁ無い物は仕方ない、ロングソードの尖端を使って加工していこう。

 ただ皮の鎧を拾えた事は良かった、これをバラせば黄金の胸当ての材料になる。

 最初見つけた時は、また寄生の鎧かと思って叩いたり突いたりと色々してみたが何も起きなかった、本物の皮の鎧みたいなんだが、それはそれで何で落ちていたのか謎……まぁ使えるものは使うからそんな事は些細な事か。


『そういえば、手作りのプレゼントをコレットに渡すのって初めてだな』


 超! 万能薬も手作りといえば手作りなんだがプレゼントとはまた違うし。

 そう考えると俄然やる気が出て来たぞ!


『よし! さっさと戻って作業開始だ!』





『――後はここを通して、固定をすれば……黄金の胸当てが完成!』


 やろうと思えば武器でも加工は出来るもんだな。

 さすがに全部は使わなかったが、慣れや使い方を工夫すれば道具として機能してくれた。

 ロングソードは主に削りに、ウォーハンマーは尖った石を叩いて穴を空け、ムチは金の鎧と皮の鎧を繋ぐ紐として利用、杖は持ち手の部分が丸いから後で使える。


『物は使いようとはよく言ったものだな』


 さすが先人の言葉だ。

 次は、残った部分の黄金の鎧を削って金粉に……ん? 周りが少し明るくなって来ているな。

 という事は、もうじき朝か。思った以上に胸当て作りで、時間を食ってしまった。

 うーん、削る作業に集中したいが朝菓子を作らないといけないな……ナシャータの機嫌を損ねると後々面倒だし。

 まあ菓子は材料を混ぜた後に焼くだけだから、その間に削り作業をするか。




 ◇◆アース歴200年 6月21日・朝◇◆


「……う~ん……クンクン……いいにおいがするのじゃ……ふわ~」


「ん……くわ~……むにゃむにゃ……ごしゅじんさま、おはようございます」


 お、二人とも起きたようだ。

 さすがに焼く時間だけだとあまり削れなかった。


「……おはようなのじゃ……む、その鎧はお前が作ったのか?」


 正確には鎧じゃなくて胸当てなんだが、呼び名はどうでもいいか。


『俺以外に、誰がコレットへのプレゼントを作るんだよ。どうよ?』


 自分としては結構いい感じに――。


「どうよと言われても、もう少し丁寧に作れなかったのか? かなり雑過ぎると思うのじゃが……キラキラと皮のバランスが酷すぎじゃぞ」


『……』


 そんなに酷いかな。確かに少し歪だけど、俺的にはかなり上出来だったんだが。

 そもそも、まともな道具が無かったんだから仕方がないじゃないか!

 道具さえあれば……いや大事なのはそこじゃない。


『これでいいんだよ! 想いがこもっている物が大事なんだ!』


 そう、大事なのは形じゃない。

 想いが大事なんだ。


「想いがこもっている物が大事ねぇ……うーん、わしにはよくわからんのじゃ」


「ポチもよくわからないです」


 人間とモンスターの違いだな。


『もうわからなくてもいいよ。そんな事より、朝菓子が出来ているからさっさと食え。んで食ったらネバリ草を採って来てくれよ』


「はいはい、わかっておるのじゃ。お~良い香りじゃ」


 本当にわかっているのだろうか。


「それでは、いただきますなのじゃ。――ハグハグハグ! モグモグモグモグ」


 朝っぱらからよく食うよ。


「ポチはいいかげん、にくとかたべたいな……パクッ」


 肉か……あるとしたらゾンビ肉なんだが。

 この体とはいえゾンビの肉なんか触りたくないし、ましてや料理もしたくねぇ。


「――モグモグモグモグ、ゴックン。……さて、では腹ごなしに材料を取りに行ってくるのじゃ。ポチ、行くのじゃ!」


「モガっ!? ポチはまだたべて――あ~れ~!」


 ポチが無理やり連れていかれた。

 せめて食い終わるまで待ってやれよ……可哀そうに。

 まぁ俺には関係ないし、帰ってくるまで金を削るか。



「材料とネバリ草を採って来たのじゃ。――ってまた変な事をしておるの、そんなに削りカスを作ってどうするのじゃ?」


『削りカスじゃねぇよ! これは金粉だ』


 とは言っても、ナシャータからすれば削りカスとしか思わないか。

 ……それにしても菓子分の材料がかなり量が多い、一体どれだけ食う気なんだ。


『見てればわかる。まずはこの金粉とネバリ草を器に入れて、この杖の持ち手を使って混ぜる!』


 こうすれば金とネバリ草が混ざって……。


『金色の塗液が完成だ!』


「ふむ……」


 何だ、リアクションがえらく薄いな。

 もしかして、使い方が分かっていないからか?

 しょうがないなーネバリ草を採って来てくれたし見せてやるか。


『例えばこのロングソードに塗れば……ほれ、この通り黄金の剣になるんだ』


 胸当てと金色の塗液をプレゼントすれば絶対にコレットが喜ぶこと間違いなしだ。


「黄金の剣は別にいいのじゃが……ケビン、小娘は大丈夫なのか?」


 何を言っているんだ、こいつは?


『どういう事だよ?』


「どうって。個人差はあるが、ネバリ草は人間の皮膚じゃとかぶれてしまう可能性があるじゃろ」


『……へっ?』


 ネバリ草ってそうなるの!?

 全く知らなかった……。


「その感じじゃと知らんようじゃな。なら、むやみにそれを渡さん方がよいと思うのじゃ」


 確かに、女性にそんな皮膚を傷める可能性のある物をプレゼントする馬鹿がどこにいるんだ。


『じゃあ、これは一体どうすれば……』


「……わしは興味ないから、いらんのじゃ」


「よくわからないけど、たべられないものならポチもいらない」


『誰がお前らにやると言った!』


 つか、あっさりと拒絶しなくてもいいじゃないか。

 何だか、悲しくなってきた……。

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