最終話『終焉』

「飄堂さん」

 先輩刑事に肩を抱かれた美晴は飄堂に声をかけた。

「ありがとうございました。真相を突き止めたい私の願いを叶えてくれて」

「しっかりと罪を償って、もう一度自分の道を歩いてください。あなたにはできる力がちゃんとありますから」

「どうでしょう。こんな私に、本当に未来なんてあるんでしょうか」

 自虐的に笑う美晴に対し、飄堂はかぶりを振った。

「僕が美晴さんにいった魔法のこと覚えていますか」

「無魔法使いにしかできない魔法がある?」

 そうそれ、と人差し指を立てた。

「僕は魔法が使えない代わりに魔法使いにはできない特殊能力があります」

 飄堂は左手を差し出した。美晴もそれに応える。その瞬間、美晴の左手に静電気のような衝撃がはしる。それと同時に美晴の頭の中にある画像と鷺宮美空の声が浮かび上がった。

 それは家族との断片的な記憶であり、そのどれもに美晴の晴れやかな笑顔が写っている。

『美しい晴れやかな笑顔で笑う美晴。私の大好きな美晴にもう一度会いたい。社会人になった今、妹の笑顔を私が咲かせたい。私にしかできない、私だけの特別な妹──……』

「これは美空さんの最後の想いを具現化したものです。僕は右手に触れたものの記憶や感情を読み取り、左手でそれを触れた対象に送ることができる。僕はこれを『以心伝心シェイク』と呼んでいますが、これは想いをつなぐ必要な能力だと思っています。あなたに美空さんの想いが少しでも理解出来たのなら、美空さんの分まで、強く明るく生きてください」

 美晴は飄堂の言葉を最後まで聞けずに泣き崩れた。その泣き声が室内にこだまする。

 泣き声を聞こえないようにするのは魔法でも叶わないようで、魔法管理庁長官である鷺宮清史郎ですら天を仰ぎ泣くほかなかった。

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無魔法使いの秘密の魔法 歌野裕 @XO-RVG

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