第25話 世界について
広大な高原は然(さ)も美しい。
空気は澄んでおり、遥か彼方まで続く景色。
先輩と双子が鏡竜と喋りながら、ありのままの景色を見せながら、早速紹介していた。
「フィリックさん、速の国はどれぐらいで着くんですか?」
「明日の午前中には着くと思いますよ」
「へぇ〜結構、遠いんですね」
「実際はもっと早く行けるのですが、一応道中の映像なども撮られると思いまして、馬車を手配いたしました」
「なるほど、ありがとうございます。それにしても、これだけ広い高原なのに人の姿がないのはびっくりです」
動物は沢山いるが、人の気配はなく、写真に写っているような誰もいない世界を、俺たちが馬車で踏み込んで進んでいると思うほど大自然の中にいるみたいだった。
「ははは、それはそうですよ。先ほども言いましたが、早く行く方法を取りますからね。昔は色んな冒険者が開拓の為に進んでいましたんですけど、今は殆どいませんよ」
「なにか、今の言い方を聞くと、冒険者って珍しいんですか?」
「あぁ⋯いえ、そういうわけではないんですが⋯⋯うーん。なんといいましょうか。例えばノア様は冒険者というと、何を想像いたしますか?」
「剣士や魔法使い、あとはダンジョンに潜ったりや世界を周り依頼(クエスト)を達成していくとかでしょうか?」
「なら、勇者とかはどういう見解ですか?」
「魔王を倒す者?」
「ふふふ、やはりそうですか」
「違うんですか?」
「そうですね。この世界に魔王というものはいません。あ、いや、いない訳でもないのかもしれませんが、呼んだり呼ばれている者はいませんね」
「それって⋯」
「えぇ、名乗るのは本人の自由なのです。冒険者とは『自らの道を開拓する者』、勇者とは『自らの道を信じて進み、そして皆に認められるまでの極みに至った者』の事をそう呼びます。その後の『剣王』や『無音の聖女』などの称号は、簡単に言えばオマケのようなものであり、他者がそう呼ぶまでに至っただけなのです」
「なるほど」
「ですから、ノア様が『おれは剣王ではなく魔王だ』と宣言し、人々を襲い魔物を使役して村を滅ぼしていく道を進めば自然とそうなっていくかもしれませんね」
想像と違ってはいたが、普通に面白い世界だと感じた。簡単に言えば『言うは易し、行うは難し』と言う事だ。
名乗るなら誰でも出来る。が、認められるまで行動を起こすのは難しいという事だ。
「ダンジョンなどもありますよ。ただ、入ってすぐに終わるのはダンジョンではなく洞窟や敵の住処と判断されており、ダンジョンというのは、何年もかけて攻略していく事から別名『地中開拓』と言われますね。ですので、ダンジョンを見つけた場合、まずは先行隊の軽い内部調査をした後、その場所に街を作り、人が集まり巨大化していく事が多いですね」
「凄いですね⋯⋯そんなに巨大化するんですか?」
「えぇ、ダンジョン内は1つの世界が成立していますので、攻略していくなら様々な人の知恵や協力をして進むしか道はありません。ですから、そこで何世代も引き継いでやっていく人も多いのです」
「ということは、今は地上は安全なのですか?」
「そういう訳でもありませんが、やはりどこにいても生命の危険は伴いますよ。巨大な生物も出現しますし、賊なども危ないですね」
「それじゃあ、今の状態で遭遇したら危ないんじゃ⋯⋯」
「可能性はゼロではありませんが、地上の安全はロゼ=スカイフィールが率いる『空の国』が見回っていますので、問題がほとんどないですね。まぁ、稀にはぐれて孤立したのもいるらしいですが⋯」
「空の国ですか?」
「えぇ、飛竜など空を飛ぶモンスターをテイマーし乗りこなすライダー達の国です。王国は浮遊石を住居にしていますので空に存在しており、ゆっくりと日々移動していますよ。そして世界を周り見回りをしながら、地上にいる巨大な危険生物などは竜達が食べる食糧として狩っています。それが結果的に安全保っている感じですね」
「なるほど⋯それもやはり、他者から認められてからなのですか?」
「そうですね。まだ地上を開拓している時、子竜を助けて仲良くなったのが最初といわれています。そこから竜騎士部隊を形成し、規模が大きくなり、今の巨大浮遊石に移住し年月を経て『空の国』と呼ばれるようになりましたね」
「凄いですね。なんだかすごく歴史を感じます」
「興味がおありなら、少し時間をとり『書の街』にも寄ってみるように調整を致しましょうか? あそこなら色んな情報が揃っていますので」
「ぜひ、お願いします」
「分かりました。ここからだと遠いので、まだまだ先の話ですけどね」
「今から、楽しみにしていますよ」
「ノア君! アレを見てくれ! 凄いものが見れるぞ!」
先輩が呼ぶので直ぐに駆けつけると、距離は離れているが巨大な羊のような生物が暴れており、周りに数十の鳥が周りを飛びながら近づいたりしていた。
「あれが『空の国』の竜騎士隊ですよ。時期的にこちらに現れる頃でしたので、見れるかどうかは賭けでしたが良かったです」
羊は大体ビル8階ぐらい大きさであり、竜達はヒットアンドウェイを繰り返しながら、体力を削っているようだった。
「すごい統率力ですね」
羊の眼に映る囮役、死角から攻撃するもの、四肢を攻撃するもの、どれもマッチしており、無駄な動きが一切ない。
羊が倒れると、軽い振動がこちらにも伝わる。
「これでおしまいですね。あとは竜達の腹ごしらえをしながら解体をして上に運んでいくのです」
大羊まだ辛うじて生きてはいるが、竜達は御構いなしに肉をたべていた。
「あれ?」
良く見ると、一緒に食べていた竜が他の竜と喧嘩をしている。そして、他に竜にも敵意を向けられるとこちらに向かって飛んできた。
「フィリックさん、何か竜同士が喧嘩して一匹だけこちらに向かってきているんですが?」
「え? どれですか?」
馬車を一旦止めて確かめる。
「これは⋯いけませんね。こっちも当たりを引いてしまいましたか⋯」
すぐに先頭に戻ると馬の手綱を外す。
竜の気配に気づいた馬は全速力で走り去ろうとするが、それに気づいた竜が空から強襲をする。
大きな声を馬があげている最中に、首から上をそのままカブリつき捕食する。
(やはり⋯あれははぐれ竜ですね。ハイエナ行動を起こそうとして失敗したのでしょう。声をあげず、動かずに少しだけ様子を見ましょう)
小声で話す。
(馬一頭で去っていってくれればいいんですが⋯⋯もし、去らなければ戦闘になるかもしれません)
久々の食事なのか、美味そうに食べている。
それから10分も経たずに馬を完食すると、その場で少しだけ鼻を鳴らし、腕を舐めて猫が顔を洗うような仕草をする。
小さく声をあげるが、その場から離れようとせず、周りを見ていると俺たちの馬車を凝視するようになっていた。
(無理そうですね。戦闘をするしかなさそうです)
(マジですか⋯⋯)
(すまないが、私が行ってもいいだろうか?)
(先輩! 何行ってるんですか! 竜ですよ! お⋯俺が行きますよ!)
流石に女の子に行かせれるわけがない⋯。
(いや、私の実力を図りたいのだ。ノア君がいっても結果は分かりきっている。旅の事もだが、これから君と行動するにおいて、私の実力をしっかり把握しておきたいのだ)
先輩の眼は譲らないと決心している。
(⋯⋯分かりました。⋯けど、絶対に危なくなったら、すぐに助けますからね!!)
(ありがとう。では行ってくる)
収納スキルから片手剣を取り出して、馬車から飛び出る。
心を落ち着かせるように深く深呼吸をする。
はぐれ竜をは新しい獲物(しょくりょう)を見つけた事に喜んでいる。
先輩は、そのまま勇敢に竜に突っ込んでいった。
(助ける準備しないと⋯!)
戦闘がまだ始まっていないが、すでに助けに入ろうとする俺に対して、フィリックさんが落ち着かせる。
(落ち着いてください。花蓮さんは、あのモクシャ王の目に止まり、更には評価を覆す分類をされたんですよ。高位な魔術師に見初められた人が簡単にやられるわけがないんです)
そういえば、最初はS級て言われていたな。
(もし、モクシャ王が健在であれば、彼の引き継ぎは彼女がしていた可能性が高いのです。商品としての紹介はせず、自分の弟子のように自慢されていたのですから)
(けど、あの王様って先輩を殺そうとしたんですよ?)
(それは、貴方がいたせいで想定外の事が起こり、彼女を制御しきれなかったからではないのでしょうか?)
確かに⋯⋯それなら辻褄は合う。
(モクシャ王とノア様が規格外でしたから、花蓮さんの実力が埋まっているように見えますが、普通の観点で言えば、彼女は注目を浴びてもおかしくない存在だったのですよ)
向かっていった先輩は竜の攻撃を避けながら、剣で細かく攻撃していた。
アクロバティックな回避をしつつも、先輩の攻撃は次々と相手に傷を負わしていく。
(すげぇ⋯)
改めて見ると、舞っているように見えるのがとても綺麗だった。
(分かりますか? 所々、空間を蹴って動いたり、風を使い姿勢を変えたり、相手の皮膚に当てる前に剣に強化を施しているんです。あれだけでも、たぶん彼女は創作した高度な魔法を使っています)
竜が怯んだ瞬間に、腹に最大強化まで上げた剣を立てると、竜が仰向けのまま倒れた。
「ふぅ、終わったぞ」
こちらに振り返る先輩。
俺たちも馬車から出ると、竜が起き上がっていた。
「先輩しゃがんで!!」
「え?」
咄嗟にしゃがむと、竜の攻撃を回避したが体制を崩す。
「⋯⋯っく」
俺がすぐに先輩の元へ走るが、竜は既に先輩に向けて攻撃をしようとする。だが、その前にサラとティヤが援護射撃をして矢が腕に刺さり攻撃を中断させる。
一回、大きく吠えると圧倒的な不利を悟り、翼を羽ばたかせ飛翔し逃亡を開始する。
【きゅ〜〜!!】
フィスが飛んで逃げようとする竜の影に入っていく。
「フィス?」
影に沈んだフィスの所に行くと、細い黒い糸が影から出ており、一直線にソレは空に繋がっていた。
そのまま糸の先を見ようと空を見上げると、一際おおきな断末魔が聞こえると同時に、はぐれ竜が黒く染まりそのまま落下した。
「⋯⋯⋯」
落下した衝撃で、黒く染まっていなかった尻尾だけが千切れ、他の部位は地面の影にボチャンと入っていった。
千切れた尻尾は脊髄反射なのか、まだ死んでいるとは思っていないのか、結構大きく跳ねている。
てか⋯⋯この影にポチャンと落ちる光景は、アポフィスと出会う前、俺が崖から落ちて時が止まった時と一緒じゃないか⋯⋯?
【ケプッ】
フィスが、満足そうにして影から出てくる。
「⋯⋯凄いですね。確かアポフィスの生まれ変わりと聞いていますが⋯」
「すみません⋯俺もびっくりしています⋯⋯。先輩やサラとティヤが戦った相手だから、フィスも手伝いたかったのかもしれません」
尻尾だけ残したのは、そのためじゃないかと思う。普通は、まぁ⋯尻尾を食べて本体は残すと思うんだが⋯。
「ふむ。悔しいが、最後までしっかりとトドメをさすべきだったか。⋯⋯いい勉強になった。ありがとう。サラ、ティヤ、そしてフィスも」
先輩は今の戦闘を振り返り反省していた。
「さて、尻尾は夕ご飯に使うとして⋯⋯馬なのですが⋯⋯」
フィリックさんが何かを言おうとしたが、その前にフィスが液状化から黒馬に変化した。
【きゅう!!】
「そこはヒヒンじゃないんだ⋯⋯」
黒馬でも鳴き声は変わらないらしい。
「私が街まで戻ろうかと思いましたが、問題はなさそうですね」
「いや、それはどうかと思います」
「どういう事ですか?」
「いや、このフィスはちゃんと走れるんでしょうか?」
率直な疑問である。安易にこれで行こう! などは言えるはずがない。
「まず、俺が乗ってみて歩いてみようと思います⋯⋯」
正直、内心は嫌なのだが致し方あるまい⋯。
フィスに跨り、『じゃあ、フィス歩いてくれるか?』と言うと、歩いてくれる。
「大丈夫そう? ですね」
「じゃあ走ってくれる⋯⋯」
次の瞬間、フィスと俺の姿はみんなの前から消えていた。
「⋯消えた⋯?」
「えぇ、見事に消えましたね」
みんなが驚いた様に後ろを振り返ると俺がいたのである。
「ノア君⋯⋯もしかして⋯」
「はい⋯」
『走ってくれるか?』そう言おうとした瞬間、時が静止していたのである。
「⋯⋯⋯」
俺はそっと降りて、みんなの元に行き時が動き出したという訳だ。
走り出す前に静止という事は、俺のステータスでは風速に耐えきれず首が折れたか、空気の壁にぶつかりへちゃげたのかは分からないが、死んだという事である。
フィスがどこまで行ったのかというと、遥か向こうから黒い塊が空に飛び上がり、翼を羽ばたかせと思うと、一直線にこちらに戻ってきた。
【きゅ! きゅ〜〜!!】
1人で不安になったらしい。先程喰った竜になり俺たちに突っ込んでくると、そのまま液状化して影に入り込み、俺の身体を巻きつきながら定位置の肩に戻ってきた。
(てか、『混沌(カオス)』スキルがマジカオスなんだが⋯)
液状化して変化したという事は、このスキルであり、喰ったモノにもなれると判断ができる。
ただ、最初に食べたアポフィスにはなれないという事は、これが完全体(?)だからと思うしかなかった。
ちなみに『終焉の紅』は⋯未だに調べれていない。使えるのか使えないのかも分からず、安易に使って大変な事になると笑えないので使用を躊躇ってるのである。
『お前達、大丈夫か』
空から声がかかる。
『今、ここに黒い竜が突撃した様に見えたが⋯⋯」
どうやら竜騎士隊の偵察部隊が気になってきたらしい。
「ええっと⋯」
どう説明をしたもんか⋯。
『その尻尾は⋯⋯先ほどの竜か。竜鱗を持っていないワイバーンとはいえ⋯消滅させるとは、一体誰が⋯』
俺らを一通り見る。
『そうか⋯何処かで見たと思っていたが⋯⋯新剣王。とうとう、外に出たのか。なら、今の黒竜は剣技というわけか』
「いや⋯⋯」
何言ってんの⋯この人⋯。フィスの事を説明するかどうか迷ってるだけなのに。
「そうです。私達は各国の挨拶をする為に移動中でした。すぐに行かず旅の様に行動しているのは民の為に、外の世界を見せたいと王のご意向の為」
フィリックさんも話に乗っかっちゃったよ⋯。
『なるほど、それは申し訳ない事をした。被害は馬だけか?』
「えぇ、そうです。馬一匹で去っていたら何もする気はなかったのですが、私達まで襲おうとした為、王が断罪したのです」
なんか、もう⋯⋯ね。俺が、今更何かを言っても聞き入れられない気がする。
『わかった。馬はすぐに用意しよう。ここからだと、まずは速の国か?』
「そのつもりですね」
『ならば、我が国をゆっくりと移動する様に上に報告するので、『速の国』での訪問が終わり次第、『空の国』に来るといい』
「分かりました」
その後、すぐに他の竜がこっちにくると、スクロールから馬を渡してくれて去っていく。
俺たちは再び馬車に乗り、その日の内に山を抜け、翌朝の早朝にはモラヴィアの大草原みたいな場所にたどり着いたのである。
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