第2話 ある夏の暑い日。前篇
校門を出て帰路に着いた桜であったが、家には向かわず、とあるところに向かっていた。
学校を出て10分もたたないうちに目的の場所に着いた。
そこは神社だった。神社といってもそんな大それたものではなく、鳥居があり石畳の先に小さな祠が祭ってあるという田舎によくあるそれだった。
祠は階段を上った少し上のところにある。階段の下からは、本来は赤かったであろう塗装の剥げた鳥居が顔をのぞかせていた。
桜は鳥居威を目指し、階段を上がりながらとある日のことを思い出した。
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中学1年生になったある夏の日の出来事だった。
家に一人、クーラーの効いたリビングでアイスを食べながら、だらだらとテレビを見ていた昼下がりのこと。ニュースではどの局も例年平均気温を大きく上回る歴史的猛暑日であることを報道していた。つまらないと思い、面白い番組がやっていないかチャンネルを何度もいったりきたりしていた。
特に面白そうな番組も見つからずテレビを消そうとした時だった。
家の固定電話が鳴りだした。
急に鳴りだした電話にびっくりし、テレビの電源を切らずにリモコンを置き、固定電話の置いてある場所に向かった。
桜は、家庭教師の勧誘や怪しい宗教の勧誘電話だろうと思い少し機嫌の悪い雰囲気を出して電話を取った。
「はいもしもし。」
「
「え、あ、はい、そうです。」
(お母さんの名前?いったい誰だろう)
どーせしょうもない電話だと思い、機嫌の悪い雰囲気を出して電話に出た桜は母の名前が出てきてなぜか少し緊張した。
「わたくし、お母様の職場の同僚の
「はいそうです。」
実際に会ったことはないが、母の会話に何回か名前が出たこともあり、旅行のお土産なんかももらったことあった。
(そういえば母からではなく雲雀さんからの電話だなんて初めてだな。)
そんなことを考えていると、雲雀さんが深く息を吸ったのが電話越しに聞こえた。
そして雲雀さんは静かに話し出した。
「落ち着いて聞いてください……。」
「は、はい。」
「お母様が職務中に殉職しました。」
「……え、え?」
殉職。その言葉の意味を理解して頭が真っ白になった。
握られた受話器からは、何かを話す雲雀さんの声がするが、もはや何も入ってはこなかった。
私はまさかそんなわけがないと頭の中で言い聞かせた。
何度も自分で自問自答し、必死に自分に言い聞かせていた。
どれくらいの時間がたっただろうか。
桜はとっくに切れた受話器を握りしめたまま、依然自分に言い聞かせていた。
そんな時、つけっぱなしにしていたテレビから不意に母の名前が聞こえた気がした。
桜は持っていた受話器を投げ捨てるように置き、テレビの前に滑り込み画面をにらみつけるように見た。
『ここで臨時ニュースです。
私はその場で崩れ落ち天井を見上げた。
今さっき流れたニュースを見て、決定的な事実を突きつけられてしまった。
さっきまで否定して、必死に言い聞かせていた自分はそこにはなく、ただひたすらに母との思い出を、見上げた天井に映し出していた。
なぜか、不思議と涙は出なかった。
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