第31話 ケビンの書~花・4~

  我ながらナイスな作戦を思い付いたもんだ。

 ……とは言ってもちゃんとした確証がないし、一度実験をみるか。


『ナシャータ、悪いがちょっと俺から距離をとってくれるか?』


「ん? いいぞ、よっと」


 ナシャータの位置は俺から約5mほど先くらいか、十分だろう。


「――この辺りでどうじゃ?」


『OKだ、じゃあ今から投げるからちゃんと受け取ってくれよ!』


「は? 投げる? 受け止める? 何をじゃ?」


 何ってそりゃ――。


『俺の頭だ――よっ!』


「なんじゃと!? ――おぶっ!」


『ナイスキャッチ!』


 頭を投げてもやはり意識はあるし、頭だけでも口は動かせる。

 よし、これならいけるな。


「いきなり自分の頭を投げるな、びっくりしたじゃろ! と言うかその状態で喋るな、気色が悪いのじゃ!」


『おいおい、頭を投げたのは悪かったがさすがに気色悪いは傷つくぞ』


 というかそんな事をはっきりと答えやがって。

 しかし、胸に突っ込んだのにクッションがまったくないとは……誠に残念な奴。


「……お前、何かすごく失礼な事を考えてたじゃろ」


『いいや、別に』


 その事を言ったらこのまま頭を握りつぶされるかもしれんから黙っておこう。


「で、お前は頭を投げて何がしたかったんじゃ?」


『花を取る為に確認をしたかったんだ。そしてこれは成功すると確信した!』


 我ながら奇策を思いついたもんだ。


「ほう、それはどうするのじゃ?」


『俺自身が宙を舞い、そして花を手に入れる!』


 そう、華麗にな。


「……ミスリルゴーレムで蹴飛ばされておかしくなったのか?」


 うわ……ナシャータがすごい哀れみの目で俺を見てるよ。


『おかしくなってねぇよ! 簡単な事だ。まずは俺の頭を花に向かって投げる、次にその花に噛み付く、そしてその勢いのまま花を千切って取るって寸法だ。どうだ、それなら俺が宙に舞って花を手に入れられるだろ』


「……」


 俺の奇策にナシャータも声が出ないようだな。


「……それはケビン自身が宙を舞うというよりケビンの頭が飛んでるだけじゃと思うのじゃが」


 それを言うなよな!


『……とりあえず、頭を体に戻してくれるか』


 せっかく盛り上がった気分が台無しだ。


「ほい、これでいいじゃろ。わしは小腹が減ったからその辺で木の実を探してくるから、まぁ……頑張るのじゃぞ」


 木の実を探すってこいつ、時間がかかると思ってやがるな。


『フン! ナシャータが戻って来る頃には、ここにいるミスリルゴーレムの頭の花を全て取って驚かせてやるわ!』


 よし、まずはあのミスリルゴーレムからだ。

 見ていろよー!




 ◇◆アース歴200年 6月14日・夕◇◆


「く~か~……く~か~……」


 ミスリルゴーレムは一定距離動くと周りの確認を取る為か、停止する時がある。

 その時を狙って……よし、止まった。 その間に花に狙いを定めて――。


『――今だ!』


 俺の頭を投げる!


『おりゃあ!』


 そして、次は――。


『うおおおおおおおおお――カブッ!』


 よし、花に噛み付けた!

 後は噛み付いたまま投げた勢いで花を……。


 ――ブチッ!


 取れた、作戦成功だ!!


『ひゃっふぁー! アガッ!!』


 やってからわかったが、この作戦には色々問題があった。

 その一つが投げた後、俺の頭はどこかにぶつかるまで止まらない事。

 当たり前だが、やるまで気が付かなかった俺って……。


『えーと、この辺りだったよな……』


 次に自分の頭を自分で回収する、これについては落ちた時の顔の向きが問題。

 自分の体の方を向いていればいいんだが、逆だったり最悪地面の方向に向いていると探すのが大変すぎる、ナシャータに拾ってもらえば早いが。


「く~か~……く~か~……」


 あいつ戻って木の実を食いながら俺の投げてるのを見てたがいつの間にか寝てしまっている。

 別に起こしてもいいんだが……。


『お、見つけた。――やれやれ、やっと成功した……もう何十回、自分で自分の頭を投げたんだろうか……』


 そう、最大の問題点はピンポイントで花を狙わなければいけない事。

 いくら止まっていても距離が足りない、勢いが足りない、うまく花に噛み付けないと散々失敗してやっと取れた。


『はぁようやく1本……か。本当は花束になるくらいほしかったが、これで行くしかないな。そうでないと何日、いや何年かかるやら……』


 まったく花が取れなくてナシャータを起こすのに何か引き目を感じてしまった、別にモンスター相手だからそんな考え持たなくていい気もするが何となくそう思ってしまう。

 まぁ、花が取れたからナシャータを起こして上に戻ろるとしよう。


『おい、ナシャータ。起きろ!』


「むにゃむにゃ……ふあ~ようやく花は取れたか……って時間はかかったわりに1本とはどういう事じゃ」


 余計なお世話だ。


『……それより寝ている時にコレットが来てて、気が付かなかったって事はないよな?』


 そっちの方が重要だ。


「ん? 寝ておっても反応があれば起きるから大丈夫じゃ。それよりもう日も落ちかけておるし、今日は来ないと思うぞ?」


 俺にはわからんがもう夕方になってたのか。

 今は来ていないかもしれんが来る可能性はある。


『いや、コレットは毎日来ているからなまだ可能性はある』


 可能性がある限り、俺は待つぞ。




 ◇◆アース歴200年 6月14日・夜◇◆


 入り口付近に戻ってきて待っていたが、外は暗い。

 どうやら日が落ちたようだな。


「もう夜じゃぞ、わしは来るわけがないと思うのじゃが」


『今日は夜に来るかもしれないだろ』


 いかなる可能性も逃してたまるか。


「そうか、それじゃわしはもう寝るから何かあったら起こすのじゃよ~」


 来る、コレットは絶対に来る!!

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