第30話 ケビンの書~花・3~

 ふん、何とでも言えばいいさ。

 あ、でも俺が取りに行くとなると……。


『ナシャータ。別の頼みがあるんだが……』


「わしの好意を断って、別の頼みをするなんて図々しい奴じゃな」


 うっ痛い所を。


『それは、その……』


「はぁ……それでなんじゃ?」


『ああ……俺が花を取ってる間にコレットが遺跡に来るかもしれないだろ? その場合、俺が行くまでコレットには待っててもらいたいんだ。それを伝えてほしい。――あ、でも花の事は言うなよ』


 プレゼントはサプライズで渡したいからな。


「わしを伝言のために使うとは……まぁ案ずるな、あの小娘に気が付かなかった事があったからな、今はこの家全体に誰かが入るとわしが感知する様に魔力の膜をはったのじゃ」


 いつの間にそんな事を。

 それなら大丈夫、じゃない! それじゃまたコレットを襲うかもしれん


『おい! コレットを食うなよ!』


「食わんわ!! 第一わしは人なぞ食ったことはないし草食じゃ! まったく……わしをなんじゃと思っておるのじゃ」


 何って、モンスターと思っているんだが。

 だが、人を食ったことはないか……じゃあ、あの時何でコレットを襲おうとしてたんだ?

 よく考えるとドラゴニュートがあの閃光弾如きで怯むとは思えん、たとえ油断していたとしてもだ。そうなると敵意がなかったからか?

 うーん、わからんな……まっこいつの事はいいや、今はあの花が最優先だからな!



 思った通り楽にミスリルゴーレムの背後に回れた。

 しかし思ったよりでかいな、身長的に5mはあるんじゃなかろうか……これ果たして登れるのか?

 いや、弱気になるなケビン。何事もやってみないとわからん!

 自分の脚力を信じてジャンプ!


『――とおっ! よし、飛びつけ――た!?』


 何だこいつ! 表面がツルツルしてるし!


『ッ! この! ふぎぎぎ! っあーーーー』


 駄目だ、滑って落ちてしまった……。

 予想外だ、ゴーレム系ってゴツゴツしてるイメージだったけどコイツは全然違う。

 これじゃ登れないな、どうしたものか。

 んー剣を突き立てて登るか? いやそれだとさすがに攻撃してきたとみなして反撃してくるよな……。

 そうなると何処からか飛び移るか……駄目だ、辺りにミスリルゴーレムより高い所はないな。

 あれ? そうすると……俺だけの力であの花をとることは不可能なのでは?


『……嘘だろ、ナシャータの力を借りないといけないのか?』


 ええ……あれだけ言っといて今さらそれはない、てか格好が悪い。

 それに自分で取って渡すというのを捻じ曲げるのもいかがなもんか。


「わしを呼んだか?」


『いや、何でもない!』


 地獄耳め。

 うーん、何かいい手はないものか……。


「ケビンの奴、苦労しておるの~わしじゃったら飛んで一発なのに強情な。――む、ミスリルゴーレムがケビンの近くまで歩いてきたのじゃ……ってあのまま突っ立っておったらケビンが危ないのじゃ、考え事に集中しすぎて周りが見えておらんのか!? お~い! ケビ~ン!!」


『――何だ? うるさい奴だな』


 手と尻尾まで羽まで振って、のん気な奴だな。

 こっちは真剣に悩んでいるのに邪魔をするなよ。


「ケビン! 早くそこから逃げるのじゃ!」


『逃げろだと?』


 何を言ってるんだあいつは。


「後ろ! 後ろを見るのじゃ! この大馬鹿者めが!」


 後ろ? 後ろに何があるって――。


『――え? はあ!?』


 いつの間にミスリルゴーレムが真後ろに!?

 まずい! このままじゃ蹴られるか潰され――。


『――グハッ!!』


 ああ……俺、今宙をまってるという事は蹴り飛ばされたか。

 ミスリルゴーレムの頭の花と、足元には俺の俺の体がよく見え――。


『……え? 俺の体が見えてる!? ――ハブッ!』


 地面に落ちたみたいだ、でもあれは間違いなく俺の体だったよな。

 うん、やはり手足が動く感覚がある。これはもしかして……たぶん位置的にこの辺のはず、手探りをしたら恐らく……やっぱりあった【俺の頭】が【俺の手に触れた】。

 どうやら頭だけ蹴っ飛ばされたみたいだな。

 元に戻るのかこれ? とりあえず頭を元の位置に戻してっと。


『――よいしょ。お、よかったはまった……あれ? でも今までコレットに殴られたり壁につぶされた時も頭が外れた上に意識もぶっ飛んだよな。でも今は意識もあったし、体も自由に動かせた……どういう事だ?』


 俺の体に何が起こってたんだろう。


「ふむ……恐らくじゃが、ここ魔晶石の間はミスリルゴーレムが永久活動出来るように魔力が充満しておるのじゃ。その魔力でケビンが強化されて頭を蹴飛ばされたくらいでは致命的にはならなかった……と考えられるのじゃ」


『うおっ! ナシャータのいつの間に!?』


 いきなり真横から声かけるなよ、びっくりした。


「なんじゃその言い草は、ケビンの頭が飛ばされたのを見て急いで来てやったのに」


『そ、そうなのか……すまん。それで頭が取れても意識があるってそれって強化なのか?』


 別にどうでもいい強化だな。


「能力的に例えるなら……そうじゃな、デュラハン――」


 デュラハンだと、俺そんなに強くなっているのか!?

 デュラハンと言えば首なし騎士でアンデッド系上級モンスター。

 そんなに強くなっていればミスリルゴーレムなんて簡単に倒して――。


「――みたいに頭が取れて体を動けるって所だけじゃな」


 首が取れるとこだけかーい!!


「ああ、でもミスリルゴーレムに蹴られてほほ無傷なのは防御力もアップしてると言う事じゃの」


 防御が上がってもこの状況じゃ意味がない。

 頭が取り外し出来るだけなんて……ん? 取り外しが出来る?

 ……そうだ! これだ!

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