白と黒、時々灰色。

タッチャン

白と黒、時々灰色。

あなたが読むこの物語はさほど、面白い物ではないだろう。このような書き出しをしてしまうと些かこの物語に対する読み手の期待やハードルが上がってしまう気がするが、そこはあまり深く考えないでおこう。


私は仕事が終わったら週に5回くらいは、近所の喫茶店(この小さな町では有名なチェーン店)に行くのが日課である。

深夜まで営業しているこの喫茶店は、私にとって有難い存在なのだ。

部屋に帰っても誰も迎えてくれないが、ここは私を手厚く…ではないが、暖かく迎えてくれる人達がいる。

(彼らも仕事上やらなければいけないのだが)

だがそれでも独身の私からしたら嬉しい事なのだ。


私はどうも結婚する気になれない…と強がっているだけだが、実際は私のお嫁さんになってもいいと言ってくれる人がいたら私は喜んで迎えていると思う。

結婚とは程遠い存在だと、自分でも解っている。

話が逸れてしまったがこれから本題に入ろう。


ある暑い夜にいつもの様に喫茶店に入ると、いつもの様に喫煙席に私を誘導してくれる。

その日はとても繁盛していて、席が1つだけしか空いていなかった。

他の客たちは私をちらりと見てはすぐに視線を元の場所に戻す。私は空いた席へ向かう。

その角の席に腰かけて、タバコに火をつけた後に、鞄から小説(Oヘンリの短編集)を取り出して、定員にミルクティーを注文してからその世界にどっぷり浸かろうと思っていたのだが、その日はそれが出来なかったのだ。

その原因は、私の隣で女性客二人がガールズトーク、

女子会と言うべきか、その二人はとても楽しそうに会話に花を咲かせていたのだ。

彼女たちは周りの客に気を使っているのか、声のボリュームは極端に抑えて話していた。

彼女たちは黒いスーツを着ているからどこかのOLなんだと思う。一人は少しだけ体が縦にも横にも大きく、スーツがとても窮屈そうであった。

もう一人はそれと対象的に、とてもほっそりしていて、その彼女にスーツはとても似合っていなかった。

北と南くらい真反対にいる彼女たちは何を話すのか。私は気になってしょうがなかった。

私は小説を読んでいる振りをしながら彼女たちの会話を聞いてみようと思った。

彼女たちの会話は以下のようなものだ。


「それでね、人事部の佐々木さんがね、あたしに、

 今度の土曜空いてるか、だって。すごくない?」

と大きい方が言った。

細い方は言った。

「もしかしてそれってデートの誘いじゃない?

 やったじゃん。あんた佐々木さんの事好きだもん

 ね。可愛いい下着履いていきなさいよ。

 あぁ、あんたももうすぐ結婚かぁ。寂しいな。

 会社の中で独身は私とあいちゃんだけかぁ。」

私はミルクティーを一口飲む。

大きい方が言った。その口調は少しばかり恥ずかしさが籠っていた。

「もぉ、気が早いって!ただご飯食べに行くだけか

 もしれないじゃん。まぁ前々からあたしの事見て

 たのは気づいていたけどさ。てかさ、あいちゃん

 は絶対結婚出来ないでしょ。あの性格だよ?

 顔はまぁ可愛い方だけど、あたしが男だったら、

 あの子は無いわ。でもあんたイけるでしょ?」

私はまたミルクティーを一口飲む。

細い方が言った。その口調は少しばかり苛立ちが籠っていた。

「絶対無理だから。私はイケメンじゃないとダメな

 のよ。そこは譲れない。」

大きい方が間を置かずに言った。

「あんた、それ手術してから言いなよ。まだ付いて

 るんだから。いつ取るのよ?」と。

私は口に含んでいたミルクティーを盛大に吹き出した。

周りの視線が鋭く私に向けられる中、誰に聞こえる訳でもない声で、すみません。と謝った。

口元とテーブルを拭きながら横目で細い方を見た。

見た目は女性なのに男、不思議だ。と思った。

言われてみれば女性にしては珍しい程、太い声の持ち主だなと、今になって気づく。

だが私にはそんな事関係ない。否定もしない。

自由にすればいいのだ。男が女になる、女が男になる。やりたい様にすればいい。

私だって自由に生きてきたのだ。自由が1番だ。


残り少なくなったミルクティーを飲みほして、もうすぐ帰るかと思っていた時大きい方の電話がなった。

彼女は電話に出た。少し話した。電話を切った。

ひどく落ち込んで彼女は言った。

「佐々木さんからだった。土曜日の会議、朝の8時に

 決まったから遅れるなよって…」

元男の細い方は落ち込んだ相方に言った。何故かその表情は嬉しそうであった。

「元気出しなよ。また今度チャンスがあるって。」

私は席を立ち、レジへ向かう時に細い方は言った。

「隣にいたおっさんおかしいよね?飲み物吹き出す

 し、それにあの格好、酷いよね。

 ワンピース着てたよ。変態じゃん。」

私は店を出た。


自由に生きて何が悪い。


この物語のタイトルは、白と黒、時々灰色。

それに見合った話かどうかは皆さんが決めるべきだろう。

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白と黒、時々灰色。 タッチャン @djp753

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