第3話 ある夏の暑い日。後篇
―母が死んだ。
病院で母の遺体を見て葬式もしたが、そのことをはっきりと覚えていない。
あまりにも急すぎて当時の私にはすべてを納得することができなかったのかもしれない。
私の家は、造園業を営む父と警察官の母、私の3つ上のお姉ちゃんの4人家族だった。
母は青葉家の太陽のような存在だった。
父もお姉ちゃんも、もちろん私も母を中心に回っていて、とても温かい人だった。
そんな青葉家から太陽が失われ、残された家族はまるで、照らされることのなくなった星のように暗く、深い闇の中をさまよっていた。
母の遺品も最小限のもの以外はすべて処分した。
残された3人は、母が身に着けていた装飾品を形見にした。
父がネックレス、お姉ちゃんがイヤリング、私はブレスレット。
形見の装飾品を私は身に着けることができなかった。
決して、嫌いや気味の悪いといった思いがあるのではなく、これを身に着けることで自分の中で母の死を認めてしまうことになるのが怖かったのである。
しかし、時間の流れとはすごいものだった。
ちょうど1年がたった中学2年生の夏休みだった。
私はとあるところに来ていた。
それは神社である。
この神社は、幼い頃に夜泣きをしたり、
最後に来たのは中学に入る前だった。
唯一、仲の良かった友達と中学が別であることを知った私は母と一緒にこの神社に来て泣いていた。
1年前に母を亡くしそのことで泣いたことのなかった桜はこの時、始めて泣いた。
鳥居の先の祠に座り、ここでの母との思い出を思い出しながら何度も泣いた。
結局、日が暮れるまで泣き続けた。
桜はこの日何か肩の荷が下りた気がした。
実は桜は、母の死に対して悲しいのに泣けない、そんな自分が心の中で嫌いだった。
その日、初めて母の死に対して思いがこみ上げてきて、泣き続けた桜はようやく以前のポジティブさを取り戻したのだった。
そして、その日家に帰ると、桜は初めて母の形見であるブレスレットを手首に着けた。
その日以降、桜は何か落ち込んだことがあると、この神社に来て、祠に座り一人で愚痴を言うとすっきりするようになり、学校で何かあるとそのたびに訪れ、愚痴を話した。
〇
〇
〇
(やっぱりここに来るとあの夏の日のことを思い出しちゃうな……)
(ううん!もう、このことで暗くならないって決めたんだ!)
(それに今は今日あった愚痴を話さないとだし……)
毎回この神社に来ると、いつしかの夏の日のことを思い出し、そのたびに桜は自分に言い聞かせていた。
桜は今日クラスの自己紹介で失敗したことを祠に愚痴に来ていたのだった。
桜は本来の目的を思い出し、残りの階段を上った。
階段を登り切り、鳥居をくぐろうとした時、向かいからだれかが歩いてくるのが目に入った。
それはうちの学校の制服を着ている2人の女子高生だった。
しかも、スカーフの色からして私と同じ学年だった。
(こんな神社に女子高生2人でお参り…?そんなわけないと思うけど…)
桜は疑問に思い、声をかけようと思ったが体が動かなかった。
この神社に来る同級生なんてほかにはいないだろうし、これをきっかけに友達になれるかもしれない、と心の中ではわかっているのだが、体が動かない。
今日のクラスでの自己紹介のようになることを考えてしまい目で追うのが精一杯だった。
(はぁ…。やっぱり駄目だな私……。)
(けど、学校も学年も一緒だったし明日学校で出会ったら声をかけてみよう!)
妙なところでポジティブな桜は、なぜ、たった今さっき無理だったのに明日の可能性に賭けることにした。
(よしっ!とりあえず今日は学校での愚痴を話して帰ろう!)
桜は足早に祠に向かい、いつものように座り愚痴を話したのであった。
鳥居を出て、階段を下りる2人の女子高生。
「こんなさびれた神社に1人でくるって友達おらんのか?」
「そんなこと言ってあげたら可哀そうよ?それに、見たところ私たちと学校も学年も同じなんだし、
「おいおい。頼むから冗談はやめてくれ。何がうれしくて、あんな暗そうなやつと友達にならねーといけねんだよ。それなら、
「私、あのようなタイプの人は少し苦手なの。」
「俺より全然ひどいじゃねーか。まぁ明日学校で会ったら話しかけてやってもいいかもな。」
「確かにそうね。けど、椿一人だといじめてるように見えちゃうから私もついていくわ。」
「ふんっ。まぁまちがいねえや。じゃあ明日声かけてみるかー」
少しずつ動き出した桜の日常。
学校での桜の出会いをきっかけに物語は進みだす!!
つくづく付喪神! Eおり @E-ori4
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