外伝

Episode15.5 受け継がれし至高なる魂

『アトランティス』

 それは、一般的には伝説上にのみ存在する大陸とされているが、実在の大陸である。そう、その大陸は確かに実在していたのだ…DDFの願いにで人智を超えた力を得た暗黒魔導士クロイツェン・ママゴンネードによって海の底に沈没するまでは…(没・紀元前1498年)

 

「そして、そのアトランティスにはアトランティス人達がいた。

 アトランティス人の文明は当時の世界で最も進化していた。

 技術、魔術、呪い、錬金、戦術、どれをとっても当時の世界一だ……

 そう、まさしくアトランティスは、『夢の大地』であったのだ。

 当時アトランティスの王の側近兼書記官であった、

 ゴッフォーン様やオルゴーラも、

 その進化した文明の力があったから、大陸が沈んでも生き延びる事が出来た。」


 邪神がボクに語りかける。それは、ぼくの運命を決定づける存在。

 邪神は両性器が損失しており、無性的な姿をしていて、闇の色をしていた。


「世界最高民族アトランティス人の誇りを見せつけよ。

 クロイツェン様の復活という我が集合精神最大の悲願を達成せよ。

 それがお前の唯一の道。一方通行の道。天国への道。」

「言われなくても分かってるヨ。

 だってボクは生まれ付きのアトランティス王なんダカラ―-―――」


 そう、ボクは王――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ◎プチ外伝『受け継がれし至高なる魂』


 明りが無く薄暗い夜の部屋。褐色肌で裸の大男がベッドの上で横たわりながら唸り声を上げている。男の股間には男性器――ペニスが確認できず、それがあるべき場所には大きなピンクの肉穴が開いていた。


(俺の産卵器から…30㎝ほどの白い楕円形の球体が顔を見せる。

 また産まれるのか…俺の子が……)


 楕円形の球体が零れ落ち、俺はそおっと手を差し伸べる。その動きは、まるで父のようであり母のようでもあった。


(いい形だ……名づけよう………御前の名は―――………いや、まだだ。


 二分後、卵を産んだ俺は部屋を出て人を殺した。

 隣の部屋で仲良く談笑していた若い男3人の眉間に短刀をつきたてた。

 そして、血に染まった床の上で人差し指を8の字にさすり命名を始める。


「うむ、こうだな。セクンダー……これ以上に相応しい名はあるまい。

 アイツはセクンダー・グランだ。」


―――――


 『東アフリカは地獄である。』


 表の世界ではどう思われているかは知らないが、超常現象の中に生きる裏世界の住人にとって、その事実は卵を割れば黄身が出てくることと同じぐらい常識と言っても良い。

 古代エジプトの魔術を悪用する大盗賊団『トプイーゲ』。第二次世界大戦後、ファシスト党の生き残りが設立したとされる不死身の能力者戦闘組織『アヴァンティ』等、様々な要因が考えられるが、やはり一番の原因はこの私の先祖が作り上げた『新アトランティス帝国』だろう。

 

 まぁ新アトランティス帝国…とはいうものの、領土は定まってないし国民ははったの10人しかいない。その10人と言うのが王であるこの俺―――――『カイザー・ゴールド』と、その直属の4人の親衛隊『四大天刃』。

 そして、この俺の実子5人――――――


  長男 エメラルド・グラン。18歳。


  長女 ルビー・グラン。17歳。


  次男 アクアマリン・グラン。15歳。


  三男 トパーズ・グラン。14歳。


  そして、セクンダー・グラン。12歳。

 

 以上がこの俺の支配する新アトランティス帝国の全住人である。

 フフ、少ないだろう?だがこれがいい。少ないから故に離反も無いし、完璧なる意志の統一が可能。それに、人手が足りなければいつでも補充できる。なぜならこの王たる俺に、先代の王から引き継いだ洗脳特化のカースアーツ…『弯曲十字の聖歌隊<バッドコントロール・クルセイド>』が備わっているからだ。下等な人間どもなら好きなだけ操る事が出来る。

 ―――俺達、新アトランティス帝国の目的は、DDFと呼ばれる願いを叶える宝石を五つ揃え、暗黒魔導士クロイツェン・ママゴンネードの復活を遂げる事。だが3000年探し続けて集められたのは5つのうちたったの2つ…残り3つの所在はある程度は分かっているが、恐らく、この俺の代では全て集まる事は決して無いだろう。"後継ぎ"を考える必要がある


 ある日――この俺の入浴中に、長男エメラルドが間違って乱入してきた。ラッキードスケベな男だ。しかしこの展開はこの俺に後継ぎの決断をさせる大きな一歩となった。

 

「お、親父…!!なんだその身体――!!ぺッ、ペニスが無い…!」


「何を驚いておる。これは新アトランティス王の特権であるぞ。」


「と、特権って…!まさか、王位を引き継ぐと、俺もそうなってしまうのか!?」


「ああそうだ、王位を引き継いだ時点で、先祖たちの呪いと力によって、

 性別は無となり神の領域に近づくのだ。」


「ひええ!」


「フフ、嫌か?だがまぁお前も"なってみれば"わかるさ。

 ペニスもオッパイもないこの体こそ…『パーフェクト・ボディ』なのだと…」


「違う…!親父と感性が違う…!」


 俺は近くに置いていたワインボトルのふたを開け、一気飲みをする。

 エメラルドは知能、体格共に優秀だ。だが、性格がどこか軟派で王向きの性格ではない。後の王位継承の儀式でも王に選ばれることはまずないだろうが、きっと優秀な四大天刃となり未来の王の支えとなってくれるだろう。


「親父、王位継承の儀式ってのは、どんな事をするんだ。

 候補は5人いるだろ?もしも王に選ばれなかったよォ…」


「―――安心せい。別に王に選ばれなくても悪魔の餌になるわけじゃあない。

 王になれなかった者には四大天刃の地位が授けられる。」


「…?」


「フッ、察したようだな、四大天刃は全員オレのブラザーだ。」


 長男エメラルドに無性別という正体を見破られた事をきっかけに、もう50歳、自分がそろそろ王を引退する時期だという事を思い出す。そう、既に肉体の全盛期は終わっている。アトランティスの王は常に強き体でなくてはならない。

 取りあえず部屋に戻り、私は四大天刃達に事情を話し、引継ぎの準備を始めた。



 一週間後、王位継承の儀式を執り行う為、私は息子5人を自分の部屋に呼び出した。


「これから王位継承の儀を始める訳だが、一つだけ言っておくことがある…

 王を選ぶのは俺ではない。俺たちの先祖だ。」


「先祖…もしかして、お父様の周りに纏わりつく、"邪神"の事ですの?」


 質問をしたのは胸にナイフで滅多打ちに刺された赤子を抱く赤紫髪の少女―――


「邪神、というのは正確ではないな。

 正確に言うと、私の中のカース・アーツ『弯曲十字の聖歌隊<バッドコントロール・クルセイド>』が王に相応しいものを選ぶ。」

「カース・アーツ……死者を媒体とした道具…」


 彼女は私の子の一人、ルビー。こいつはちょっと壊れていて扱いづらい。

 まぁ壊したのは俺だが、非は10割コイツにある。半年ほど前、人間の男と交際、腹に子を宿していることが発覚したので、目の前でその交際相手をバラバラにし、腹の子を流産させ、頭を踏みつぶしてやった。後に精神崩壊したよ、我が一族の恥め…。だが、この壊れっぷりと狂気、誤算ではあるが、なかなかいい四大天刃にはなりそうだ。


「カース・アーツ。

 カース・ミラーの中に腕を入れる事で契約する事が出来る後付けの超能力。

 ちなみに手に入れられるカース・アーツは完全ランダムと言われているが、

 正確にはそうではない。カース・アーツには自分に相応しい契約者<パートナー>を選ぶ権利というモノがある。」


「親父のカースアーツは…歴代のアトランティス王の集合体。つまり、王が王を選ぶという事っすね…」


「お前にしては察しが良いな、トパーズ。

 そうだ、お前達5人には今よりこのカース・ミラーに5人同時に手を入れ、

 カースアーツと契約していただこう。」


「お前にしてはって……」


 三男トパーズは頭が悪いがその勇敢さと勇猛さはなかなかのものだ。だが、こいつは少し情に熱すぎる。こいつも四大天刃向きだな…

 ならば残るは―――次男アクアマリンと、セクンダー。


「だが、このカースミラーは今カラだ。だから今より俺と俺の側近である四大天刃のカースアーツを注入する必要がある。」


「お父様、それは―――」


「そう、俺たちは今より死んでこのカースミラーに魂を預け、カース・アーツとなる。」


「――――!!」

「なんですって…!?」

「馬鹿な―――」


「アクアマリン、どうした、ポーカーフェイスが崩れているぞ。」


「親父……」


 アクアマリンが目を逸らす。アクアマリンが下を見る。アクアマリンが私を睨む。

 そうだ、その顔がいい。それこそが王の顔だ……だが、俺が目を向けるのは、セクンダー…御前だ。


「『王は勝利してこそ王である』」


 言葉を続ける――――


「かつての俺の親が最後に言った言葉だ。

 王は勝たねば王では無い、王は人の上に立つだけの木では無い。

 ならば勝て。全ての戦いに勝ち、自らが真なる王であることを証明してみせよ。」


 セクンダーが、私を強く睨む。そして、さっさとしろと言わんばかりに、首を爪でかいかいし始めた。

 ハッ!!長年生を共にしてきた父と四大天刃が死ぬというのに常人では無い!こいつだ、きっとこいつこそがアトランティスの新たなる王となる!


「いい顔だ―――去らば。いや、また会おう。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

最期の日 PM1:52 


「フン、くだらないなぁ。王になるための勉強だとか、教育だとか。

 そんなものは僕には必要ないんダヨ、邪神。」


 セクンダー・グラン、いや、エンペラー・ゴールドが邪神の頭を掴み、その顔面を地面に叩きつける。そしてその頭をかかとで踏みつぶす。


「ボクの中には生まれた時からずっと染みついている思想があった。

 誰にも教わらず、洗脳されず、本能のままにDDFを

 集めるという思想に目覚め始めていた。

 ボクは生まれ付きの王だ。勉強で王になろうとした他の王とは違う…」


 ゴールドが、血濡れの携帯端末を耳に当て誰かと通話を始める。


「最終命令<ラスト・オーダー>、最終命令<ラスト・オーダー>だ隠将!!

 王直々の最終命令!!!

 再征服<レコンキスタ>せよ!!!白の救世主の腸を逆十字に吊り下げろ、

 銀の怪盗の首を抉り取って、ゴッフォーン様の悲願を達成せよ!!」


―――――――――――――――――外伝『受け継がれし至高なる魂』 おわり

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ディープ・デッド・フィラー 青森スカイ @DeepDarkFear

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