5章 二人の接触と仲間

第32話 ケビンの書~接触・1~

 ◇◆アース歴200年 6月15日・朝◇◆


「ふぁ~……どうじゃった、ケビン? 小娘は来たのか?」


『……』


「……ふむ、その花を持ったままという事は結局、小娘は来なかったみたいじゃな」


『……』


 どうして……どうしてなんだ、コレット。

 毎日この遺跡に来ていたじゃないか……なのに昨日は来ないなんて。


『――ハッ! まさかコレットの身に何かあったんじゃ!?』


 病気か!? それとも怪我をしてしまったとか!? もしかして大事件に巻き込まれたか!?

 どちらにせよ何かあったから昨日は遺跡に来れなかったに違いない!

 だとしたらこうしちゃいられない、早く町に行かねば! 


「なっ、おい! いきなり走り出してどうしたのじゃ!?」


『どうしたもこうしたもない、早く町へ――ハブアッ!!』


 そうだった……結界のせいで外に出れなかったんだった……。


「ケビン、さっきのが宙を舞う事だとわしは思うのじゃが。というか何故入り口に吹っ飛ばされたのじゃ?」


 ナシャータが倒れこんでる俺の顔を覗き込んできた。

 宙を舞うってさっきの花の時の事を言っているのか……嫌味かこのやろう。


『……入り口には中からモンスターが出れないように結界が張られているんだよ。それに弾き飛ばされただけだ』


 この体になると結界がこんなに忌々しい物だとは。


「結界じゃと?」


 ナシャータが入り口へ向かって行った。

 結界があるって言ったばかりだろうが。


『おい、お前も弾かれるぞ』


「わしをお前と一緒にするな、ふむ……」


 せっかく忠告してやったのにその言い方はないだろう。


「確かに結界が張られておるのじゃ。まったく、勝手にわしの家にこんな物を張りおって――」


 ん? ナシャータの奴、拳を握り締めて腕を後に引いたが何を……まさか!


『おい! 何をしようとしている!』


「ん? 何をってこの結界を叩き割るのじゃ。わしの家に勝手な事をされては困るのじゃ」


 やっぱり壊そうとしたのか!

 俺的には外に出られるからいいんだけどそれをしてしまったら大惨事になる。

 ナシャータを止めなければ。


『待て待て! 結界を破壊したら中のモンスターが外に出てしまって大事になるんだ! だから洞窟、遺跡と行った所に結界を張るようにしてあるんだよ!』


「……そんなの人間共が勝手に決めた事にわしには関係ないのじゃ。それにケビンも外に出たいのじゃろ?」


 それはそうだけど!

 だからと言って外にモンスター達を放つわけにはいかないんだ。


『気持ちはわかるがそれだけはやめてくれ! 頼む!』


 こんな姿でも俺は人だ。

 人に危害がでる可能性がある事を見過ごすわけには行かない。

 土下座だ! ここは土下座で説得するのみ!


「ちょっいきなり土下座をするな、まるでわしが悪い事をしておるみたいじゃないか。わかったわかった、結界はこのままにしておくから頭を上げるのじゃ」


 よかった、これで危険は回避され――。


「それに低級モンスターは無理でも、このような大して強くない結界は……ンッ」


 ――ていない。

 ナシャータの奴が普通に遺跡の外へ出ちゃったぞ!?


「わしくらいの実力じゃと、ちくっと痛みを感じるだけ外に出られるの」


 え? それって結界の意味がなくね?

 いや、低級モンスターの方が数が多いから、低級とはいえ大群が外に出て来てしまうと、そっちの方が対処するのに大変だから意味はあるか。

 ナシャータみたいに結界を割ろうとする奴がいない限り……は大丈夫、だと思いたい。


「ん~それにしても朝日を浴びるのは200年以上ぶりじゃから気持ちがいいの~」


 ナシャータが気持ち良さそうに背伸びをしてる。

 外に出られるのはすごくうらやましいな、俺も外に出たい……何か方法はないかなー。

 っと、いかんいかん。誰かにナシャータが見つかる可能性もあるし、中に戻さないと大騒ぎになってしまう。


『おーい、そろそろ戻ってこい』


「ええ……もうちょっといいじゃろ」


 よくないわ。


『ドラゴニュートが外にいるとまずいだろ、大騒ぎになるぞ』


「む~……あ、それで小娘が昨日こなかったかも知れぬな……ンッ……この痛みは慣れそうにないのじゃ」


 よし、戻ってきた。

 けど今気になる事行っていたな。


『さっきコレットが来なかった理由がわかった様に聞こえたが』


「うむ、その事じゃが恐らくわしが原因かもしれん。でも主犯はケビンじゃがな」


 ナシャータが原因で俺が主犯?

 どういう事だ?


『言っている意味がさっぱりわからん』


「お前が小娘を助けに来た時、わしは小娘にわしと出会った事を忘れさせようとしたのじゃ。昔それで面倒事になったからの」


 何だ、コレットを食うのかと思ってたが違ったのか。


「しかしケビンはそれを邪魔し、小娘はそのまま逃げた。とすると?」


 とするとって、ドラゴニュートに襲われて俺に助けられただけじゃないか。

 それの何処が――。


『あ……ああああああああああああああああ!!』

 

「わかったみたいじゃな」


 コレットがナシャータを怖がってこの遺跡に来なかったと言う事か!


『おい! なんて事をしてくれたんだ!!』


「わしに文句を言うな。それに言ったじゃろわしが原因でもあるが、主犯はケビンじゃと。お前があの時、邪魔をしなければ記憶は消せたんじゃ」


『……あ』


 じゃあ何か? 助けたはずなのに逆に遠ざけてしまう事を俺がしてしまったという事なのか?


『そんなああああああああああああああああ!!』

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