異世界転生で世界征服!!
ヱビス琥珀
襲撃
「おう、モラン!新しい
商人や亜人で活気づく街中を歩いていると、冒険者ギルドの前で声をかけられた。赤のベレー帽にジーンズ生地のツナギを着た
―――こんにちはタケシ君!そしておめでとう!さっそくだけど、キミは異世界に転生することになりました!
やたらとハイテンションな女神にそう告げられ、俺はこの世界にやってきたんだ。前世は大学生。バイトの帰り、夜道をチャリ漕いでるところに突然車が突っ込んできて、目の前がヘッドライトの光で真っ白に。それが俺の最後の記憶。よくある話さ。
女神が転生について説明する。飛竜に追われ、崖から落ちて命を落とした冒険者の青年。奇跡的に体はほとんど無傷だったのに、魂の方が先走ってあの世に逝ったらしい。その彼の体と人生とを、俺が引き継ぐことになるそうだ。
目覚めると、車の荷台に積まれて街に運ばれるとこだった。乾し草の匂い。皮の鎧に皮の兜を付け、手元には鈍く光る金属製の棍棒があった。
「おぅ、兄ちゃん、生きてたかぁ。」
そう言って振り向いた貨物魔導車の運転手がマスターだったのさ。記憶喪失扱いされた俺は
一人前って認められてからはクエストを受けて、オークの巣を潰したりしてさ。同じような境遇のヤツもいて、俺含めて4人で協力しあって。
近隣の村の住民を苦しめるモンスター共を討ち滅ぼす冒険者。クエストをクリアする度に送られる依頼者からの感謝と賞賛の言葉は、バイトやゼミで罵られてきた俺にとってこれ以上ない報酬だった。
そして今度で、4件目のクエストだ。
「――狩り場まではまた魔導車で送ってやる。だが今回の敵、ゴブリンのアジトはちと危険でな、やたらと強ぇ見張りがいるんだ。申し訳ねぇが、400メートルほど離れたとこで降ろさせてくれ。代わりにこいつを支給するからよ。」
そういってマスターは瓶詰めの液体を手渡してきた。ウインドウが開き、受け取ったアイテムの情報が示される。
強走精力剤『ズットハヤクハシレール』
なんだこれ、悪質なドラッグじゃねーの?けど正規のギルドが配ってるんだ、飲んだからって王都の警邏に捕まることはねぇだろ。
「オッケー、引き受けた。」
俺はギルドマスターにそう告げると、瓶をアイテムポーチにねじ込んだ。それにしたって4件目のクエストでこの扱いじゃ、この先どんだけ走らされるんだか…。
翌日、俺たち冒険者4人チームは、ギルドマスターの運転する魔道車で現場へ向かった。魔力で動くこの車は、幌馬車から馬を無くしたような見た目のくせに、時速80km近いスピードを出せるのだ。
「そろそろ精力剤を飲んでおきな」とギルドマスターが言うので、瓶の蓋を開け、一息に呷った。くそッ、どこがミントだよ、ぬるいドクターペッパーじゃねぇか。ぺっ。
しかし魔導車から降りた俺達には、そんなことで毒づいているヒマはなかった。
「ギィゲォェェ!!」
この世のものとは思えない叫びを放ち、ゴブリンが両手を胸の前に掲げて火球の魔法を放とうとしていた。だが甘い。そんな動きじゃ狙いがミエミエだ。
俺は敢えてゆっくりと歩いて間合いを詰めていく。ギリギリまで敵の狙いを引きつけ…引きつけ…引きつけ……敵の手元で光が弾ける瞬間が勝負だ、上体を捻りながら飛び込むかの如く一気に踏み込む!最小限の動きで火球を躱し、すれ違いざまにゴブリンの胴に棍棒を叩きつけてェ…練習どおりぃ!!頬をチリチリと焼くような痛み、蟹の甲羅を割るような手応え―――
―――ああ、俺は今、生きている。
くの字に体を折り曲げ悶絶するゴブリンを尻目に走り出す。足がやけに軽い。精力剤が血液に乗って体を巡る。風に揺れる木々の隙間を縫って鬱蒼とした森を駆け抜ける。網膜に映る景色がどんどんと後方に流れ、風が皮膚を切るように顔を撫でる。ああ、俺はこんなにも速く走れたんだ。
この力ならば何でもできる。この世界ならば俺は何者にでもなれる。
2匹目のゴブリンと遭遇。スピードにのったまま、構えをとる隙すら与えず棍棒で一突きに。あっというまにゴブリンの館に到着した。跳躍、塀を乗り越え、本丸へ突入する。
だが、なにやら違和感を感じる。なんだ…?敵が弱くなった…?
「おっかしいなぁ。こういうアジトって中に入ったら敵が強くなるもんじゃねぇの?てんで弱っちい奴らばっかり…。」
魔法も使わず、装備も貧弱な棍棒だ。あっちのヤツなんざ法螺貝なんか吹いてやがる。ばっかじゃねぇの?いや、俺らが馬鹿にされてんのか?
まぁいい、好都合だ。雑魚は放っておき、2階の集会所へ急ぐ。あーあ、また扉かよ、面倒くせぇ。
扉を蹴破ると、そこがターゲットの集会所だ。さらに弱っちそうなゴブリンどもが座っていた。間抜けな面でポカンとこっちを見てやがる。
ひゃはぁっ、天誅だぁ。罪なき人々の痛みを思い知れぇ。
突入から五分くらいだろうか。俺たちは暴れ続け、そこにいたゴブリンどもは1匹残らずピクリとも動かなくなった。
「なんだよ、歯ごたえねぇなぁ。暴れたりねぇな-。」
そんな俺たちのリクエストに応えるように、新たな敵が現れる。ピカピカの鎧に、いかにも頑丈そうなタワーシールド。
「なんだ、裏ボスみてぇなヤツか?…ん?え…?」
ぞろぞろと、次から次へと敵が湧いてきた。おいおいおいおい、なんだよこの数。しかも揃いも揃って同じ装備だ。俺が戦って来たなかで、桁違いの戦闘力を持つだろう。そんな敵が、およそ50体。
けどな…!
「俺たちゃ平和な世界を作るまで、負けるわけにいかねぇんだよ…!」
立ち上がれ、立ち向かえ。敵が強大、それがなんだ?あきらめねぇ限り、道は続いてんだよ!
――――
――――
「ボス、計画の第一フェーズの成功、おめでとうございます。」
私はそう言って黒のスーツに身を包んだギルドマスターたるボスに、駅前で配られていた新聞の号外を手渡す。彼はウイスキー片手にそれに目を通して呟く。
「ふぅむ。こうもすんなりことが運ぶと、いささか拍子抜けだな。」
『武装集団 国会議事堂襲撃事件』、新聞の一面にはそんな見出しが踊っていた。
――――会期中の国会議事堂を複数の男らが襲撃し、出席していた議員全員が撲殺された。犯行グループは到着した機動隊に取り押さえられている。容疑者らはいずれも20歳前後でヘッドギアを装着しており、「異世界に転生した」と供述している。向精神薬やステロイドなど多数の薬物も検出されており、犯行の背景調査が急がれる。さらにここ数日で相次いだ神怒川会系暴力団の壊滅にも関わっているとみられ――――
そこから先はずらずらと、なんの裏付けも取れていないであろう憶測と、責任転嫁にしても的外れな教育批判が書き立てられている。案の定ボスは紙の束に対して興味を無くすと、それをテーブルに放り投げ、ソファに体を預けた。
ボスに一礼し、仕事の準備に取り掛かる。私はこの組織の夜勤組。今は三期生のケアを担当している。彼らがぐっすり眠る間に各種薬物を投与し、洗髪と体の清拭を済ませなければならない。だがそれも慣れてしまえば一時間強で済む。あとは朝までのんびり監視するだけ。
どこからともなく拉致されてきた夢見がちな若者たち。VRで
「それにしても、楽な仕事だったな。」
「分かってたコトだろ、俺のシステムアシストがあれば国会議事堂くらいわけねぇよ。」
「違いない。たしかにアレはよくできている。」
ボスの言葉に幹部のエンジニアが軽口を叩く。たしかに彼の作ったシステムは脅威だった。銃口の向きから射線を、指を中心とした相手の動きから発砲のタイミングを予測し、VR画面上に魔法のエフェクトとして表示する。キモは実際の発砲よりも僅かに早くすることだ。早すぎては回避先に照準を合わせられる、せいぜいコンマ数秒の差。それでも訓練を積んだ者ならば、発砲をためらう警察の銃弾くらい躱すことができよう。
「だが武器として銃器が使えないというのは痛いところだな。リーチも火力も足りん。」
「議事堂の警備程度なら鉄パイプで十分だろ。中に入っちまえばほとんど丸腰だぜ?さすがに機動隊に囲まれたら逃げきれねぇが…。まぁ、どうせ使い捨ての駒じゃねぇか。とっ捕まって得物の入手ルートから足がつくよりよっぽど良いだろ。」
「今後のミッションでは必要になってくる。6期生からはプログラムを変更しよう。シナリオライターにそう伝えておけ。」
「へいへい。
異世界転生という設定は、どうにも近代兵器と相性が悪い。中世を基盤としたファンタジー世界、多少の火器は馴染みそうではあるが…。いっそ未来都市に設定を変えてはどうだろうか?
そして彼はポケットからToDoリストを取り出す。それは世界征服の為の
だがこの時彼は気づいていなかった。先ほど放り投げた新聞に書かれた『米大統領訪日中止』の小見出しに。謎のクーデターがあった国に、大統領が行くわけがない。そんなこと当たり前だ。
このミスにより、彼の世界征服計画は大きく遅れをとることになる。それに気づくのは、また別のお話――――
異世界転生で世界征服!! ヱビス琥珀 @mitsukatohe
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