エピローグ
ふわりと地上に降り立つと、今しがた何かが
その周囲にはボクがよく知る顔ぶれが集まっている。
「マコ、よかった……! ねぇ、なんともない? 怪我は?」
「大丈夫だよ。ただいま、ミナミ」
「……おかえりなさい、マコ──」
ミナミがこちらへ駆け寄ろうとした瞬間。
背後の
「マコォーーッ! 何故だッ! 俺の聞き間違いだな? そうなんだなァッ!?」
ふふ、バル様はとても元気そうだ。
よかった。……そうこなくっちゃ。
「陛下っ! お、お──お目覚めになったんですね……っ」
「バルさま、ほんとだっ! ほんとに生きてるぅー!」
ロゼッタとコニーが駆け寄ると、彼は照れくさそうに二人を抱きとめた。
「オ、オマエら……!」
まるで再会した家族みたいに抱き合っている。
ボクも三人のもとへ行こうかな──と踏み出す前に、ミナミが後ろからさりげなく小指を
……わかったよ、また今度にするから。
「アハハ、めでたしめでたしってわけだねェ。ったく、ヒヤヒヤさせんなよな」
のしっと、ボクの反対側の肩に体重がかかった。
見上げると白肌の骨ばった
「リリニアさん、ありがとうございました……! あなたの助言がなかったら、どうなっていたか」
「勘違いすんな、アタシは
リリニアさんは半分呆れたような顔で、かつて天にそびえていた
「……全くその通りだ。よもや、
そう話しかけてきたのは、気の抜けた顔の
背後には、くしゃくしゃのとんがり帽子を斜めにかぶり、
「ええと……すみませんでした、ノージェさん」
「おや、マコくん。あんなことをしておきながら、いまさら罪悪感があるのかい」
「いえ、先ほどは首元に噛み付いてしまったので。痛みますか?」
「はあ? ああ──キミが謝ったのはそっちのことか! ……くく、ははは!」
笑うノージェさんに対し、ヘイムダールさんが抗議の声をあげた。
「
「ハッ。あの
「何を
「希望の象徴か。ははは、そんなものはただの
「で、
「つまり、気付いたのさ! 私にとっての”
ノージェさんは興奮を隠せない様子でボクの手を取った。
「……あの、ボクにも意味がわからないんですが?」
「
「は、はあ」
少年のようにはしゃぎながら小躍りする
「そうとも。王国の民たちは、まだ
そこへ水を差したのは元護衛騎士のジュリアスだ。
「やはりこの国の
そういえば、彼も
ヘイムダールさんが逆賊だとばかりに刺すような視線を送っている。
それを腕で制し、ノージェさんはにこやかに歩み寄った。
「……ジュリアス、人は誰でも大なり小なり狂気を持っているものだよ。
「
「君にどのような事情があったにせよ、その腕前は買っていたよ。できるならこれからも私の
「
「はっはっは、歓迎するよ。……さて、我々は帰ろうかな。これから忙しくなるなあ。来るときは
……すっかり忘れていた。誰のものでもない祭壇はともかく、
「あ、あれって……国宝だったんでしたっけ。それは本当にごめんなさい」
「いいさ、代わりの
ノージェさんは
ジュリアスも続いて背中を追う。
……その場に残ったのは、意外にもヘイムダールさんだった。
「魔人の娘よ、
「お、おじいちゃん……」
ボクがそう呼ぶと、彼はそわそわと帽子のつばを引っ張りおろした。
「ぐ、ぐぬ……。だが、お
そう言い残してヘイムダールさんは今度こそ、とぼとぼと
丸まった背中がやけに小さく見えたのは、彼が
「──そうね、私も誤解していたわ。ごめんなさいマコちゃん、あなたがそこまで
振り返ると、ロゼッタさんがすぐ
複雑な表情で身をよじるバル様も一緒に。
「いえ、ロゼッタさん。いやぁ、そのですね……。ええ、まあ──バル様のためなら何でもできると思えたのは
「あらまあ~。ふふふ、赤くなってるわよ?」
「マコォ~! だったらなんでさっきは──な、何故なのだ……!」
バル様が
その
「だってバル様ったら……。ぜんぜん、
「おっ、おっ、乙女心だとォ……!?」
「知らなかったんですか、バル様? 女の子にプロポーズする時は、指輪を用意してこなきゃいけないんですよ」
「何ィ~ッ!! それはそうだが……ッ! な、なら──指輪を持って来ればいいんだなァ!?」
「ですけど、ただの指輪じゃいやなんです」
「ど、どんな指輪が望みなんだ! 教えてくれ!」
「……ふふっ。ボク、バル様をいつでも感じていたくて。ですから、バル様の首輪だった石を使って、トクベツなのを作って……欲しいです」
ボクは
彼の心を、
「う、うおおーッ! 任せろマコォ、この俺がッ! オマエに最ッ高の指輪をくれてや──待て、待て! どこだッ!? 俺の首輪──おいロゼッタァ!!」
「さあ……あの時は私、
「よ、よしきたァ! 拾ってくるぞ、いますぐに! あァクソ、船じゃ遅いッ……俺は走るぞォッ!」
「えっ? お待ちください陛下……陛下ぁ~っ!?」
──ドドォン!! ズダダダ……! ……。
燃え盛る
「ア、アハハ……み、見たかい今の、アイツの顔っ! アハ、イヒヒ……
「もうっ、リリニアさん~! 他人事だと思って~……」
「でもバルさま、うれしそうだったねー」
彼を見送るリリニアさん、ロゼッタさん、コニーの三人の顔は一様に晴れやかだった。
尾を引く煙が消えていった青い空には、いまも虹が架かっている。
「……ねえ、マコ。あいつの首輪ってわたしが──」
「わるいと思ってるよ、ミナミ。けど、謝らないから」
「えっ?」
「キミにはボクの”
「……ああ、そういうこと。言ったでしょ。あなたの愛ならどんな形だって嬉しいって」
「そう言ってくれると思った」
結局……二人に甘えることになっちゃったな。
だけど、わかったから。
愛にはいろんな形があるって。
「……でも、よかったの? あいつに、その……プロポーズされたんでしょ? 改めて、さ」
「……ボクの新しい人生は、まだ始まったばっかりだもの。しばらくは
──それに、待っていたいから。
バル様。あなたが”忘れた”って言うその日まで……。
ボクは、いつまででも待ってます。
「"まだ"って……なんだよそれえ! この袋、海に捨てていい?」
ミナミは鞄からカチャカチャと音のする小袋を取り出した。
中には
「ええっ! それは困るよ!」
「あーもう、決めた! わたし、コレを誰にも渡してやんないから! マコにもね!」
「ふ、ふうん。じゃあ、ミナミを
「へっ!? や──やれるもんならやってみなよ、受けて立つから!」
「ふふっ。冗談だよ」
「……ちょっと期待したのに」
「あはは」
彼女もフッと笑って、高く日が昇った青空を見上げた。
……大陸を
昨日までと違って空気が
あんなに大規模な魔法を使ったのに、減るどころかむしろ増えている。
ああ、不思議だな。すべては
このままあの虹が消えなかったら、
「マコちゃーん、ミナミちゃーん! 帰るわよ~!?」
ロゼッタさんが、ボクたちへ手を振った。
西のほうへ青い流れ星が飛び去っていくのが見える。
リリニアさんは水晶のソリに乗って、さっさと帰ってしまったみたいだ。
「……行こっか、ミナミ。
「あーあ。魔王がいなくなったら、勇者なんか必要ないじゃん」
「そんなことない。キミはいつまでもボクの勇者だよ、ミナミ」
「へっ?」
ボクは、ぐっと彼女に顔を近づけた。
あたたかい吐息がかかるくらいに──。
「……だって、ボクの”
耳元で愛情たっぷりにそう
「──うう~!」
「な、なに?」
「あなたって、
「えっ? ふふ、どうかなあ」
……ボクも、そう思うよ。
ボク、サキュバスに転生しちゃいました…! 三ヵ路ユーリ @yuri_kgm
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます