ゆっくりと読まれる詩

 私は死にたいか

 いやいや 決して死にたくは

 ない


 私は消えたいか

 いやいや 決して消えたくは

 ない


 猜疑にまみれた心が

 偽証を見つけ出す


 私は死にたいか

 いやいや 決して死にたくは

 (ピアニッシモ)ない


 私は消えたいか

 いやいや 決して消えたくは

 (ピアニッシモ)ない


 衰弱した意志が

 打ち消しの語を霞ませていく


 ないものではなく

 あるものを数えたてよう

 それが 生き延びるコツだ


 私になにがあるか

 腕ではなく 脚ではなく 口蓋ではなく 静脈ではない ものがある


 私になにがあるか

 金ではなく 職ではなく 時ではなく 愛ではない ものがある


 外に出るたびに

 ふと眼にとまる 小さきもの

 人に接するたびに

 ふと心をかすめる 柔らかなもの


 それが最後の砦だ

 自壊を食い止めるかすがいだ


 否定によって肯定にたどり着く

 神学のひそみにならった

 ありふれた生活の歌

 ひとりひとりの魂の詩篇


 注連縄しめなわのような希死念慮が

 ほぐれていく

 いつも間近にあった

 寛解の足音が聞こえてくる

 春の風が待ち遠しい

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