第26話 前途多難

 大草原を進み、翌朝には速の国にたどり着く。


 本来なら、夜に経験と映像の為に野営をして向かう予定だったのだが、飛竜の肉が結構な強壮、強精効果が高く、ドラゴンステーキ食べた俺たちは野営という考えは消滅、そして夜通し街に向かったのである。


 まぁ、正確に言えばサラ、ティヤ、俺の3人は寝て(?)しまったのだが、これはまた機会があれば話そう。


「予定よりかなり早いですが、見えましたよ」


「これが速の国⋯」


 大草原か見える円形の都市。


 外層は4層に分かれている。そして、その周りには川が流れて、真ん中にお城が建っている。


 そう、日本家屋ーー異世界にアレンジされているが平屋の城下町にそっくりなのである。


「思ってたのと違いました。もっと豪華なお城かと思ってたけど、元の世界になんだか似ていますね」


「やはりそうでしたか! ここは別名『ヒガシノクニ』や『トウヨウ』と呼ばれていますから。たしか決闘の際、イオ様の服も『キモノ』だったはず」


「そういえば⋯確かに着物を着ていましたね」


「えぇ、それにここを造った知識は間違いなく異世界からだと聞いています。ただ、こちらは魔法を使用している為、本物とは似ても似つかぬが正しいですが⋯」


「なるほど」


 入り口にある橋まで到着すると、馬車を一旦停止させるとみんな降りて歩く。


「この橋で危険分子などの審査しているらしいです」


「へぇ〜、らしいって事は詳しくは知らないんですね? 魔法か何かで調べているんですか?」


「えぇ、そうです。それに⋯ここに来る商人以外の殆どは求めているものが1つしかありませんからね」


「?? そうなんですか?」

(どういう事だろ? 街になにか求めているものが手に入る⋯? あぁ、そういえば夜の国とも言っていたし⋯⋯やっぱ夜な夜なの娯楽なのかな)




「ふむ。夜の国と言っていたぐらいだから、商人以外が求めるものはやはり女性なのか?」

 花蓮先輩が率直に聞く。


「そうですね」


「ということは、やはり夜になると女性を買って楽しんだりする事なのか?」


「あぁ、いえ⋯⋯それは違います。ここは女性と結ばれない男達が、女性と結ばれたいが為に集まる国なのですよ。ですので逆ですね。女性が男性達を見極める場所なのです」


 どうやら強さを求めた人間が、年月が経つに連れて寂しさを感じ伴侶を求めてくる場所との事。屈強な男になって歴戦の戦士になってもモテるという事ではなく、どちらかというと一線を引かれる方が多いらしい。


「なるほど。いわゆる合コンみたいなものか? 男性と女性が会合して趣味や相性が合えば付き合う的な」


「その趣向もなかなか面白そうですね。けど、付き合うは違いますね。結婚ですよ。永遠に結ばれる為に男達は動くのです。ここで女性に最後まで認められた者は一生幸せになるとされていますからね。この街を見た時に4層あったと思いますが、此処は元々2層の街だったのです」


「2層?」


「えぇ、今みたいに城も今みたいに大きくはありませんでしたが、女性だけの街と言うのは、瞬く間に男達の噂になり寄って来てしまったのです」


「それで3層ができたと?」


「えぇ、いわゆる迷路のような罠屋敷ですね。速の住人は罠などの技術に長けた術『忍法にんぽう』を会得していますので」


「だから、4層⋯⋯いや、此処から見える街中には男性しかいないのか」


「ご明察です。4層は挑戦する男性の住居、外敵からの盾にもなりますし、男達は女性のポイントを稼ごうと流通系、物資系もキッチリ管理していますよ」


「すごいな。何より、それで輪が成立しているのがすごい。女性も星の数ほどいるはずなのに、なぜ速の国の女性を求めるのか。なぁ、ノア君」


 振り向くもノアの姿はない。


「ノ⋯⋯アくん?」


 もう一度、呼んでみるが返事はない。


「どう言う事だ!? つい先程まで一緒に歩いていただろう!?」


 フィリックも疑問を浮かべ考えている。


【残念ですが、偽物の剣王を街に入れる事は許されません】

 そこには黒装束の女性がいつのまにか立っており、不敵な笑顔をしていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「⋯⋯⋯⋯⋯ん?」


 いつのまにか、真っ暗な空間に立っていた。


「あれ? 俺、みんなと歩いてたよな? てか、ここはどこだ?」


 暗い空間、先に辛うじて天から光が差し込んでいる。


「ん〜落ちた? 落とし穴なんてあったか? 衝撃もなく、綺麗に下に滑り落とされるとはおもわなかった」


 あっと思う暇も無いまま下に直行(?)である。


【きゅ〜】


「フィス、どうかしたか?」


 フィスは周りを眺めていたので、俺も少し辺りを観察すると人影がいくつもあるのに気づく。


 そして、その影は徐々に距離を詰めてきているのもすぐにわかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「偽物の剣王って、どう言う事だ! 私達はたった今、着いたばかりだ」


「えぇ、事前に連絡しておいた通りです。少し予定外がありましたので早く到着致しましたが⋯」


「確かに昼には着くと聞いていますが、その情報が他に知られていてもおかしくはないでしょう? 何度も何度も新剣王が来たと姫の城に入ろうとした愚か者達は浅知恵がよく働いているようですし。貴方達が本物という証拠にはなりません」


「いつの時代でも詐欺まがいな事をする奴はいるんだな⋯⋯」

「それだけ、ノア様の情報が少なすぎるのもありますしね。それに⋯」

「先の決闘、貴女も見たのではないか?」


 フィリックが何か言おうとしたが、その前に花蓮が女性に質問をした。


「えぇ、見ましたよ。イオ様の着物姿を!」


「それに⋯⋯速の国はイオ様を溺愛していますので、他の人間はイモ程度にしか見えておりません」


「溺愛? 勘違いしないでください。イオ様は私の【嫁】です!! 勝手に婚約みたいな事を言ったらしいですが私達が認める事はありません!」


「いや⋯⋯婚約はイオさんが言ったはずだぞ?」


「何を言ってるか聞き取れませんね! イオ様がそんな事を言う訳がないでしょう! 聞き間違えをしたのでしょうか! それに、この程度の罠すら避けられないでなにが新剣王ですか!」


「それがノア君を落とした理由か。なら、本人にその言葉を言ってあげればよかったじゃないか!」


「落とした理由? 何をいっているのですか? 落とした理由は貴方達と不釣り合いなのが一匹いたからですよ。あなた方に紛れば通れるとおもったのでしょうが。私の目が光る限り通れるとは思わないでほしいですね」


「ん?」


「?」


「ちょっと待ってくれないか。言っている意味がよく分からない」


「それはこちらの方ですよ。そこのエルフと貴女は夫婦なのでしょう? 可愛い子供も2人いることですし。いけませんね。お金であのような人を連れて入ろうなんて」


「それはないぞ? 私の心も身体も消えた彼の物だからな」

『私達もー!!』


「嘘でしょう? 貴女達があの程度の者だなんて!!」

 手を軽く挙げると、同じ格好をした女性が現れて花蓮達を捕縛する。

「もしかすると洗脳でもされているのかもしれません。調べてみましょうか」


 そのまま花蓮達をどこかに連行していった。


「貴方はどうしますか? 見た目は合格ですから誰かの目には止まるでしょう」


「私はノア様を待つ事にします。元々城まで行くつもりですので。ですから、そちらとは後で合流できますしね」


「落ちた彼が戻ってくるとでも? あそこから戻ってくる事は不可能ですよ」


「不可能と言われたことを可能にしている方なので⋯あまり舐めない方がいいんですよ」


「今までに何人なんにんもそう仰る方がいましたが、何人なんびとたりとも支配空間『奈落』から帰ってきた者はいませんよ。では、失礼します」


 場にはフィリックだけが残り、


「支配空間ですか⋯⋯確か⋯イオ様が表に出る前⋯⋯」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「新人か〜?!」


「お前、そんなに若いのにこんな所に落ちてきたのかよ」


「俺らが言うのもなんだが、まだ未来はあったんじゃねぇか?」


 一方その頃、ノアは薄汚れたおっちゃん達に囲まれていた。


「やっぱ、ここって国の下なんですね」


「当たりといやぁ、当たってはいるな」


「で、皆さんはここで何してるんですか?」


「ん? 何って知ってて来たんじゃねぇのか?」


「いえ、橋を歩いていたらいつのまにかここに落ちてました」


「入り口落ちかよ! 兄ちゃんまさかと思うが美女やら引き連れてなかったか?」


「ええ⋯まぁ、綺麗な子達とエルフの男性でここに来ましたね」


 おっちゃん達が額に手を当て、「あちゃー」としていた。


「なるほど、モテアピールしちまったのか⋯兄ちゃんは⋯⋯。まぁ、ここに落とされたならそのうち慣れるだろうな」


「んん??? ここってどういう場所なの?」


「『奈落』と呼ばれる閉鎖空間さ。俺たちから外に出ることは出来ず、ただ、あの光から主人が降りてきた時に気まぐれに拷問されて死んでいくだけの空間だ」


「死ぬって⋯⋯。見たところ手枷足枷がないし、その主人をみんなで倒そうとはしないんですか?!」


「残念ながら、あの主人には絶対に勝てないんだ⋯⋯」


「そ⋯そんなに強いんですか」

 ゴクリと生唾をのみこむ。


「まだ、ここが速の国になる前『法の国』と呼ばれ、それを支配していた闇子アンコ姫を見れば分かるさ」


 天に見える光が一際輝く。


『闇子姫が降臨されるぞ!』

 それと同時に屈強な男達が中心に集まっていく。


「丁度いい。見てみるといい。見れば、君を逃げようとするのを諦める筈だ」


「分かりました」

 どちらにせよ、逃げるには闇子姫と話す必要があるし、行くしかないだろ⋯。

 てか、イオさんと関わると変な事に巻き込まれるのは何か呪いでもかかっているのだろうか。


 この挨拶廻り初っ端から、こんな事に巻き込まれるのは前途多難の始まりと感じてしまうのであった。

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クロノスノア 最弱ステータスで転移されたけど、最強カウンタースキルで異世界ライフ 古狐さん @nax2tusaya

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