世界を回りましょう

第24話 旅立ち

 フィリックさんが来て、2週間が過ぎた。


「⋯⋯⋯誰も外の世界にいかねぇ!!」


「そうですね。こちらの予想を遥かに上回る程の深い刷り込みをされていますね⋯⋯」


 個々に話を聞き要望にも答えれる場所があるのだが、あすなろう⋯⋯あすなろう状態に持ち越して外に出ることはなかったのだ。


 その間も俺たちはフィリックさんと仲良くなり、エルフ達も城の生活にすっかりと慣れて、今では中庭にガーデニングもとい食べ物の栽培などに着手している。


「要望にマッチする教育係と共に街へ向かうから安全だと言ってはいるのですが⋯⋯何か打開策がないと現状は変わらない気が致します。時期的には、そろそろ各国に挨拶に動き始めてもいいぐらいですし」


「うーん。なら、誰かが各国をぐるりと回ったついでに街の映像を流すとか?」


「映像ですか? 一応、見せれるものは見せていますが?」


「それは来させるようにするような映像じゃないですか。元の世界では、映像に出演する人がありのままの姿を映しながら各国を回る番組もあったんですよ」


「なるほど、一理ありますね。確かに同じ異世界人の目線からみると安心するかもしれません。だとすると、どなたかが行くように手配をしましょうか?」


「何を言っている。ここにいるじゃないか! 私達が、各国の挨拶まわりをしつつ、街の風景などを映しながら行動すればいいんじゃないか?」

 先輩が目を輝かせながら力説している。


「確かに⋯ノア様自らが行くなら信憑性も高いですね。ノア様はそれでもよろしいですか?」


「えぇ⋯。外の世界はどっちにしろ見ておきたかったので問題はないです」


「では、鏡竜の手配をすぐにいたします」


「案内役はどうするんですか?」


「私がついて行きます。各国のまとめ役として話は通していますので、他の者よりスムーズにいけるはずですので」


「わかりました」


「ふふん。そうと決まれば早急に支度をしよう」


 なぜか世界の車窓からのテーマソングを鼻歌交じりに上機嫌で準備にとりかかる。




 準備と言っても収納スキルに収めるだけなのだが⋯⋯先輩は普段タンスにしまっているのだ。


 一度、その事が不思議に思い聞いてみた所⋯。


【お風呂に入っている時に、わざと下着をわすれてバスタオル一枚で取りに行く姿に、ノア君が唆られるかもしれないだろう? それにお風呂に入っている時にタンスを開けて、どんな下着を履いてるか確かめる楽しさもある】


 ⋯だそうだ。それはもう何かのアトラクションみたいな楽しさと何か勘違いしているのではないだろうかと心配する程だ。


 そしてこれは余談だが、外回りしている時に『汗をかいているからこれで拭きなさい』と言われて、手に収まるように綺麗にたたまれた布を渡してもらい、肌触りが良かったので使ったのだが、実はパンティ(未使用だったと信じたい)だったと明かされた時は本気で引いた。

 ていうか、女性のパンツってコンパクトにできるとか知らんし⋯。




「それにしても、上機嫌ですね」


「それはそうだろう。ハネムーンまでとは言わないが、君との旅行だから楽しくもなるさ。最近は城で事務作業ばっかりだったからな。楽しむつもりで行こうじゃないか!」


「確かにそうですね」


 まぁ、俺はそこまで作業をした記憶はなく⋯⋯フィスとティヤ、サラと遊んでいた記憶しかないのは気のせいだろうか⋯。


 そして遊んでいる間に発見したのだが、フィスの『混沌』スキルは、意外にも万能であった事が判明した。液化してボールみたいになる事も出来るし、水を取り込みながら包み込むとプールみたいにもなれる。(箱型でも不思議な球体としても可能)


 フィス自体も喜んでいるので、虐待みたいには感じてはいないが、『混沌(こんとん)』スキルは立派な遊び道具にもなるまさに混沌(カオス)そのままであった。


(うむ。いま、いい感じに言えた気がするな)


「にやにやしてる所、悪いが⋯上手くはないと思うぞ」


「人の心を読まないでもらえます?」


「すまない。ウォーターベットを想像するならともかく、遊びばっかりの健全さをアピールするのは⋯何か君のアイデンティティとは違う気がしてな」


「俺のアイデンティティって?」


「ふむ。例えばプールで言えば、水着姿の私達をきゃっふーしながらじっくりと隅々まで眺めて、飽きたら水着を奪い取り、自分だけプールから出てから私たちの泳ぐ姿を、まるで水槽に入れた人魚を眺めるように視感する事だな」


「それこそ俺じゃねぇよ!」

 変態か余程の金持ちのやる事じゃねぇか! 時給1万円程度で水槽の中で泳ぐバイト⋯⋯なんかの漫画であったな。


「容易に想像できる所がノア君らしいな。やって欲しければいつでもやってあげるよ」


「⋯⋯⋯」

 やばい、まじで想像してしまったが、かなりいいのか??


「う⋯ん、⋯ごめん。やっぱり裸は恥ずかしいかも⋯しれない⋯」


「そこで恥じらうのやめてくれません? こっちも恥ずかしくなるじゃないですか⋯」


 お互いが気恥ずかしくなり⋯。


 お互いの目が合う。


 そして引き寄せられるように先輩が近づいてくる。


 そして⋯。


『私たちも行くー!!』


 いつも通り双子の天使が止めてくれた。


 正直に言えば、この天使達の聴力は俺に対してはかなりの物で、城の中ぐらいであれば把握できるらしい。なので、俺の心拍数上がると何か面白い事が始まると思ってすぐに駆けつけてくる。


 旅の件は元々、サラとティヤには聞いてみるつもりだったので、これで各国巡りの人数が5人となった。


 

 支度を済まし、街のみんなに説明などをしてその日は瞬く間に過ぎ、次の日に出発となる。


「外の世界って、どうやってでるんですか?」


「王城の裏手にゲートが開いているんですよ。簡潔に言えば、今までこの王城が壁の役割をしており、ゲートを通るにはこの城の内部を通るしかなかったのです」


「なら、この森の先ってどうなっているんですか?」


「見えない壁になっていると思いますが、広さは不明ですね。そもそも剣王の領域のモンスターは根本的に高LVなのです。ゴブリン一匹といっても初心者PTではまず勝てません」


「そうなんですね」


「だから、最弱ステータスなのに森を渡り歩き、更には皆の前で剣王モクシャを倒してみせたノア様は一目置かれているのです」


「いまいち実感ないんですけどね。力とかあったとしても、ゴロゴロするのにはそこまで必要ないですし」


「だから、他の王より話しやすいのかもしれませんね。ノア様らしくていいと思いますよ」



 城の裏手に行き、用意された馬車に乗り鏡竜をつれてゲートをくぐると目の前に広大な高原が広がっている。


 こうして、異世界に召喚されて、狭い箱庭で動き戦闘に巻き込まれ、ようやく本来のあるべき世界に俺たちは足を踏み込み、各国巡りの旅が始まった。




「まずはどこに行くんですか?」


「そうですね。一番近い所は『速の国』ですので、まずはそちらから向かおうと思います」


「イオさんの国か。どんな場所なんですか?」


「それは⋯せっかくですので、行ってからのお楽しみにしておきましょう。しいて言えば夜の国ですよ。速の国というのは」


 フィリックさんが言った夜の国を想像し予想を話しながら目的に向かって行くのであった。

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